「遠野」
「血相変えてどうしたんだよ」
「おま、何した!」
「何が?」
「だから何をした!?」
「有彦・・・意味が通じていないんだけど?」
「──────裏門から出ようとしたらゴツイ外人のオッサン達にお前呼んでこいって言われたんだよ!」
「相手、怒っている感じだった?」
「・・・いや、一応お前を知っているか聞かれて、呼んできて欲しいって」
「それは呼んでこいって命令調じゃないだろ・・・」
「だけどお前何を」
「弓塚さん、午後の授業遅れたら・・・」
「うん、説明しておくね」
「さんきゅ」
「え?おい!何が・・・・」
「乾くんはいなかったから聞いてないんだね」
「何がだよ」
「昨日呼び出しの手紙が来てたから今日の午後は抜けるかも知れないって言ってたんだよ」
「は?午後はズルか?」
「それが休み扱いにはならないらしいんだ」
「・・・あ〜・・・またお偉いさん達の席に呼ばれたって訳だ」
「みたい。顔には出さないけど、遠野くんとても疲れているみたい」
「そんなところまで知っているのは弓塚とヤツのメイドくらいだろうよ」
「え?」
「ま、明日何があったか聞いてみるかな」

 

「はぁ・・・」
「とんだ災難でしたね」
「ちょっとムッとしたのは確かだけど・・・」
「あれはどう見ても相手に非があります」
「そりゃあ喧嘩を吹っ掛けてきたのは相手だけど・・・あそこまで孤立されると」
「志貴さんに酷い事言うからですよ。少なくとも社交界抹殺くらいはされないと」
「いや、それはちょっと・・・・」
「姉さん。社交界抹殺はもうなっているようです」
「「え?」」
「今回の一件があのルートから流れたようです」
「あや〜・・・・恐ろしい事を。それだと社交界どころかあの人社会的に抹殺されますよ」
「え?ちょ、ええっ!?」
「志貴さまの事をあれだけ言った輩です。そのくらいは当然かと」
「あの方は海運関係でしたから・・・・顧客激減ですね」
「何故!?」
「あれだけの醜態を晒したのですから当然だと思われますが」
「・・・・・・確かに後半はあの人恥ずかしい思いしたかも知れないけど、そこまでダメージ受ける事!?」
「それは勿論です」
「───翡翠ちゃん、情報を流しましたね?」
「わたしは志貴さまの知人お二人に志貴さまが遅れた理由を述べただけです」
「翡翠ちゃん・・・恐ろしい子」
「姉さん程では」
「あ、あはは〜」
「・・・二人とも何したんだろ・・・」

 

「志貴さん宛に年賀状が沢山届いてます」
「そう言えば年賀状書いてない・・・」
「せめて送ってきてくださった方々には送らないと」
「琥珀さん、仕分け一緒にしてもらいますか?」
「あ〜・・・そうですね」
「仕分け?」
「地域別、国別にしておかないと分からなくなるから」
「志貴さん、これは大使館宛で問題ないと思います」
「あー・・・これも大使館宛で、この人は日本支社に届けたら大丈夫で・・・これは軍経由かな」
「大使館とか軍とか・・・兄さん宛に一体どれだけ来たのですか!?」
「29通です」
「朱鷺恵さんと有彦と弓塚さんと月姫さん以外は国外だよ」
「・・・・25通が外国だと言う事は分かりましたが・・・・蒼香から?」
「秋葉宛てと俺宛にわざわざ分けてあるねぇ・・・一緒に送っても良いのに」
「ふふふふふ・・・・学校が始まったらカタをつけてあげるわ・・・・」
「あれ?」
「どうかなされましたか?」
「えっと、3通程招待状も入っている・・・」
「あらあら・・・会場は国内ですから問題ありませんね」
「え?断るって選択肢は───」
「相手に恥ずかしい思いをさせるのですか?」
「うっ・・・でも、そんなところに行くような服は」
「心配ご無用!服はちゃんと用意してますよ〜」
「とほほほ・・・・分かったよ。行くよ」
「ちょっと強行軍になると思いますが、スケジュールはわたしが、護衛は翡翠ちゃんがしますから問題ありませんよ〜」
「え?でも秋葉は・・・・」
「そうよ!蒼香の所の新年会に乗り込んでいって・・・・」
「その日は絶対安静で眠っていますから問題ありません。ささ、お返事と打ち合わせをしましょう」
「え?あ、ちょっと・・・・」

 

「兄さん」
「うわっ!?はいっ!!」
「・・・・どうして兄さんは私が声を掛けただけでそこまで過剰反応するのですか?」
「えっと、条件反射というか、いつも怒られているからというか・・・」
「怒られるようなことをしているからではないのですか?」
「いやぁ・・・ごく普通の生活をしていても遠野家の規則に抵触していたりしていなかったり」
「兄さんは遠野家の人間ですから遠野家の規則に従うのは当然です」
「時間通りに帰ってきても誰と何処に行ったかとか聞くのも規則?」
「遠野家の長男としていかがわしい人間と友好を持つことは問題ですから」
「・・・・それって、アルクェイドやシエル先輩、有彦のことをいっているのか?」
「乾さんは兎も角、それ以外の方は兄さんに相応しくありません」
「もしかして、秋葉は俺のこと憎んでる?」
「なっ!?」
「少なくともアルクェイドは貴族だしシエル先輩は司教だぞ?遠野家ってそれ以上の権力持っているのか?」
「仕事が終わった以上帰るのが普通です!にもかかわらず未だにこの街で暇を潰している人達の何処がまともですか!」
「じゃあ秋葉の理屈でいうなら石油王の子が暇潰しに日本に来て偶然俺と友達になってもロクでもない奴なんだな?」
「具体的すぎますがそうなりますね」
「あー・・・・そっか。そう言う訳らしいからゴメン。そう言う訳なんで今日は・・・」
「シカタナイデスネ・・・ワタシノタイザイシテルホテルココデス。シバラクイマスカラアソビキテクダサイ」
「サンキュ。明日学校帰りによらせてもらうよ」
「え?え?え・・・・・・ええええ!?」
「────なんだよ。帰ってもらったから文句ないだろ?」
「い、今のは・・・・」
「お父さんが日本に商談できていて、付き添いで遊びに来た石油王の子」
「そ、その商談って・・・・確か遠野グループの・・・・」
「そんなことまで知らないよ。じゃ、俺は部屋に戻るから」
「・・・・・・・・・・・・・」

「秋葉さま。先程帰られた方、久我峰さまの交渉相手の娘さんに間違いありませんよ」

「兄さんッ!にいさ〜〜〜〜んっ!!!」

 

「ハァ・・・兄さんが妙な人を引っかけてきたお陰で危うく商談を駄目にするところでした」
「ですが、志貴さんのお陰であの後商談がうまくいったじゃないですか」
「まあ・・・久我峰側で駄目になった契約を遠野側で結び直せただけでも良しとしますが・・・」
「あら・・・あれは、志貴さんでは?」
「にいさん?・・・・・・!?」
「うわぁ・・・美人さんですね。見たところ、日本人では・・・・なさそうですね」
「・・・・・・・・」
「しかし、スタイル良いですねぇ・・・あの、秋葉さま。くれぐれも・・・」
「兄さん!」
「うわっ!?秋葉!?」
「門限前ですよ!今から何処に行こうというのですか!」
「えっと、翡翠には連絡入れたけど・・・今日は門限より2時間ばかり遅れるって・・・」
「認めません。今日は昨日の件で言わなければならない事があります」
「そんなの明日でも構わないんじゃないか?」
「・・・・そちらの方とのデートの方が優先ですか」
「デートって・・・一昨日困っていた黄さんの手伝いをしたお礼にちょっと呼ばれているんだけど・・・」
「どうだか・・・2時間は認めません。1時間で戻ってきてください」
「・・・・分かったよ。黄さんのご家族に断って戻ってくるよ」
「では兄さん、約束しましたよ」

「まったく・・・兄さんは」
「あの〜・・・秋葉さま」
「なに?」
「あの黄という方ですが、あの貿易商の黄さまのご息女・・・の可能性は」
「まさか。そんな事あるはずがありません。確かに隣町には黄家の別宅がありますが、三咲に来る意味が分かりません」
「そうですか?・・・一応昨日の前例があるのでご忠告をと思いましたが・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・琥珀、電車を含めて往復一時間の位置に」
「はい。別宅はその距離内です♪」
「!!!!!!!!!!!」
「五日前に来日なされて彼方に居られるとの事ですよ?」
「で、でも普通なら護衛などが・・・」
「一応少し離れたところにそれらしい方が居ましたが・・・」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!!」
「────一応、わたしは秋葉さまが志貴さんに声を掛ける前にご忠告いたしましたよ?」

 

「もう兄さんの交友関係をとやかく言いません」
「突然どうしたんだ?」
「兄さんは知らず知らずのうちにレベルの高い人を口説き落とす性質があるようですのでもう何も言いたくありません」
「それが良く分からないんだけど」
「ただ!」
「話聞いてないし」
「兄さんが新しく友達になった人は一度でも良いですから私に紹介して下さい」
「まあ別にいいけど・・・何か品定めしているみたいで嫌だな。それにはじめの科白と矛盾してないか?」
「矛盾していません。文句は言いませんから」
「そうか?・・・まあいいけど」
「志貴さま、お客様がお見えです」
「アレ?誰だろ・・・」
「シキ!」
「・・・・(ぴくっ)」
「あれ・・・どうしてここが分かったんだ?」
「トーノシキってナマエとトクチョウデサガシタの」
「はははは・・・」
「兄さん、この方は?」
「秋葉さん、何だか・・・怖いんですけど」
「(この女狐が・・・兄さんに馴れ馴れしく)」
「ワタシ、シキノガールフレンドで、エイダ・クロフトってイイマス」
「が、ガールフレンド!?」
「あー・・・女友達は確かにガールフレンドだけどさ・・・クロフトさん」
「秋葉さま、もう少し落ち着いてください・・・」
「ふ、ふふふふふふ・・・・・・・」
「あ〜・・・・・・・・・・・・・・クロフトさん。今日はちょっと拙いんだ」
「オシカケタワタシもワルイから・・・モウスコシニホンゴベンキョウしてデンワスルね」
「ああ、入り口まで送るよ。おじさんに宜しく」
「デは、シツレイします。オジャマシてモウシワケアリマセン」
「あや〜・・・・・秋葉さま、やってしまいましたね・・・っと・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・またやっちゃいましたね」
「─────秋葉。確かに何も言わなかったけどあの態度はどうかと思うぞ?」
「何なんですかあの女狐は!」
「秋葉さま・・・・あの方は英国貴族のクロフト卿のご息女です・・・」
「それはおかしいわ。ニセモノじゃなくって?」
「いえ、外に護衛もいたので間違いないかと・・・・因みに志貴さん。出会いについてお聞かせいただけますか?」
「有彦と軽い旅に出た時なんだけど、彼女往来で貧血起こして車道に倒れたんだ。で、車に轢かれそうになる前に助けたんだ」
「そんなお約束な事件があったんですか!?」
「有彦に聞いても構わないよ」
「時期はいつ頃ですか?」
「先々月の一泊二日旅行の時」
「・・・・・・・・・・・疑いよう無く本人です。データに写真付きで名前も載っています」
「はぁ・・・俺ちょっと出かけてくるから」
「琥珀・・・確か」
「保険会社他各社の大株主で財政界に大きな影響力を持つ方です。船舶の保険等は」
「これ以上言わないで・・・・・・兄さん・・・・何処まで知り合いを増やせば気が済むんですか!?」
「秋葉さま・・・・志貴さんの知り合いをチェックするのはもうよしましょう」
「っ・・・それは・・・・止められないわ!!兄さんに悪い虫が付いたらどうするんですか!!」
「はぁ・・・・」

 

 

「なぁ遠野」
「ん?」
「1ヶ月以上前からお前がホモっつーかショタって噂があるんだが」
は?
「いやな・・・駅前でお前と美少年が熱い抱擁をした後キスしていたって話があるんだ」
「・・・・・・・・・・・あー、軽く頬にしただけだぞ?」
「キスしたんか!?」
「イヤ、アレは向こうの国の挨拶だって言ってたし、それに多分その話の子は女の子だぞ?」
「なぬ!?」
「なんでも父親の仕事の都合で引っ張り回されていたらしいんだが、詰まらなくて護衛振り切って遊びにでたらしい」
「ヘヴィだな」
「で、町でいかにも不良って感じの奴等に絡まれているところを助けたんだけど・・・あまり言葉が分からなくてさ、身振り手振りで連絡方法を聞いて何とか護衛の人と合流したんだ。で、お別れの時の様子が多分それ」
「ほー・・・護衛って何処の国の金持ちの娘だ!?」
「さぁ?何かお礼がどうとか言われたけど、当たり前のことをしただけだし、ちょっと知り合いとの約束もあったから断ってすぐ逃げたからなぁ」
「なんて勿体ない!」
「たしかに勿体ないと言えば勿体ないか・・・でもなぁ、何か欲しくて人を助けるわけじゃないんだぞ?」
「まぁそれはそうだが・・・一応相手は女の子だったってわけか。しかし誰だったんだ?って言うか身振り手振りで聞くレベルのお前が何でそんな相手の事知っているんだよ」
「そのあと1回だけ会ったからな。彼女が帰国する前に」
「良く会えたな」
「父親は遠野関係の仕事の話をするために来ていたみたいだし、特徴からあっさりバレた」
「何だよその親父さんの仕事って」
「あまり表向き言えるような仕事じゃないんだけど・・・」
「どうせ教室にはほとんど人いないから良いじゃねぇか」
「マフィアのボス。表向き投資家としても活躍しているみたいだけどね」
「・・・・・・・・・・」
「どうした?」
「いや、マフィアって・・・・お前、良く無事だったな」
「前に別の子の親が勘違いで私設軍隊派遣した事があったからなぁ・・・それに比べれば可愛いモンだよ」
「どんな経験したんだお前は・・・まあその話は近いうち聞くが、で、その子との別れはどんな感じだったんだ?」
「ん?お土産を買ってその子に渡して見送った」
「はぁ!?」
「いや、最後に会ったのは空港でなんだよ。あと、最近手紙が来たな」
「・・・お前、どんだけ女に好かれてるんだよ」

 

 

「なあ、遠野」
「ン?何?」
「昨日お前ゴツイ連中に周り囲まれてたけど、何かあったんか?」
「ああ・・・・ちょっと勘違いされてね・・・大変だったよ」
「まぁたへンな奴に絡まれたのか」
「まぁ・・・うん。でも、どうしてあんな所にいたんだ?」
「う゛・・・姉貴が、今あのホテルのラウンジでバイトしているんだ」
「あれ?そうなんだ」
「しかしお前、良く外人と変なトラブルに巻き込まれるよな」
「───まぁ、今回の事はあまり聞かないでくれると助かる」
「何だ。かなりヤバイ問題でもあるのか?」
「国際問題になるところだった」
「は!?」
「いや、まぁ・・・・」
「分かった。これ以上は聞かない」
「ん。サンキュ」

「────とは言ったものの、気になるな」
「あれ?乾くん。どうかしましたか?」
「あ、シエル先輩。いえ、ちょっと遠野の事で・・・」
「遠野くんがどうかしたんですか?」
「遠野が昨日・・・っと、いえ何でもないッス!」
「?そうですか」

「で、遠野くん。昨日何かあったんですか?」
「有彦の奴・・・・」
「乾くんは心配はしていましたが、わたしに何も言いませんでしたよ?」
「でも昨日って」
「そこまで言って慌てて逃げてしまいました」
「・・・・・・・」
「で、昨日何かあったんですか?またあのアーパー絡みですか?」
「違いますよ。昨日秋葉と一緒に会食に行ったんですよ。そこで少し問題が起きまして・・・」
「またですか?」
「今回会食した人と、俺の知人が社交仲間みたいなものだったようで・・・まぁ、秋葉そっちのけで個人的な話が盛り上がってしまったんです」
「・・・・そこで秋葉さんが癇癪を起こしてしまったと?」
「いえ、その時点では何もなかったんですが、その後、まあ、この人が秋葉の事どころか秋葉を呼んで会食した理由を忘れてしまっていたようで」
「うわ・・・・」
「で、まあ秋葉に対して「あら、居たの」的な事を言ってしまって」
「秋葉さん、怒ってしまったと」
「怒りはしませんでした。かなりの屈辱を受けて秋葉はそのまま退室してしまったんです」
「まあ、そうでしょうね・・・」
「会食とは言え、商談もあったようですし、相手側から俺と秋葉を名指しされたのに結果がこれですから良く切れなかったなぁと」
「しかし、その人もかなり我が侭ですね」
「階級が違うから・・・と言うんでしょうかね・・・よく分かりませんが。まあそんな事されて流石に俺が居るわけにもいかなかったんで俺も退室しようとしたんですが、止められてしまったのでちょっとお説教を」
「お説教、ですか」
「はい。人として最低限のルールを守って欲しいと。約束を忘れた挙げ句相手を蔑ろにしたわけですから」
「それで・・・どうしたんですか?」
「そのまま帰りました。でもロビーで護衛の人っぽい方々に止められて・・・まあそこを有彦に見られたようですけど」
「護衛の人を倒したんですか?」
「倒してませんよ。執事っぽい人が来て今回の件について謝ってくれましたから」
「色々事情があるようですね」
「まあ、そこの所は聞かずに気にしていないからといいましたが・・・」
「おーい、遠野!」
「ん?有彦・・・どうした?」
「いや、これお前宛にだそうだ」
「手紙?・・・・誰から」
「あー・・・」
「では遠野くん。午後の準備もありますので」
「あ、ども」
「で?」
「なんかセバスチャンって感じの服着た爺様からだ」
「あー・・・・分かった」
「・・・・・お前も大変だな」