あの三人が緊張しているのは先生が居るせいなのか、それともこの知らない御老が居るからなのだろうか・・・

そんなことを思いながら、俺は二人に挨拶をした。

「あけましておめでとうございます。初めまして、遠野志貴と申します」

「お初にお目にかかる。ワシの名はキシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ。そこにいるアルクェイドの後見人のような者じゃ」

御老───ゼルレッチさんはそう言った。

 

 

 

 

 

年の初めの───

 

 

 

 

 

全員が席に着き、お節やお酒が大量にテーブルに並ぶ。

「前のこいつはあまりにも手がかからなくて暇を持て余していたのだが、最近はガンナーからの報告を聞くのが楽しくてな」

全員、結構なお酒が入った頃にゼルレッチさんが俺にそう言った。

「先生から・・・ですか?」

「うむ。教会がどのような行動に出ても良いようにと協会の監視者としてガンナーを引っ張り出した」

「私もずっと見ていて楽しかったわ」

先生は先生で満足そうだし・・・

「俺があんな死にそうな目に遭っている時も先生はずっと観察していたんですか?」

「ええ。志貴の苦しみに悶える姿とか」

「「「「「「「・・・・・・」」」」」」」

女性陣一同がゴクリとつばを飲む音が聞こえた気がした。

「おかげでいらぬ事をして困ったり笑ったりと、昔では考えられぬような事をアルクェイドはしている」

日本酒をぐっと飲み干し、ゼルレッチさんは俺を見る。

「真祖の姫や第七司教、アトラスの錬金術師にマジックガンナー・・・これだけ落とせば敵はない」

「ゼル爺?」

「ん?なんだ?」

「それだけが理由でここまで来た訳じゃないでしょ?」

「いや、暇だから来た。しかも正月じゃからな」

そう言いながらゼルレッチさんはアンティークカメラを取りだし、

「メレムの奴を悔しがらせたいのでな。アルクェイド、少し手伝え」

何だか途轍もなく嫌な予感のする発言をした。

「おっけー」

アルクェイドもノリノリだ。

「では少し時間を貰って・・・済まぬがミズ遠野。あとは作戦通りに」

「了解いたしました」

秋葉が恭しく頭を下げると、

「さ、兄さん。ドンドン飲んでください」

そう言って俺に酒をつぎ始めた。

「ちょっと!俺はあまり酒飲めないって!」

「分かっています」

「シオン助けて!」

「志貴、申し訳ないがその助けは聞き入れられない」

「先輩!」

「はい。ワインもありますよ」

「聞いちゃいね〜〜〜〜!!」

俺は三方向を完全に固められ、そのまま無理矢理酒におぼれた。

 

 

「ふむ。思いの写真も撮れた。楽しかったぞ」

ゼルレッチはカバンを手に玄関口に立つ。

「ちゃんと現像して回してね」

「無論じゃ・・・しかし良い子じゃな」

「勿論。私が目を付けた子だもの」

「それにわたしの志貴だもん」

青子とアルクェイドの台詞に僅かに顔を綻ばせる。

「からかい甲斐もあって善悪に左右されない素直な者、か」

「ゼル爺はどこに?」

「暫くは欧州辺りを彷徨っているはずじゃ」

「いつも通り中央研究室に手紙を送れば良いのね」

ああ、とゼルレッチは頷き、扉を開ける。

「ではさらばだアルクェイド」

ゼルレッチは扉の向こうへと消え、扉が閉まる。

「そろそろ夜が明けそうね」

窓の外は僅かながら夜明けの空になりつつあった。

「みんなを起こして初日の出でも見ない?」

青子の台詞にアルクェイドは小さく頷く。

「そうね・・・うん」

アルクェイドは何か思いだしたように再び頷く。

「どうしたの?」

「ゼル爺が言ってた。『笑うのは己の生が楽しいからだ』って・・・わたしは今志貴やみんなと居るのが楽しい。そう思うの」

「・・・そうね。それが幸せってものよ」

青子はアルクェイドの肩をトンと叩くと、

「さ、早く起こさないと日が完全に昇ってしまうわよ」

そう言って二人は応接間の扉を開けた。