七夜が窓から外に出たその頃、
「──────美少年の気配がする・・・」
どこかでムクリと何者かが体を起こし、ボソリとそう呟く。
「お似合いの子なのか確認しないでおられようか、いやない!」
一人反語を使ってまで盛り上がるとソレは素早く動き出した。
その動きは人間とは言い難く、獲物にターゲットを絞り、いざ襲いかからんとしている肉食動物のようであった。
PANIC
「!?」
庭に出た七夜はゾクリと悪寒を感じ、何者かが異常な早さで接近している気配を察知した。
素早く黒手袋を装着すると、身構える。
───屋敷内にここまで人間離れした者が・・・・・・
そう考えた瞬間、七夜は「ああ」と納得した。
有間家で人の領域を逸脱した者はただ一人しか居ない。
恐らくソレだろう。
ナイフのグリップに掛けていた手を離すと身構える。
そして───
「志貴ちゃんに似あ「喰らえ!!」」
襲いかかってきたソレの顔面を左手で押さえ、鳩尾に掌打を浴びせる。
そして顔面を掴んだまま
「吩っ!」
ゼロ距離の衝撃を脳に与えた。
「カハッ」
ソレは抵抗する暇なく大地に伏した。
「志貴は毎日これを相手しているのか・・・」
外傷系の殺し技が効きそうにもなかったと判断した七夜の攻撃は確かに当たってはいた。
しかし、
「また会おう明智君(仮称)!」
目を離した一瞬の隙をついてそれは姿を眩ました。
「──────正真正銘の化け物か・・・」
七夜はそう呟かずにはいられなかった。
扉の前に立ち、軽く深呼吸をする。
その深呼吸は何を意味していたのか。それは七夜にしか分からない。
七夜はドアノブに手を掛け、ゆっくりと回そうとして手を止めた。
「志貴も七夜もどっちも綺麗よね」
「そうだな」
「ねぇ、姉さんはどっち?」
「何がだ?」
「や、二人で分け合うとしたらよ」
「・・・・・・イヤ、何故わける必要がある?志貴は志貴のものであってモノではないぞ」
「だって志貴も七夜も可愛くて綺麗だもん。誰かの手に落ちる前にしっかり捕まえておかないと」
「──────そんな風に暴走するから志貴に怒られるんだ・・・」
中からそんな声が聞こえ、僅かに緊張していた何かが解れる。
七夜はホッと小さくため息を吐くとドアノブを回した。
「ようやく来たか・・・」
「志貴が来ると思ったけど・・・ま、七夜も綺麗だから大歓迎よ」
ドアを開けた瞬間、姉妹は七夜に対照的な出迎をした。
「──────志貴がノートを忘れたのは必然でしたか」
七夜は深々とため息を吐く。
「勿論。これからの話しもしたくてね」
ニッと笑う青子に
「それより―――どこからそのような情報をつかんだのだ?」
険しい表情の橙子。
対照的ではあったが、根本的な質問事項は同じであった。
それは即ち、
『危険なことはしていないか』
ただその一点に絞られていた。
七夜は二人の過保護ぶりに僅かに苦笑する。
「何よ」
「何が・・・言いたい?」
「・・・あまりにも過保護が過ぎるのではないかと・・・・・・」
ノートを隅々まで読み尽くし、危険な匂いを嗅ぎ取ったのだろうと七夜は感心する一方、この二人の溺愛ぶりに笑いをかみ殺すのに必死だった。
「なっ!?」
「───否定はしない」
言われたことに驚く青子と表情を変えずにキッパリと言い切った橙子。
「───その様子だと、裏の裏まで調べたようですね」
「ああ。アレはフリーの人間がやるべき仕事ではない。組織から協会が譲り受けた厄介な一件だったからな」
「え?あんなのが?」
「──────アレを簡単なものと判断するお前の神経を疑うよ・・・」
橙子は冷たい視線を青子に向ける。
そして一冊のバインダーを取り出すとそれを無造作にテーブルの上に投げた。
「日本に進出した新興組織と大陸のはぐれ術師の連中が裏で糸を引いていた。なおかつ餌として用意したのはある教会から強奪された代物ときた・・・事の経緯を聞きたいものだが」
「やるじゃん七夜」
「───少しは黙ってろ」
グッドマークを出す青子の脳天に橙子がハードカバーの大判をぶち当てる。
「のぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっ!!!!」
バタンバタンとのたうち回る青子を無視し、橙子は七夜を見る。
「獲物は教会に郵送済み。監視していた阿呆は協会に報告後組織に引き渡し、そして新興組織は潰された―――以上です」
「・・・・・・ナイス」
「んなわけあるか」
橙子は起き上がろうとしていた青子の脳天にかかと落としを喰らわせた。
「───それ以上に聞きたいのはどこからこんな仕事のネタを仕入れてきたかだ・・・」
「―――そこに転がっている先生が前に言っていましたから。『小遣い稼ぎがしたかったら組織に行って私の名を出してみなさい』って。やってみたらすぐに問題山積でどこかに回そうとしていたらしい仕事をいくつか見繕ってくれました」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・元凶はお前か」
直死の魔眼ならぬ即死の魔眼で青子を威圧する橙子。
「あ、あははは・・・・・・そんなこと、言った記憶ない・・・・・・」
確かに言った。しかしそれはとてつもなく恥ずかしい記憶でもあったために本人に封じられていただけだった。
青子は言うことも出来ずに橙子の攻撃を受けるしかなかった。