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『では、暫く遠野の屋敷に滞在すると?』
応接室を出た志貴は老人にマンションの件で断りを入れようと電話をした。
「ああ、そうなる。マンションの件は――――」
『セーフハウスとしてご利用ください。鍵もお渡ししますので』
「・・・金の無駄遣いでは?」
『既に七夜の物件となっていますので問題ありません』
志貴は老人や黄理の金銭感覚に軽いめまいを感じた。
月光ノ元ニ流ルル風
部屋に入ると志貴はすぐに室内のチェックに取りかかった。
コンセント周りやその中、照明器具の裏などを中心に入念に調べる。
「二カ所・・・か」
照明器の裏とコンセントの内部にあった盗聴器を机の上に放ると小さく息を吐く。
「遠野四季の部屋だっただけに・・・一つは反転した時すぐ分かるようにだとは思うが・・・これは俺の行動を探るためか」
「失礼します」
志貴の思考はメイドの入室で一時中断された。
「どうぞ―――何か?」
「ベッドメイクに参りました」
「・・・・そんな事までするの?」
ホテルにいるかと呟く志貴にメイドは一礼すると手慣れた動きでベッドメイクに入った。
「確か・・・翡翠、だよね。昔一緒に遊んだ」
ピクリと翡翠の動きが止まる。
「―――はい。ですが今のわたしは使用人で、志貴さまは主です」
ベッドメイクの手を止めて志貴を見つめる翡翠に志貴は小さく頭を振った。
「俺はここの客人だよ。遠野の人間ではない」
「ですが、志貴さまはわたしの主です」
キッパリと言い切る翡翠にため息を吐く。
「教育が行き届いているな・・・そんな風だとここを追い出されたら大変だと思うよ?」
「え・・・?」
「遠野秋葉が反転してしまったら遠野家はお終いだ。今のところその様子はないけどね」
「・・・・・・・」
深刻な顔をする翡翠を見て小さく息を吐くと志貴は軽く頭を下げる。
「ああ、不安にさせて済まない。まあもしそうなっても一門の誰かが再雇用してくれるだろうし、最悪でもうちのマンションに住めばいい」
「志貴さま―――?」
「君ともう一人の彼女とはまぁ何かの縁みたいだしね・・・」
―――何かの縁みたいね――――
あの人の台詞が記憶をよぎる。
「志貴、さま?」
「・・・・ああ、済まない。軽い目眩だ」
志貴の台詞に翡翠は慌てた様子でベッドメイクを急ぐ。
「姉さんから話は聞いています。無理をせず早く休まれた方が」
「暫く座って休んでいるよ」
「申し訳ありません」
―――懐かしい人達にあったせいか、この眼鏡の事を言われた事もあるけど・・・久しぶりに先生の事を思いだしたな・・・
深く息を吐いた志貴を早く休ませようと翡翠はいつもより早くベッドメイクを終わらせた。