負ける訳には・・・・

そうは思っているけど足はフラフラ

体は結構ボロボロだ。

「志貴、いい加減ダウンして大人しく記憶を失ったらどう?」

「・・・・いやです」

目の前で余裕を見せて立っている先生は小さくため息を吐く。

「あのねぇ・・・これ以上手加減出来ないのよ?」

「手加減はありがたいですが・・・今は手加減せずに結構ですよ」

「ふぅん・・・・なら、ギアを上げるわ」

先生はそう言って一気に魔力を高めた。

 

 

 

紙一重の紙とは

 

 

 

迷惑な話だけど、この体は普通の戦いよりも危機的状況に陥った方がよく動く。

状況確認。

先生は力を上げはしたけど完全に手加減無しという訳ではないらしい。

まだ余力を残して不測の事態に備えているといったところか・・・

俺にそんな余裕はないのは自身が一番分かる。

「白猫は志貴が抑えたんだから私とやり合う意味無いじゃないのよ」

そう言いながら先生は距離を取りつつ光弾を放つ。

接近戦も出来て遠距離攻撃は鬼のように強力。

俺は必死に避けながら先生に肉薄する。

先生が俺に向かって突いてきた瞬間、

「とった!」

「っ!?」

素早く先生の手を掴み、重心移動と共に先生を投げ─────

ヒザがガクリと曲がった。

投げは一番負担が掛かる。

予想以上に体に限界がきていたようだ。

「わっとと!?」

先生を掴んだまま倒れ込む。

でも咄嗟に先生を守るように抱え込んで倒れたのは失敗だった。

「ごふっ!?」

勢い良く先生の体重が俺の体にのしかかる。

「あー・・・・志貴、大丈夫?」

そう思うなら退いてくださいと言いたかったが、痛みと苦しさで声が出ない。

「その体で連戦だったんだからさ・・・これ以上無理はしない方が良いんじゃない?」

そう言いながら先生は俺を組み敷き、

「それにホラ、もうチェックメイトよ」

「はぁ・・・・・」

抵抗する気力もない。

「んふふ〜」

先生は俺を組み敷いたまま嬉しそうに笑みを浮かべる。

「まさか志貴がここまで出来るとは思ってもみなかったわ」

「ヒザが保てば勝っていたんですけどね・・・」

「ま、私の運が強かったって事ね」

「ところで先生・・・」

「ん?なぁに?」

「あの、いつまでこの状態で?」

「ン〜?・・・・もう少しこのままよ」

そう言いながら先生は意地の悪い笑みを浮かべた。

「どうしよっかな〜・・・・記憶を消すとしても・・・・・私としては面白い罰ゲームを志貴にして貰いたい訳よ」

「面白い罰ゲーム・・・・・・・ですか?」

「そう。ん〜そうねぇ・・・・・志貴、今彼女いる?」

「・・・・いません」

「え?嘘」

先生が驚いた顔をした。

「嘘吐いてどうするんですか」

「お姫さんとか代行者とか・・・ああ、あの錬金術師とかは・・・」

「友達ですよ?」

言い切った俺に先生は難しい顔をする。

「志貴・・・・・私が知る限り、あの三人は君に好意以上の感情を持っているはずなんだけど・・・」

「???」

初耳だ。

───あれ?もしかしてアルクェイドがいつも「好き」とか言っているのって、そういった意味の好きだったのか?

分からない。

「じゃあ・・・志貴の妹さんとか、メイド達とか?」

「どうして秋葉や翡翠や琥珀さんがでてくるんですか・・・」

「・・・・・・あれぇ?」

いや、俺の方が首を傾げたいんですが・・・

「想い人っていないの?」

「えっと・・・・・・」

言いにくい。

あの時、先生と再会した時に見惚れて以来────

「その様子じゃいるみたいね。さて、白状して貰おうかな」

「あの・・・・・」

「ん〜?」

うわ、本気で聞く気満々だ・・・

罰ゲームだし、記憶を消すと言っているんだ。言ってスッキリしよう。

「先生です・・・・」

「へ?」

「ですから、先生の事が好きです」

覚悟を決めればなんて事はない。

でも、先生が固まった。

「あー・・・・・あ、あはははは・・・・・は」

先生の視線が泳いでいる。

「どうせ記憶を消してくれるというのなら告白しておこうかと」

「冗談・・・・・じゃないみたいね」

「冗談で言えると思いますか?しかもこんな状況で」

からかい半分で言ったとしたらこの状態から馬乗りのタコ殴り確定だ。

「う〜・・・・・・志貴、一つ謝りたい事があるの」

断られるのは分かっている。

「なんでしょうか」

「記憶消すの止めるわ。元々そう言ったものは得意じゃないし」

「!?」

そう来たか!

「それに、志貴が予想以上にいい男になっているし・・・・・」

先生の顔が近付く。

呼吸が止まる。

一、二、三・・・・

「合格よ。志貴・・・・あ〜あ、試合に勝って勝負に負けたわ」

キス、された・・・・・

「さて、と・・・ああ、こう見えても尽くすタイプだから安心してね、志貴」

先生はそう言って固まっていた俺の額に軽く唇を落とし、立ち上がった。

「まあ私の心は広いからお目掛けさんを囲っても大丈夫よ」

「・・・・え?」

何を言っているのか分からない。

けど・・・・

「ブルー!志貴から離れて!」

「遠野くん!!騙されてはいけません!」

「志貴!」

凄いタイミングでアルクェイドと先輩、そしてシオンが思いっきり戦闘態勢でやって来た。