僕、遠野志貴は先生と会って変わった。
何がどう変わったか細かくは説明できないけど、ただ一つ言えること。それは
『心にスイッチが出来た』ということだ。
普段の僕と怖いくらい冷静な僕。
冷静な時の僕は何もかもが僕より凄い。でも怖い。
まるで二重人格みたい・・・でも二重人格ではない。
でもそれは大きなデメリットがあった。
冷たい僕は良いんだけど・・・
反動で普段の僕はドジになっている気がするんだ・・・
つう゛ぁい
「もう八年かぁ・・・」
八年ぶりに三咲町に来た。
「そっか、先生と八年一緒なんだなぁ・・・」
ふと、あの時のことを思い出した。
僕にメガネを渡して、そのまま去ろうとした先生。
僕は先生とお別れするのがイヤで先生を追いかけようとした。
その時、
「あうっ?!」
思いっきり転んでしまった。
「志貴?」
先生はすぐに振り返って僕の側に来た。
でも、僕はすりむいた膝が痛くって、でも、先生がいなくなるのもイヤで、
膝と先生を何度も見た。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
先生は真っ赤な顔で僕を見る。
怒っているのとは違うってすぐに分かったけど、不思議な顔だった。
「もう・・・志貴ったら・・・私がいないと駄目なんだから・・・」
僕の膝に付いた草を軽く払ってすりむいた場所にフーって息を吹きかける。
「先生・・・お別れなの?」
僕は言っちゃいけないと思いながら先生に聞いてみた。
「―――――――縁があったら遇いましょうってことだったのよ。尤も、今この瞬間から私と志貴の縁はナイロンザイルなんかとは比べものにならない程の強くて硬い縁ができたけどね・・・」
先生はニッコリと笑った。
そして先生はこう言葉を続けた。
「志貴、私のそばで魔術師見習いになってみない?」
「???」
それは余りにも突然で、
先生が何を言っているのか分からなかった。
「言ったでしょ?私はね、魔法使いなの」
「???」
それは聞いたけど・・・僕も魔法使えるようになるのかな・・・
「志貴となら楽しく旅ができそうだし。志貴のこと気に入ったからだけど・・・どう?」
先生の言葉に僕はどうしようか迷った。
退院したら僕は遠野のお屋敷から知らないところに「養子」として出されるって聞いた。
よく分からないけど、とにかく追い出されると言うことらしい。
もう、みんなと会えなくなる。
それなら、僕は自分から出て行く。
「―――うん、僕、先生と一緒に行く」
僕は先生の手を取った。
―――僕が行方知れずになってから八年。
きっと僕は死んだことになっていると思う。
僕がこの町に来たのはある理由があったから。
もし知っている人がいたらすごく困る。
だから滅多にこの町には来ない。
「―――そう言えば、数年前にも一度来たなぁ・・・」
先生のお姉さんに呼ばれて僕は二、三年前ぐらいに一度この町に来た。
あの時は大変だったなぁ・・・
「あうぅ・・・早くお仕事終わらせよう・・・」
僕はあの時のことを頭から追い出そうとブンブンと振ってホテルへと向かった。