日は既に西に傾き、家路へと向かう人々で交差点は混雑していた。

そんな中、明らかに通常の出で立ちとは異なる人物がいた。

精巧な虎のマスクを被り街を闊歩するその人物。

「むぅ・・・・ヘムヘムがあそこまで脆いとは」

虎頭の人物───ゼルレッチはため息を吐き、ソファーでグッタリしていたヴァン=フェムを思い出す。

「しかし・・・馴染む。馴染むぞ」

ゼルレッチはそのマスクが気に入ったのかそう呟く。

横断歩道を渡ろうとした。

と、

「ああっ!駄目ぇぇっ!!」

背後で悲鳴がし、次いで

「どけ!コスプレ野郎!」

数人の男達がゼルレッチに向かって突進してくる。

ゼルレッチは危なげなくそれを回避────

ドゴッッ

反転したゼルレッチはゼルレッチを突き飛ばそうとした男に回転蹴りを喰らわせた。

「ぶごうっ?!」

蹴りが見事に決まり地面をスライディングする男。

一瞬何が起きたのか分からずに思わず立ち止まってしまった男達。

「───テメェ!!」

いち早く我に返ったリーダーらしき男がゼルレッチに殴りかかる。

ゼルレッチは軽く捌いて足を払い、男を倒す。

そして

ゴッッ

男の顔面を掠るように地面に拳を突き立てた。

ベコッッ

街路に敷き詰められている歩道のパネルが粉砕された。

「「!!!!!」」

加勢しようとした男達はそれを見て身を固くし、次の瞬間脱兎の如く逃げ出した。

気を失い地面に突っ伏している男。

歩道に仰向けに倒れ、気を失っている男。

「・・・愚かな奴等だ」

ゼルレッチはそう呟き、カバンを拾い上げると泣きじゃくっていた少女の元へと向かう。

「少女よ。落とし物だ」

「・・・・ぇ?」

泣きじゃくっていた少女が顔を上げ、驚いた顔をする。

その少女にカバンを渡し、

「さらばだ」

ゼルレッチは何事もなかったかのように立ち去っていった。

 

 

「む・・・学舎は既に閉まっているか」

校門が閉まっていることに気付き、ゼルレッチは小さく息を吐く。

「仕方あるまい・・・直接館に乗り込むか・・・」

そう呟き、踵を返す。

「お待ちなさい!」

不意に声を掛けられた。

「───埋葬機関か」

ゼルレッチは振り向き様、声の主にそう言い放つ。

「っ・・・!」

そこに立っていたのは制服姿のシエルだった。