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「黒崎さん、お出かけですか?」
「はい」
黒崎と呼ばれた青年は微笑して頭を下げる。
「今回も少し長いんですか?」
「二日ばかり出なければなりません」
「そうですか・・・志貴くんには」
「伝えてあります。有間さん。もし何かありましたらよろしくお願いします」
「ええ。わかりました。でも志貴くんはしっかりしてますから」
苦笑する有間夫人に青年の微笑は微苦笑に変わる。
「親以上にしっかりしていますから」
そう言ってもう一度有間夫人にお辞儀をし、その場を去った。
「黒崎さんって素敵よね」
「私も旦那が居なかったらアタックかけるのに・・・有間の奥さんが羨ましいわ」
「でもこの前女性と一緒に歩いていたわよ」
「えっ?!」
「女性は親しそうだったけど・・・黒崎さんはいつも通りだったわ」
「お仕事の関係者じゃないの?」
「そうかもね・・・黒崎さんってどんなお仕事をなされているのかしら」
「あ、志貴くんが来たわ」
主婦達は本を持って帰り道を歩いている少年を一斉に見る。
「ぁ、どうも・・・・」
少年はその視線に気付き、軽く挨拶をし、通り過ぎようとした。が
「志貴くん志貴くん」
主婦達は少年───志貴を呼び止めた。
「?」
呼び止められた志貴は少し困った顔をし、主婦達の方を向く。
「志貴くんのお父さんの事なんだけど・・・・いいかしら」
「お父さんが・・・何か」
不思議そうな顔の志貴に主婦達は僅かに罪悪感を覚えつつも興味と好奇心には勝てず、話を進める。
「志貴くんをおいて留守にしたりするじゃない。それでどんなお仕事なのかしらって」
「ご免なさい。僕、お父さんのお仕事に興味ないので分かりません。でも、お給料は充分頂いています」
それだけ答えると主婦達に頭を下げ、スタスタと歩き去ってしまった。
『──────』
主婦達は志貴の回答に呆気にとられ、見送るしかなかった。
「お父さん大人気だなぁ」
お父さんは目立つこととか嫌いなのに、行く先すべて何故かみんなの注目を浴びてしまう。
「目立ちたくないんだけどなぁ・・・・僕もお父さんも」
そんな事を呟きながら僕は走ろうとしたが、
「っ・・・っと」
眼鏡がずれ落ちそうになった。
ずれた少し大きめの眼鏡を元に戻す。
「やっぱり掛けっぱなしが楽だよ・・・」
別に目が悪い訳じゃない。
この眼鏡に度は入っていない。
でも、この眼鏡を掛けた方が気を楽に保てる。
だって、この眼鏡は特別な眼鏡だから─────
と、
「考え事しながら歩かないの。ぶつかって蹴り飛ばされるわよ?」
前方からそんな声がした。