「しかしまあ、あれだな。」
ここは志貴が通っている学校。一応世間には進学校として見られている学校である。
そしてここは3年生の教室。教室には殆どの学生が集まっていた。
志貴は机に突っ伏しながら大きく深呼吸をしていた。よほど急いでいたのがその姿を見るだけで分かる。
そんな志貴の傍に一人の少年がいた。
赤茶げた毛にピアスが良く目立っており、およそ進学校では見られない姿をしている。
「お前の体は不思議だらけだな。普段は貧血で倒れる貧弱ぶりくせに、やばい状況に陥った時は超人的な能力を発揮するからな。どうなってんだお前の体は?」
赤毛の少年は考え込む。
「ホント、俺もそう思うよ有彦…。」
志貴は残った体力を使い自分の傍にいる少年に応えた。
有彦と呼ばれた少年は志貴の言葉と状態を見て益々思考の深みにはまっていった。
そんな二人を気にもとめず、チャイムは一時間目の始まりを告げた。
一時間目が終わり、学校の中が活気に溢れ始めていた。
友人と喋り合ったり、次の授業が体育の者は更衣室へ移動したりと様々な者達で学校は騒がしくなる。
そんな中で志貴と有彦は自分たちの教室で喋り合っていた。
「しかし今日は朝からいるんだな、有彦。」
「な〜に昨日はたまたま早く寝かされ…もとい早く寝たからな。」
と言いながら有彦は顎をさする。よく見ればそこには薄っすらと馬の蹄のような痕があった。
「有彦、それ…」
「おお、それで思い出したぜ遠野。」
志貴の言葉は有彦によって打ち消された。しかし志貴は有彦の言葉によってそんなことなど頭の隅に消えていった。
「お前さんのことだ、知らないはずだから教えてやるぜ。なんでも昨日、殺人事件があったみたいだぞ。」
「えっ…。」
殺人事件―――その言葉に志貴は過去二度あった殺人事件を思い出した。
表向きには二つとも未だ犯人は見つからず迷宮入りとなっている。
だが志貴は知っている。既にこの世にはその二つの事件の犯人はもういないことを。
何故ならいずれの犯人も志貴によって殺されたからだ。
そう、彼が持つ直死の魔眼によって―――――
「けどなあ、今回のは今までのとはちょっと違うみたいだぜ。」
「そうなのか?」
有彦の言葉に再び志貴は自分の考えを頭の隅にやった。そして安心なのか不安なのか複雑な心境になる。
「なんでも今回のも猟奇的ではあるんだが…、ほら今までのは血が抜かれるってやつだっただろ。」
「ああ、そうだな。」
「でも今回のはなんとバラバラ殺人だそうだ。」
「バラバラ殺人?」
「おう。数人の死体が切り刻まれたらしい。しかもだな…」
「しかも?」
話がのってきたのか有彦は抑揚をつけながら面白おかしく話し始めた。
だが志貴は真剣に聞いていた。
「警察の見解によると熊の類かもしくは斧の様なものが使われたと考えているらしいぜ。」
「熊?斧?」
「俺も良く分からんがそんだけ凄い惨状だったってことだろ。」
志貴は有彦の言葉を聞いて今回のはおそらくアレは関わっていないと結論づけた。
「いや〜、昨日はほんとに早く寝て良かったぜ。下手すりゃ俺も仲間入りしてたかもしれないからな。」
そして二時間目を告げるチャイムが鳴る。
「おおっと、それじゃな遠野。」
「ああ。」
有彦は志貴から離れ自分の席へと向かう。志貴も次の授業の準備を始める。
自分がまた事件に巻き込まれるなど想像もせずに・・・・・・・
太陽は高く上がり時刻は昼となっていた。学校は今まで以上に騒がしくなる。
「さって今日はどうするかな?」
志貴は今日の昼食のメニューを考えた。そんな志貴にある一人の人物が話しかける。
「あの、遠野君。」
志貴は呼ばれた方向を見て驚いた。
「シエル先輩!」
そこには志貴にシエルと呼ばれた私服を着た女性が立っていた。
眼鏡を掛けて、青髪にショートカット、顔立ちは端正なもので間違いなく美人に入る女性であった。
そんな彼女が志貴の隣へと来る。
実は彼女、シエルはここの学校の卒業生なのだが、いろんな理由をつけては志貴に会いに来ている。
故に他の男子生徒は彼女が来る度、志貴に殺気を解き放っている。
(また遠野か・・・)
(あのエロ学派めーーー)
(ああ今日もシエル先輩はお美しい)
などど人それぞれ己の思いを熱く解き放つ。
志貴はその殺気を感じ、すぐこの場を離れようとする。
「あの何か用ですか?先輩。」
「ええちょっと用がありまして、そのついでに一緒にお昼ご飯食べません?」
そこに爆音を撒き散らしながら一陣の風が舞った。
「お久しぶりです!シエル先輩!」
その風を起こしたのは笑顔溢れる乾有彦その人だった。
「あらこんにちわ、乾君。」
「昼飯ですか?俺もご一緒させてください!」
「ごめんなさい乾君、今日はちょっと遠野君に用があって二人で話したいんです。」
シエルの言葉を聞き、笑顔であった有彦の顔が泣きっ面に変わり果てていく。そして・・・
「ちくしょーーーー!!覚えてやがれ遠野ーーーーーー!!」
漫画のような涙を流し再び爆音を纏い有彦は去っていった。
「何なんだ、あいつは・・・。」
一部始終を見ていた志貴はただ呆れるだけだった。
「じゃあ行きましょうか、遠野君」
シエルは全く気にもせず志貴に話しかけた。
「先輩・・・。」
ほんの少し志貴は有彦に同情した。
志貴とシエルは茶道室で昼食を摂っていた。
ちなみに志貴の分はシエルが既に弁当として作っていた。
そして互いに食べ終わり、お茶を飲みながら一休みしていた。
「ところで先輩、俺に何の用ですか?」
「ああ、そうでしたね。」
どうやらシエルは志貴とのほほんとした食事と摂っていたため当初の目的を忘れていたみたいだ。
「遠野君は昨日あった殺人事件を知っていますか?」
「ええ知ってます。今日有彦から聞きました。」
「そうですか、なら話は早いですね。今回の事件は関わらないでください。」
シエルは真剣な顔で志貴に言い放った。
「ちょっと待ってください!先輩がそんなことを言うってことは今回も吸血鬼絡みなんですか。」
志貴はシエルの言葉に即答した。
「・・・・・・・わかりません。」
「わからない?」
二人の顔の表情はそれぞれ別の意味で曇っていた。
「私は町の浄化をしている最中に偶然現場に通りかかって調べたんですが、どの死体にも血を吸われた痕は残ってませんで
した。」
その言葉に志貴は安心した。
「ですが現場を見る限り、とてもじゃないですが只の人がやったものとは思えませんでした。」
シエルの顔がもう一つの・・埋葬機関に携わる者の顔と変わっていた。
志貴はシエルを見て現場がどれ程の惨状だったかを理解した。
「くっ・・・。」
突然シエルは腹をおさえた。
「どうしたんですか、先輩!」
慌てて志貴はシエルへと駆け寄った。
「大丈夫ですよ、遠野君。」
「先輩・・・。」
志貴はシエルを見詰めていた。
――ああ!遠野君が私を愛の溢れる瞳で見詰めてくれてます!!!――
シエルは志貴を勝手に美化し、涎を少し垂らしながら己の妄想へと走りかける。
そんなシエルを見て志貴は恐怖心を覚えたが、シエルの容態が気になっていたため現実へと引き戻そうとした。
「先輩、先輩。」
だがシエルは戻らない。
「先輩!先輩!せんぱーーーい!!」
「はっ!!!」
志貴が大声で呼びかけてやっとシエルは戻ってきた。
「いけません私としたことが・・・。」
言いながら垂れていた涎を拭くシエル。
「先輩どうかしたんですか?」
志貴はシエルにシエルの腹がどうしたのか聞いた。
「あっ、ええとですね。先程私は現場に行ったと言いましたよね。」
「はい。」
「実はそこに人がいたんです。」
「本当ですかそれ!」
志貴は驚愕した。そんな志貴を見てもシエルは続けた。
「何者かは分かりませんでした。せいぜい分かったのが服が黒ずくめであったことと・・・」
「黒ずくめ・・・。」
志貴はその言葉に朝見かけた青年を思い出した。
「それとかなりの実力の持ち主でした。このお腹はその者と成り行き上闘うことになってその時にやられたものです。」
「そうだったんですか・・・。」
「はい。迂闊にも逃がしてしまいましたがね。はっきり言って今回の事件は分からないことが多いです。」
「確かにそうですね。」
「で・す・か・ら!高校三年生で忙しい遠野君は関わらないでくださいね。」
シエルは志貴にしっかりと釘を刺した。
「はい。わかりました。」
そんなシエルを見て志貴は頷けずにはいられなかった。
そして昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。
「もうこんな時間でしたか。それでは私は失礼します。」
シエルは立ち上がった。それにつられて志貴も立ち上がる。
「そうですか。それじゃまたね、先輩。」
シエルは志貴に笑顔で応え自分の荷物を持って茶道室を去って行った。
志貴は去っていくシエルを見送りながら自分も教室へと移動した。
時は流れて学校は放課後となっていた。
太陽は沈みかけ、それが赤く燃え上がっているかのように見え町を赤く彩っていた。
志貴はそんな赤く彩られた道を一人で帰っていた。
――殺人事件か・・・・――
その言葉が志貴を憂鬱とさせた。
何故なら過去二度あったその事件に志貴は大きく関わり合い、そしていろんな事を経験した。
出会ったこと、別れたこと、得たこと、失ったこと、守ったこと、そして殺したこと。
遠野志貴という人間は本当にいろんな事を経験した。
――今回の事件はもう何事もなければ良いな――
志貴は考え事をしながら歩いていた。だから自分がもう屋敷の門の近くまで来ているのに気付かなかった。
「お帰りなさいませ志貴様。」
「うわあああ!」
志貴は驚きのあまり尻餅をついた。
「あの・・・、志貴様?」
「ああ、翡翠か・・・。」
翡翠に呼びかけられ志貴はやっと自分の状況を理解し、立ち上がった。
「どうかなさいましたか?」
「いや、只考え事をいていただけだよ翡翠。」
そして志貴は翡翠に自分の鞄を渡した。門をくぐり屋敷に入ろうとする。
「志貴様。」
「なんだい翡翠。」
翡翠の呼びかけに屋敷に向かいながら志貴は応える。
「志貴様にお客様がみえています。」
「俺に客?」
幻は奏でる
在らざる世界を
在らざる未来を
ただただ幻は奏でるだけ―――――
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後書き
いきなりですが片月さんのところの掲示板を読まれていない方がいると思うので言います
前回の秋葉が屋敷に長くいたことですが、理由は志貴のためです
学校側には志貴が屋敷に帰ってきた時に志貴が体が弱いため、
遅刻してしまうことがある旨を既に伝えています
私はそういう設定で書きました
ですから秋葉は未だに屋敷に残っていたんです
書くことを失念していました本当にすいませんでした
これからはこんな事がないよう努めると決めたヴァイ オリンでした