そこにはあらゆる人種がいた。

その場所にはあらゆる人間がひしめいていた。

そしてその場所をくぐり抜けて人々は目的地へと旅立つ。

そしてその場所をくぐり抜けて人々はこの地へ入ることを認められる。

そこはゲートであると同時に審査の場である。

そこの審査で質問に答えられない者やこの地に住む住人等にとって不都合な物を所持している場合はそこから先へは行けないのだ。

 

 

それは・・・入国審査

 

 

此処は・・・空港

 

 

空港内―――税関

 

 

「―――此処が日本か」

タラップから降り立ったゼルレッチは目を細めて風景を感慨深げに見る。

――――――まぁ、空港の風景なんてそこまで良い物とは思えぬな。

ゼルレッチの後ろには自嘲的に笑むヴァン=フェムが立っていた。

「しかし―――なぁ魔道元帥よ」

僅かだがヴァン=フェムの声は震えていた。

そして顔は少し引きつっている。

「何だ?」

「やはりその格好は・・・その・・・変だとは思わぬか?」

「そうか?」

日本に用があったヴァン=フェムは日本へ行くというゼルレッチと専用機で日本に来たのだったが・・・

「イヤ、これが日本の民族衣装なのだから着るのは当然だろう」

「絶対に違う」   という突っ込みを心の中でする。

ヴァン=ヘムは知っていた。

こんな物を用意するのは協会関係者の中で唯一人しかいない。

―――蒼崎青子よ・・・君はこいつがブルーになるか怒る姿を期待しているようだが・・・

この御仁は至って天然だ。従ってそれは本気実践するということ。

つまりそれは猿山頂上に核ミサイル発射スイッチを設置するのと同等の危険行為なのだ。

迷わず何度も押すから手に負えない。

出来るなら・・・出来るならばこの場にいる全ての人間を抹殺し、自分とゼルレッチが一緒にいるなんて事自体白紙にしたいのだ。

何が問題か・・・

そう。突っ込む点は二つ。

一つはゼルレッチは民族衣装だと言い、この服を機内で着始めた物だ。

それは巫女服と書かれていた。

そして高下駄に竹箒・・・カツラまでセットだった。

もう一つは、この衣装は女性の着る物らしいということだ。

映像情報も添付されていた。

そしてその映像内に同じ衣装を付けた女性がいた。

男性は全く違った服装だった。

ゼルレッチにそれを見せ説得した。

だがたった一言の為に全てが無に帰した。

「差別は良くない」

ゼルレッチよ・・・何時からそのように壊れたのだ?

―――どうしよう。涙が出てきた。

なんだか全てのことがちっぽけに感じてきた。

「商談、止めよっかなー・・・・・・」

もう、どうでも良くなってきた。