常にはない日常:朝の風景

 

 

ゆっくりと、ゆっくりと目が覚めていく。

うん、今日も生きている。

そんなことを思いながらゆっくりと目を開けた。

側にはいつものように翡翠が俺が起きるのを待ち、朝のあいさつを───

「おはようございます志貴さま゛っ!?

翡翠が壁に向かってダイヴした。

今日は凄くアクティブな翡翠だな・・・琥珀さんのボケが感染ったのかな?

そんなことを思いながら体をうごか──────

「んにゅぅ・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

は?

誰ですか貴女は

何故見知らぬ少女がここに!?

つーか俺の上着は!?

俺は自分の知らない間に少女に手を出す変質者になったのか!?

レンは何なんだと突っ込んだ奴歯を食いしばれ。そのまま一時間ボディーを殴ってやるから。

アレは契約のためであって趣味に走ったというわけではない!

確かに、転びそうにはなったけどね・・・・・・

ッと、話がそれた。ここで俺はどうするべきか───

 

 

1.眠っているこの子をどうにかする。

2.壁にぶつかって気絶している翡翠を解放する。

3.ドアの隙間から恐ろしい形相で見ている秋葉に土下座する。

4.エーテライトをさして監視しているシオンに頼んで状況を説明して貰う。

 

 

───何かどれも危険が一杯というか・・・・・・えっ?秋葉?!

「に〜〜〜さん・・・・」

ギイィィィッと恐怖を誘うドアの開音と共に秋葉が部屋に一歩足を踏み入れた。

同時に室温が5度下がる。

「幼女のナイムネは良くてわたしは駄目なのですか?」

「何を言っているんだ!?」

「ツルペタロリかデカ尻デカ胸じゃなきゃ兄さんは萌えないと言うのですか!?眼鏡属性地味属性アーパーに学者、メイド、家政婦、お姉さん属性はあっても妹属性はないのですか!?」

「ええっと・・・何を言っているのか分からないよ秋葉・・・晶ちゃんに何か吹き込まれたのか?」

一歩、また一歩と歩み寄るその姿は某ゾンビゲームのゾンビのようだった。

「晶!?そう!兄さんは晶からそれだけ多くの属性オプションを伝授されていたのですね!?」

「属性オプションって何だ!?」

突っ込みを入れるが秋葉は止まらない。

「ドージンシとオタクが犯罪を犯すんです!」

「えっと・・・秋葉、俺、そっち方面知らないんだけど・・・」

「仕舞いには兄さんは年端もいかない女の子だけではなく男の子まで・・・」

ぅおいっ!

駄目だ・・・完全に跳んでしまっている・・・

盛大なため息を吐き、これからどうしようか考えるが、何も良い案は思い浮かばない。

クイックイッ

「ん?」

服の端を引かれ、俺は引かれた方を向く。

「・・・・・・・・・」

引っ張っていたのは俺の横で眠っていた子だった。

「良かった・・・君がどうしてここで寝ていたのか俺達に説明してくれないかな・・・」

切羽詰まった現状を打開するために俺はその子に語りかけた。

ポッ・・・

ちょっと待てコラ

そのリアクションはもの凄く誤解されるというか誤解されてしまったというか既に髪が俺の首に絡み付いているというか・・・

「渡さない・・・」

少女は俺に抱きついて秋葉を睨む。

「ふ、ふふふふふ・・・・・・兄さん・・・今新しい属性を追加してあげます」

全身全霊掛けて遠慮させていただきます。

秋葉がトラウマになりそうだし・・・

つーかなり始めているし。

「頼む、秋葉・・・この子と話をさせてくれ・・・」

頭を深く下げ、駄目元でお願いしてみる。

「そんなこと聞けるわけないでしょうが」

バッサリ切られた。

「俺だって何故この子が俺の横で寝ていたか知りたいんだよ」

「ならわたしが居ても問題はないでしょう!」

「この子が話したがらないから二人でって言っているんだよ」

「嫌です!」

「そんなに俺は信用ないか?」

俺は真剣な眼差しで問うた。

「全くありません」

返答は秒の壁を越えた。

「・・・・・・秋葉嫌い」

「ええ、その分わたしが好きですから」

「家出してやる」

「捕まえます」

「口聞かない」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・それはちょっと」

子供の口げんかみたいかもしれないが少なくとも俺達は真面目に言い合っている。

秋葉は何故か俺との会話やスキンシップを優先する。

琥珀さん曰く『麻薬の禁断症状』に似ているらしいが・・・

俺が二日間留守にしたとき、それはもう凄かったらしい。

誇張かもしれないが部屋の中をウロウロし始め、仕舞いには俺の部屋で寝ていたらしい。

帰ってきた時、翡翠が部屋を清掃業者顔負けの滅菌消毒をしていたのが印象的だった。

そんなわけで秋葉は翡翠を引きずって渋々出ていった。

 

 

「───これで良いかな?」

「うむ。しかし───良く敵だと知りながら二人きりになったな」

その少女はその姿とは正反対の口調で語りだした。

「ははは・・・俺を襲わなかったからね。少なくとも俺に対して敵意はもってないと思っただけさ」

「危機管理能力のない奴め・・・」

少女は呆れたように呟く。

「で、君は誰なんだい?」

「我は真にブリュンスタッドの名を継ぐ者。アルトルージュ・ブリュンスタッドだ・・・って何だその顔は」

「いや、だってねぇ・・・その格好で言われても威厳が無いというか可愛いというか」

「か、可愛い・・・・・・」

アルトルージュはぴたりと固まった。

今まで面と向かってそのようなことを言われたことがなかったこともあったがそれ以上に───

「ふ、ふんっ・・・アレを殺したという人間がどんな奴かと見に来てやったら・・・」

アルトルージュの顔が真っ赤になる。

「どうしたの?」

「───き、貴様に寝ぼけて襲われたのだ・・・」

俯き、ボソボソ小声でとんでもないことを言うアルトルージュに志貴は顔を引きつらせた。

「──────え?」

「はいはいはいはい〜〜〜〜その時の映像がここにありますよ〜〜〜」

バンッとドアを開けながら琥珀が映写機材を持って登場した。

「「え゛!?」」

突然のことに驚く二人を後目に琥珀はテキパキと映写キットを組み上げていく。

「志貴さん志貴さん、カーテン閉めちゃってくださいな」

「あ、ああ・・・」

一応琥珀の突飛な行動に対して免疫のある志貴はすぐに立ち直り、カーテンを閉める。

一方、驚きと撮られていたことに対するショックのせいかアルトルージュは未だに動く気配を見せなかった。

「では始めますよ〜」

琥珀は楽しそうに再生ボタンを押した。

 

 

ほんの僅かに開けられた窓は寒気を取り込み、少し暑めの空調と相俟って程良い室温となっていた。

窓が開いている理由は黒猫の姿をしているレンが出入りしやすいようにと、我が侭な真祖の姫、アルクェイドがぶち破って入ってこないようにであった。

時刻は午前4時9分。

その時刻にゆっくりと窓が開く。

侵入してきたのは少女───アルトルージュであった。

は室内にはいると真っ先にカメラを睨む。

同時にカメラにノイズが走り、映像が中断された。

しかし、すぐに別の視点からの撮影が始める。

アルトルージュは眠っている志貴の顔を間近で見てホウッとため息を吐く。

そして何か呟いたその時であった。

眠っていた志貴の手が持ち上がりアルトルージュの頭を優しく撫でる。

アルトルージュは驚いた顔をしたが、何故かされるがままになっている。

その表情はどこか嬉しそうな顔をしていた。

志貴は撫でていた手を頬へと移動させ、優しく撫でる。

次第に弱くなっていく撫でる手にアルトルージュは不満げな表情をしながらポフンと志貴の隣に寝転がる。

と、

志貴の手が再び動く。

ゆっくりと寝返りを打ち、アルトルージュを優しく抱きしめると―――───

チュッ

「!!!!」

まさかといった表情をするアルトルージュだったが、志貴の攻撃はこれだけではなかった。

志貴は何か呟き、時折キスをしながらアルトルージュの背を優しく撫でる。

はじめは顔を真っ赤にして身を捩って抵抗していたアルトルージュだったが、次第にトロンとした表情になり最後には甘えるように志貴に体をすり寄せていた。

そして数分後、二人は抱き合ったまま動かなくなった。

 

 

「は、ははははは・・・・・・」

志貴は顔を引きつらせて笑っている。

アルトルージュは思い出したのか顔を真っ赤にしてモジモジしている。

「あらあら・・・志貴さんは罪な人ですね〜」

「いえ、でも・・・俺は眠っていたから事故では・・・」

「志貴さん、こうなってはこの子の責任もとらないといけませんよ〜?」

「責任・・・?」

琥珀は満面の笑みを浮かべ、

「この子も志貴さんの夜伽の相手として・・・」

「夜伽って・・・ちょっと琥珀さんっ!?」

「言い間違えました。志貴さんの場合はハーレムでしたね」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・もぉいいです」憔悴しきった表情で志貴はため息を吐き、アルトルージュを見る。

「・・・本当に、ゴメンね」

・・・・・・てくれないのか?

「え?」

「混ぜては・・・くれんのか?」

「待ってくれ・・・話を・・・」

「わたしには魅力が無いというのか?」

「えうっ・・・」

何故か涙目のアルトルージュに志貴は思い切り動揺する。

「あらあら・・・女の子を泣かせちゃいけませんよ〜」

琥珀さんはニコニコからニヤニヤ笑いに変わっている。

「あの・・・・・・そのぉ・・・・・・アルトルージュちゃんはとても魅力的で可愛いよ」

「ほんと?」

「うん」

「そうか・・・だったら」

「でも俺ハーレムなんて作ってないし」

「「・・・・・・・・・・・・」」

アルトルージュと琥珀は無表情で顔を見合わせる。

「秋葉様と翡翠ちゃん、秋葉様のご学友や後輩、そして弓塚さんと親友のお姉さん、時南朱鷺恵さん・・・・・・」

「アルクェイド・ブリュンスタッド、埋葬機関第七司教、マジックガンナー、ナルバレック、メレムソロモン・・・・・・」

「ま、待って!俺が何をしたって言うのさ!それにアルトルージュちゃんが言った後ろの二人は知らない人だよ!」

「しかしこちらの情報では二人とも写真を所持していたと・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「───ちなみにメレムは男の子だ」

ゴフッ!!

「──────俺の知らない挙げ句に男の子まで・・・・・・」

「モテモテですね志貴さん」

「いや、だから俺は・・・」

「今挙げた人全員志貴さんに好意以上のモノを持っている人達ですよ。勿論わたし達を含めてですけど」

勝ち誇ったように笑う琥珀に志貴はガックリとうなだれる。

「・・・・・・・・・俺なんか好きになっても・・・・・・」

「志貴だから良いのだ」

「そうですよ〜天然で鈍感で愚鈍で朴念仁言われている志貴さんが良いんですよ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・それ誉めてる?」

「「勿論」」

「二人とも相性抜群だね・・・」

「あら、志貴さんのことになったらみなさん同じですよ〜そうですよね?秋葉様、翡翠ちゃん」

「アルクェイド、代行者」

「「「「!!!!」」」」

琥珀はドアを開け、アルトルージュは窓を開けた。

ガサガサと周囲で盛大な物音を立て何かが遠ざかっていく。

「「逃げたか・・・」」

同時に呟く二人に志貴は『この二人にだけは逆らわないようにしよう』と心に誓った。

「今までの話はこちらに置いといて・・・」

「置くの!?」

「今日は休みでもない平日ですよ」

ニッコリと微笑みながら琥珀はそう告げた。

「え?・・・あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!!」

志貴は時計を見て悲鳴を上げる。

時刻は8時

流石に拙い時間帯である。

「じゃっ!俺学校に行くから!!」

一瞬の早業でベッドの端に置かれていた服と鞄を取ると脱兎の如く駆けだした。

「・・・この時計は1時間早いとご忠告差し上げようと思いましたのに・・・」

クスクスと笑いながら言う琥珀にアルトルージュはハァッと小さくため息を吐く。

「・・・どうして志貴を行かせたのだ?」

「学校にある人を待たせてありますから」

「そうか・・・」

それだけ言うと二人はベッドに腰掛け、そのまま倒れる。

「志貴さんの匂い・・・」

「暖かい・・・」

心地良さそうな顔で暫く寝転がっていたが、

「こ〜は〜く〜?」

「あ、秋葉様!?もう学校の時間・・・」

「姉さん・・・貴女を殺します」

「翡翠ちゃん!?」

「どうしてここにいるのよ!」

「どこへ行こうと勝手であろう!?」

「どうして貴女までもがここに来るのですか!?それにナルバレックとメレムが遠野くんの写真持っているって何ですか!?」

「ゼルレッチからの情報だ!!それにどこで何していようと貴様には関係ないであろう!」

逃げたはずの者達の強襲を受け、二人の平穏の時間が破られた。