三話/思想

 

 

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「それで・・・どういう事よ?」

予想を遥かに超えていた朝食を食べて士郎の入れたこれまた予想以上の味の紅茶を飲みながら凛はそこにいる全員を睨みつけるように言う

「どういう事って、何が?」

士郎がそう首をかしげてお茶を啜る

「貴方達の過去、そしてアーチャーとそこの七み、じゃくて衛宮君の関係・・・七夜君と瓜二つのアサシン・・・この事全部よ」

凛が三本の指を立てて言う

「なんで貴方達は敵になりうる私に夢で自らの過去、そして能力まで見せたの?」

「ああ・・・それなら簡単だよ、遠坂さん・・・本当は君だって分かっているんだろう?・・・・・・士郎が君を救いたいという事を、だから士郎はその為に君に全てを見せた・・・」

志貴が口元に笑みを浮ばせながら答える

「確かに衛宮君が大切な人を救いたいのは分かったわよ?・・・でも何でそれに私まで含まれるの?私達は他人じゃない」

そして、その言葉に士郎が眼を細める

「なんだ、士郎・・・レンに見せてもらわなかったのか?」

そんな士郎に志貴が尋ねる

「覚えて無いならいんだ・・・だけどやっぱり、覚えてなかったか」

士郎が苦笑を浮かべる

「は?何よ?覚えて無かったって?」

凛の言葉に志貴が顔をしかめる

「遠坂さん・・・一つ言うなら、君は酷く残酷だ」

「え?」

「はぁ・・・まったく・・・だから君と士郎は昔」

「志貴、いいよ・・・今更あれがあった無かったなんて関係ない・・・言わなくてもいい」

志貴の言葉を士郎が遮る

「なっ・・・士郎、お前また・・・・・・いや、そうだな・・・」

志貴は士郎に大声で叫ぼうとして、その瞳を見て・・・止めた

その瞳には、決意

「だけど・・・士郎、それは再び自己を犠牲にする事だ・・・気をつけろ、あれに呑まれるぞ」

志貴はそう言って部屋を出て行く

「まったく・・・志貴も士郎も素直じゃないわね」

アルクェイドも志貴の後を追う

「でも士郎・・・志貴の言うとおりよ・・・もしこれ以上貴方という自己を削っていくなら・・・貴方は・・・いつかまた呑まれるわ・・・それこそ今度は抵抗も出来ないでしょうね」

部屋を出る寸前、そう呟いて

「・・・・・・分かってるさ、そのくらい」

士郎は顔をしかめながら呟いた

「・・・・・・」

凛は会話を聞きながら、会話の内容を理解しようとしていたがどうしても分からない

「・・・まあ、いっか・・・・・・」

そして考えるのを止め、呟いた

「さて・・・凛、次は私と衛宮 士郎の事だったな?」

そしてアーチャーが口を開く

「え?・・・あ、そうね・・・教えてもらえるかしら?」

「ふむ・・・まあ、知られて困るという訳でも無いからな・・・・・・つまりだ凛、私は衛宮 士郎の終着点の可能性、その一つだ・・・」

アーチャーが口元を歪める

そして、話し始める・・・自分の体験した聖杯戦争の重要とされる部分・・・主に、聖杯・・・それについて

「聖杯が・・・汚染されてる?」

凛が呆然と呟く

一族の悲願がそのような代物だったのだ、当然かもしれない

「しかし・・・まあ、その衛宮 士郎は私のようにはならないだろうな」

そして、アーチャーはそう言った

「なんでさ?」

黙って聞いていた士郎が尋ねる

「私の記憶では私はまだこの時期には貴様のような力は持ってはいなった、それに貴様のように大切な人の正義の味方になり大切な人を救うという理想ではなく全ての人を救うなどという愚かな理想を持ち続けていたのだよ・・・その結果、私はこのような形になった、故に貴様はこうはならないだろう」

そう言ってアーチャーの姿が消える

霊体化する直前、アーチャーがセイバーを見ていたのを士郎は見たような気がした

「・・・まったく、何なのよアンタ達は」

そして凛が疲れたように呟く

「アーチャーの話を聞いて分かったわ・・・つまりアサシンも七夜君の可能性のひとつってわけか」

「ああ・・・そうなるな」

「しかし・・・複雑なものですね、ここの者達の関係は」

今まで黙って聞いていたアサシンとセイバーが口を開く

「っていうか志貴を守りに行けよサーヴァント」

「なに、あの志貴の力なら敵に襲われたとしても平気だろう」

アサシンは士郎の言葉をあっさりと受け流す

「ちなみに俺もあの志貴とはまったくの別物だ・・・」

そういって部屋から出て行った

「なんなのよ・・・まったくコイツらは」

そう愚痴をこぼした

 

 

 

「なるほどね・・・やっぱり俺と士郎の立てた仮説は正しかったわけか・・・」

「仮説?」

「ああ、前に言ってたわね・・・ただの聖杯ならこぼれただけで十年前ほどの災害は起こらないんじゃないかってやつでしょ」

屋根の上、そこに座りながら志貴とアルクェイドは志貴の後ろに立つアサシンの話を聞いた

「ああ・・・聖杯ならそんな禍々しい災害は起こらないってな・・・」

「どうするんだ?志貴よ」

「・・・・・・そうだな、穢れは俺が何とかできるかもしれない・・・できない場合は、壊す」

「まあ、最善だな」

志貴の結論にアサシンが同意する

それに志貴は驚いた

「なあ、お前は聖杯を求めてるんじゃないのか?」

「なに、俺はやることをやりきってこうなったのだ・・・いまさらかなえたい願いなど無い」

アサシンはそういいきって志貴の隣に座る

「志貴・・・秋葉や琥珀、翡翠はどうした・・・そしてシエルという人物を知っているか?」

「・・・ああ、知ってる・・・」

「今、どうしてる・・・」

「秋葉達は時々盗み見にいってるけど元気だよ・・・シエルさんはバチカンに帰った」

「そうか・・・あいつらは元気にしてるか・・・この世界でも」

そういってアサシンは微笑む

「・・・お前は、秋葉達と暮らしたのか?」

「ああ・・・一応な、駄目な兄貴だったさ記憶までお前と違って偽造されちまったしな」

「そっか・・・」

そういって志貴は寝転がり空に向かって手を出す

「救われないな・・・」

「誰が?」

「この世の全てが」

「当たり前だ・・・」

「私には良く分からない会話ね」

そう言って三人は笑った

 

 

 

「凛、これからどうするのだ?」

「知らない」

霊体化しているアーチャーの問いに凛はぶっきらぼうに答える

士郎とセイバーが出ていったので凛とアーチャーはこれからの事について話していた

「知らないか・・・君は聖杯戦争を勝ち抜くつもりはあるのか?」

「あるわよ・・・でも今はやる気が出ない」

「・・・そうか、まあ心中察するがね」

「あんたはどうなのよ・・・英霊っていうからには願いがあるんでしょ?」

凛の言葉にアーチャーはふむ、と腕を組む

「なに、私の願いは聖杯に望むようなことではない・・・」

「ふぅん・・・」

「まあ、この世界ではかなえられないかも知れないがな」

そう言って口元を歪める

「まあ、とりあえず・・・今は衛宮君や七夜君達には敵対しない方がいいわね・・・・・・勝てる気がしないし、聖杯の事も良く分からないし」

「賢明だ・・・まあ、私は戦うとしても負ける気は無いのだがね」

「随分な自信ね・・・」

そういって凛は少しだけさめてしまった紅茶を一口飲んだ

 

 

 

「なんですか、士郎・・・こんな所で」

七宮家・・・その地下にある師匠作の広大な空間、大掛かりな魔術によって作られたこの広大な空間は志貴と士郎の共同の工房

「・・・・・・セイバー、一つ聞いておきたい・・・君の願いはやり直し・・・そうなんだろ?」

そして士郎が口を開く

「・・・はい、私は過去を変えたい、変えること・・・それが私の願いです」

その言葉を聞いた士郎が顔をしかめる

「そうか・・・ならセイバー・・・君はここで倒れるといい」

そう言って士郎は投影(トレース)、開始(オン)と呟きその手に選定の剣を手にする

「なっ・・・!」

そして、セイバーの目の前に一瞬で移動し、剣を振るう

セイバーは一瞬で武装し、不可視の剣でそれを防ぐ

「なにをするのです!?シロウッ!」

セイバーが叫ぶ

「君は間違えている・・・過去を変えるのは間違えだ・・・」

士郎はそう言ってカリバーンを振るう

「何を!・・・私は国を滅ぼした!それは、もしかしたら他の者が王だったなら避けられたことかも知れない!だから私は過去を変える!」

セイバーが叫び、同じように剣を振るう

広大な空間に響き渡る剣戟の音

「そうか・・・だから、どうした!」

「っ!?」

シロウが渾身の力を込めてセイバーの剣を弾く

衝撃に耐え切れずセイバーの体が吹き飛ぶ

「国を滅ぼした?そんな物、いつかは滅びるんだ・・・もしも他の者が王だったら避けることができたかもしれない?お前は剣を、この剣を侮辱しているのか!?」

「・・・な、に?」

セイバーが体を起こす

シロウは一歩、また一歩とセイバーに歩み寄る

「この剣は、お前が最も王に相応しいからお前に抜かれたんだ!だからお前以外の王などは存在し得ない、分からないのかっ!?」

セイバーの目の前に立った士郎はその手のカリバーンを地面に突き立てる

「お前にこの剣が抜けるのか?今の堕落したお前に?」

「堕落・・・し、た?」

セイバーが目を見開く

「貴方は・・・私をどこまで侮辱すれば気が済むのだ!」

そして、剣を持たない士郎に剣を振るう

士郎はそれをバックステップで避ける

「侮辱?はっ、セイバー・・・お前はまだ分からないのか・・・今の君は王などではない・・・ただの敗者だ」

「っ・・・!」

セイバーが歯をくいしばる

「否定できないか!?ふん、そうだろうな・・・お前は本当は分かっているのだろう!?過去を変えることは自分を信頼してくれた人に対する裏切り・・・」

「違うっ!」

士郎の声をセイバーの叫びがさえぎる

「私は間違ったのです!だから、だから民を国を滅ぼしてしまった!」

「・・・間違った、か・・・そうかもな・・・だけどな、セイバー・・・君の国は、民は幸せだったんじゃないか?お前は正しい国を目指したんじゃないのか?誰もが救われるような国を・・・」

士郎が告げる

「・・・ですが・・・私は」

「甘えるな、お前は間違えた・・・だけどな、それまでの民の幸せはお前以外では実現させることが出来なかったはずだ・・・」

「・・・・・・そうなので・・・しょうか?」

セイバーが小さく呟く

「ああ・・・間違いない」

士郎は力強くそう応える

「本当に・・・そうなのでしょうか?」

セイバーが不可視の剣を離す

「絶対に、間違いない・・・それだけは本当だ」

「そうですか・・・」

そういってセイバーは選定の剣に手をかける

「礼を言います、シロウ・・・まだ僅かに迷いはある、だが今は・・・今は貴方の剣となりその中で答えを見つけたいと思う・・・」

「・・・そうか」

「・・・・・・もしかしたら私にはまだこの剣は抜けないかもしれない、それは迷いのせいなのかもしれません、私への剣からの戒めなのかもしれません・・・・・・だが、しかし私はこの剣を再び・・・」

「ああ・・・君なら、今の君なら抜けるさ・・・きっと・・・」

そして・・・セイバーは再び、選定の剣を抜いた

 

 

 

そして・・・警報が鳴り響いた

 

 

 

日はいつの間にか沈み、空は黒く染まっていた

サーヴァントの気配を辿り、七人は庭に集まる

「は・・・何だここは、三体もサーヴァントがいるじゃねぇか」

そこには、青い槍兵が赤い槍を携えて立っていた

「それに・・・昨日の小僧じゃねぇか」

そういってランサーは士郎を睨みつける

「・・・・・・・・・」

士郎が一歩前に進もうとする、がそれをセイバーが止める

その手にはカリバーン、そしてその目には決意

「シロウは私の主、彼に手を出すというなら・・・」

カリバーンを構える

「私が相手になりましょう、ランサー」

セイバーの手で黄金に輝くカリバーン、威力こそエクスカリバーに劣るものの、強力な力を秘めたその剣は眩いばかりの黄金の光を、まるでセイバーの意志の強さのように強くそこにあった

 

 

 

感想(後悔)

セイバーの件を短くし過ぎてしまったなと後悔・・・

でもまぁ私程度の実力じゃこの程度だと諦めてください

よろしかったらご意見、ご感想よろしくお願いします