士郎は何度もノックをしたが何の反応もない。あの後少し頭を冷やしてから自分の部屋の前に戻ってきたのだが、部屋の中は静かだった。
中には凛かリリーがいたはずなのにと思い再度ノックしたが何の反応もない。
「・・・・・・・・・・」
(もしかして寝たのか?)
士郎は溜息をつき自分の悪運の悪さを呪った。
再度外に出た。月の明るさが回りを照らすライトのようだった。そこのは一人の役者が立っていた。
「セイバー・・・」
戦っているの彼女を獅子とするならば今の彼女は戦場に咲く一厘の花のように優雅だった。あちらはまだこちらに気づいていないようだった。士郎はずっとセイバーを見つめていた。潮の香りがよりいっそう強くなった気がした。役者はどこかを見ていた。否、どこも見ていなかった。遠くここにはない遥か彼方の地。アーサー王として戦い治めまた戦い傷つくことを幾度となく繰り返してきた。それが今ではこの極東の地にいるのだから。
その姿を見るのは士郎という観客が一人。それでも舞台は成立していた。それとも観客は居ないのかもしれない・・・
「士郎・・・?」
セイバーは士郎の側まで来ていた。それに気づかなかった士郎は数歩後退し足が縺れこけた。すっとセイバーの手が伸びてくる。一瞬躊躇したが、士郎は手をとった。
「悪いなセイバー。」
「どうしたんです?士郎が転ぶとは・・」
「ちょっと・・・な」
本当のことなんて言えるわけがないので、なんていったらいいのか分からずはぐらかすことしか出来なかった。
「?・・・それにしてもこんな夜中にどうしたんですか?」
「・・・・・・・・・・」
部屋に入れないから来た。なんて言えるわけがない。士郎は何で今日はこんなにも答えることができない事ばかりが起こるのかが知りたくなった。
「そ・・・そんなことよりセイバーはどうしてここに?」
セイバーは士郎の顔を少し見つめる。
「なんとなく・・・なんとなくです。」
そう答えたセイバーの顔は少し寂しそうだった。
―ザッ・・・
死の気配。威嚇ではなく標的を狙う獣のよう。走る音はない。あるのは波の音。士郎の呼吸が速くなる。武器を投影し先手を狙う。集中し回路を開こうとした。金属のぶつかり合う音がした。そちらに目を向ける。迫りくる鋭い杭。鈍く光りながら距離を詰める。士郎では視線で追うことは出来てもよけることが出来ない。
ザッ キィン
鋭く踏み込むと同時に剣で弾く。武装を済ませたセイバーは一呼吸し草陰に迫る。ジャララララと音をたてながら襲ってくる。苦もなく再び弾きさらに間を詰める。敵は無駄だと知り叢から飛び出した。
「なっ」
「どうしてあいつが!!?」
でてきたのはキャスターに殺されたはずのライダーだった。ライダーはセイバーに近づいてくる。杭のような先端がまたもやセイバーに襲い掛かった。がまたしても不可視の剣に弾かれる。
「セイバー!!」
ライダーの狙いはセイバーの動きを抑制することにあった。反対側の輪状の部分がセイバーを捕らえる。そして鎖が二重三重と巻きつき始める。すぐさまセイバーは鎖を外そうとしたが見た目以上に頑丈なのかいくらセイバーであってもすぐには外せないようだ。ライダーはそれを確認するとセイバーを引き寄せはじめた。そしてすぐさま勢いをつけ自販機にへとセイバーを叩きつける。休息などなくその直後にはベンチに、地面に、電柱に、花壇に叩きつかれる。士郎はただそれをみていた。投影をして武器を持っても相手はサーヴァントなのである。士郎がサーヴァントに勝てないことなんて百も承知だ。こんなときに自分が無力であると自覚すると吐き気が満ちはじめていた。
「―――Vier Stil Erschiesung……!」
魔力の弾丸。ライダーは不意打ちの攻撃に対しても冷静に対処する。しかしそうすることによって発生するセイバーの対応に対し隙が生じる。それがほんの一瞬だとしてもセイバーの勝機に変わってしまう。ライダーがセイバーを振り向いた時にはすでに不可視の剣が目前まで迫ってきていた。
「ここまでです。ライダー。」
セイバーの剣の切っ先はライダーの首元に突きつけられていた。一思いにやれるがセイバーは先程のガンドを放ったマスターである遠坂凛の指示を待っていた。
「・・・何やってるのかと思って外に出てみたらセイバーが押されてて士郎はぼっーと突っ立ているしライダーは召還されているし・・・昼間のこともまだ一つも解決していないってのに!!」
苛立っている凛をよそに士郎はセイバーの元に近寄っていく。
「ライダー・・・前回はというか聖杯戦争のときのマスターは慎二だったよな。」
「ええっ・・・。しかし今回はまったく関係ないといっていいでしょう。」
「ライダー・・・・・・誰に召還されたんだ?今のお前のマスターは誰だ?」
沈黙は続いた。しかし休息はない。
「■■■■■■―――」
空気が振動する。先程とは格の違う死が漂う感覚。空気だけではなく地面も振動する。
咆哮が鳴り響く。
「まさか・・・あいつも?」
「なんかの間違いでしょ・・・」
士郎たちは咆哮のしたほうを警戒する。セイバーはすぐ近くのライダーの警戒も怠らない。凛はいくつかの宝石を用意する。士郎は投影を開始した。が二人ともこれでは足りないと思っていた。凛の宝石は聖杯戦争時に用意していた宝石に比べ質も魔力の量も比べ物にならないくらいのものしかない。士郎はアイツに対してどの武器が通用するのかイメージが追いつかない。それでもなにか対抗するものがないと身を守れない。
木の倒れる音がする。激しく薙ぎはわられるような轟音。脂汗がにじみ出るような感覚。
「来ます」
現れたのは鋼のような肉体をし、人間とは思えない巨大な身長。目から放たれる殺気はそこにいるだけで気絶してしまいそうだった。そいつの名はヘラクレス。クラスはバーサーカー。ギリシア神話の英雄で十二の試練を乗り越えた。その実績は伊達ではなく、セイバーとアーチャーでは倒すことはできなかった。最後はギルガメッシュに殺されたがそれでもなんともいえないぐらいの最恐のサーヴァントである。
「■■■■■■―■■――」
バーサーカーの剣が振り下ろされる。そこに一風の風が攻め込む。
「士郎、凛。バーサーカーは私に任せてください。その間ライダーをお願いします」
「善処するわ」
敵は二体。昼間とは違い正体の分かる奴らだが危険であるのはこっちである。死と紙一重の戦いになる。士郎と凛は拘束のなくなったライダーに警戒する。迫りくる剣は士郎と凛を通り過ぎセイバーたちに迫る。
「なっ・・・」
「えっ!!?」
驚くのは当然だ。最初は士郎たちに襲い掛かってきたはずが狙いがバーサーカーへといきなり変更したからである。
「セイバー・・・下がりなさい。このもう一つの戦力は私が潰します。」
「!!?なにを言っているんですかライダー!!?」
ライダーは持ち前のスピードを駆使しバーサーカーに対抗する。セイバーはバーサーカーの攻撃を受け流し抵抗する。
「おかしいわね。」
「なにがおかしんだ?」
「セイバーが最初にバーサーカーと戦った時は士郎がマスターだから全てのランクが下がっていたわ。だから今のセイバーの戦闘能力が上がっていようが驚かないけど、でもライダーもあの時とは別物だとしたらそれはいろいろと問題が上がってくる。例えば、マスター。慎二だったでしょ?てことは間桐にライダーを呼べるなにかがあったといえるわ。」
「でも今慎二は・・・」
「もちろん戦えるような状態ではないわね・・・」
「間桐以外には考えられないのか?」
「非常に少ないわ。まずサーヴァントを召還できるのは魔術師に限られている。しかも聖杯戦争を知っているのは極稀と言ってもいいわ。しかもサーヴァントのクラスとか英雄の数とか考えると・・・」
士郎は考えこんでしまった。凛は三つ巴状態のサーヴァントの戦いを観察する。疾風、突風、そして暴風。この三つがまるで嵐のように激しさが増していく。バーサーカーの左手にはライダーの鎖がまきついている。あのバーサーカーに力で抵抗していた。
(やっぱりあの時とは違う)
凛の思考は、ライダーが言った<もう一つの戦力>にまで行き届く。
(もう一つの戦力・・・なにか知っている口ぶりだった。・・・たくっ!なんちゃって魔術師といい、昼間のゴーレムといい、アーチャーやリリーといい、ライダーやバーサーカーの再来とかもう一つの戦力とか今なにが起きようとしてるのよっ!!)
凛はいまだに止むことのない攻防を見る。狂戦士と騎士王そして蛇のような動きをする英雄。敵に圧倒されることなく立ちはだかり迎え撃つ。宝具という切り札を隠しながら相手の名を探り当てる。そんな戦いはあの聖杯戦争のときに何度も見たはずなのに、この戦いはそれ以上に魅入ってしまっていた。
セイバーの剣はバーサーカーを傷をつけることは出来ないにしても押していることに変わりはない。しかしライダーの動きはおかしかった。なぜか急いでいる。精密さは凄いものの力で押し勝とうとしているからである。動きに乱れが生じ始めた。バーサーカーの動きが今までの比ではない。暴風はさらに成長をし、全ての風を飲み込まんとしている。
「セイバー!!宝具を使いなさい!!」
「分かりました・・・・」
力が上がり、速さもあがっているので一旦距離をとらなければならないと思っていたが、それを許すほどバーサーカーの戦闘能力は甘くはなかった。
狙え、 一斉射撃
「こうなったら・・・ Fixierung,EileSalve――――!」
凛のガンドがセイバーとバーサーカーの間に何十も打ち出される。しかし、この程度ではバーサーカーは怯みもしない。
トレース オ ン
「――――投影、開始」
士郎はあいつの剣ではなく、ギルガメッシュと戦ったときに使った武器を思い浮かべた。なぜならあアーチャーの剣があいつに効くとしても自分自身の技術が追いついてない分負ける確率が高い。だからひとつの剣を思い浮かべた。
『ミミングスの剣』
デンマーク人の事績の第3の書に登場する王子ホテルスが使う剣。
神を騙る古き種族の王オティヌス(オーディン)の子バルデルスの脇腹を貫いて斃し、オディヌスが復讐のために生ませた半神のボーウスに致命傷をあたえた。
トレース オ フ
「――――投影、完了」
士郎は走り出した。バーサーカーの攻撃を見極める。あまりにも早く荒々しいものだったが、セイバーとライダーが抑制している分なんとかついていける。セイバーは何十何百というバーサーカーの攻撃を受け流す。それを見ていた士郎にはある一つのチャンスを見つけることが出来た。それはバーサーカーの攻撃が上から下へと振り下ろされる時にセイバーは右のほうに受け流す。そのときにバーサーカーの左半身が無防備になる。そこに切り込むことが出来れば勝機が見えてくるかもしれないのだ。チャンスは一度。士郎は一気に飛び込んだ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――■■
成功した。その隙を逃さない。セイバーは右脇を疾風の如くすり抜け肩から腕にかけて斬りつけた。ライダーは杭のような部分をバーサーカーの首に突き刺した。
「士郎!!」
目の前には何事もなかったかのように立っているバーサーカーがいた。
「なんで・・・」
身体に戦慄が走った。逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロ・・・
警鐘がなる。理解が追いつかない。なぜ?今なにが起こった?イマアイツハタッテイラレル?
「―――!!!!」
士郎は誰が自分を呼んでいるのか分からなかった。セイバーの声なのか、凛の声なのか・・・
――士郎、・・・・――
「お・・・や・・・・・じ?」
「こんなときに寝ぼけていて本当にお前は自分に勝てるのか?」
「・・・アーチャー。」
ゴット・ハンド
「奴の宝具は十二の試練だ。一回や二回斃したところであいつはまた仕掛けてくる。そんな奴の前で惚けらるとはある意味バーサーカーよりも凄いかもしれんな。」
というと再開した戦いの場へと終止符を打つかのように弓を引いた。
トレース フラクタル
「―――投影、重装」
我が 骨子は 捻じれ狂う。
「―――I am the bone of my sword.」
カラドボルグ
「―――“偽・螺旋剣”」
セイバーとライダーはアーチャーに気づきその場から急いで距離をとった。しかし、バーサーカーはその矢から逃げることも打ち落とすことも出来なかった。直撃したバーサーカーは爆炎した中で咆哮する。
「■■■■―■■――」
「さすがにしぶといな・・・」
アーチャーはそういいながら干将莫耶を握り締める。向かい来る狂戦士に立ち向かうのは三体のサーヴァント。
「おかしい。聖杯戦争が終わったのになんで四体も召還されているの!?まるでこれから聖杯戦争が始まるとでもいいたいわけ!!?」
「リンはやっぱり気づいたのね・・・?」
「イ・・・・リア」
「こんばんは、シロウそしてリン」
イリアがこちらに向かって歩いてくる。士郎と凛は警戒を強くする。
「そんなに怖い顔しないで。今日はバーサーカーを迎えに来ただけだから。ねっ帰ろバーサーカー。」
「逃がすと思うか?」
アーチャーは剣を構える。
「セイバー。アーチャーを止めなさい。」
「なっ・・・」
「・・・・」
一瞬の沈黙。セイバーの答えは、
「分かりました」
「どういうつもりだ!」
「イリアがここにいる。この世界に存在していること自体が証明してくれるわ。」
「だからどういうことなんだよ」
「もう一つの聖杯戦争が始まる・・・」
「もう一つの?」
「あの時完璧にセイバーの宝具で破壊した。なのにも関わらずサーヴァントが召還されている。つまりこれからなにかが始まる。私達にも関係あるのなら聖杯戦争。でしょアーチャー。」
凛は答えをイリアにではなくアーチャーに求めた。アーチャーは不敵に笑っていった。
「そうだな。が、まだ準備期間中だ。なイリア。そしてライダー。」
ライダーとイリアは警戒をし始めた。なのにまだ笑みを絶やさない。
「アーチャー。貴方はなにを知っているのですか?」
「ほぼ全てだ。例えば浮かび上がる島とかな・・・」
「バーサーカー・・・あいつを捕まえなさい。全てを吐き出させなきゃいけない。」
「セイバー。アーチャーはもういいからバーサーカーを止めて。」
「イリアここでバーサーカーを失うといたいのではないのか?大軍には勝てなくなってしまうだろ?」
「・・・・・・・本当に分かっているみたいね・・・・バーサーカー。やっぱり今日は帰るわよ。早くしなさい。」
そういうと士郎に振り返り。
「じゃあねシロウ。もう貴方のことは殺さないから。」
そう残して去ってしまった。ライダーもいつの間にか消えていた。そこには二人の魔術師と騎士王。そして今の状況を全て理解している弓兵が立ち尽くしていた。
Rider/
ある一つの部屋のベランダの窓に背を預ける桜。夜風が生暖かく月明かりが教室のように照らしていた。明るいそう感じながら桜は待っていた。髪を揺らしながら過ぎていく風が変わった。顔を上げるとそこには長身で髪が長くアイマスクのような物を眼にしている女性が一人立っていた。桜はそれをみて一言おかえりなさいと言った。ライダーは無言で桜を見守っている。そのまま何事もなく時間は過ぎていく。
「先輩は?」
「・・・・・・・・」
「・・・・そう。お疲れ様ライダー。」
会話はそれで終わった。そしていつの間にかライダーの姿はどこにもなかった。
Rider /end