夕暮れ時に差し掛かろうという時間帯。
それは古来より逢魔が時と言われていた時間帯。
人の活動する『昼』と魔の活動する『夜』の境界
夕日が辺りを照らす中、一台の車が学校の前に止まった。
「―――ここがターゲットの通っている高校だそうだ・・・」
押し殺した声。
それはある種の緊張を含んでいた。
停車した一台の高級車の中で一体どのような会話がされていたのか
それはそこに居合わせた本人達しか知らない。
「・・・・所でヘムヘム」
「そんな怪しげな名で呼ぶなあァァァァッッッ!!!」
・・・・・・聞いてはならない気がする。
「どうした?今の雄叫びは血涙など新たな技を見せたいがための気合いか?」
他の者達には魂の叫びにしか聞こえなかったろう・・・
『ヘムヘム』と呼ばれたヴァン=ヘムは心に修正不可能な傷を負った。
「―――話を戻すぞ・・・ここには真祖の姫と共闘した埋葬機関の七位と目当ての男が居る」
「そうか・・・では行くぞ」
「・・・本気か?」
「どうした?」
「・・・・・・いや、まだ日は暮れていない。夜になってからでも遅くはないのではないか?我々は日の元ではロクに動けないだろうが」
ヴァン=ヘムはゼルレッチに言い聞かせるようにそう言った。
――――――――本音は別にあるが。
「いや、この服で敵の本拠地で闘ってこそ意義があるのだ・・・」
そう力説するゼルレッチにヴァン=ヘムは盛大なため息を吐く。
暫くの沈黙の後、ヴァン=ヘムは何か思いだしたのだろう。時が来るのを待つゼルレッチに提案を出す。
「ああ、あの男は夜でもあの服だ。決闘状でも出してみたらどうだ?」
「ふむ、それもいいか・・・」
ヴァン=ヘムの提案に応じたゼルレッチは鞄に手を伸ばし、中からとってもファンシーなレターセットを取り出した。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
突っ込みたいのを必死に耐えてヴァン=ヘムは無視を決め込んだ。
「・・・待て、日本語は書けるのか?」
ふと思い出したように問うヴァン=ヘムにゼルレッチは当然だと頷く。
そしてその決闘状・・・手紙は遠野家のポストに入れられた。