一話/交差

 

 

--------------------------------------------------------------------------------------

 

「なんと・・・これは」

「くっ・・・やるな」

セイバーとアサシン、二人のサーヴァントが驚愕の声を漏らす

その二人の目の前には・・・士郎が作った朝食

英霊という人を超えた存在は士郎の作った朝食に圧倒されていた

「確かに、士郎の飯は美味いよな・・・」

アサシンの食卓をはさんで正面に座っていた制服姿の志貴が頷く

「・・・英霊に料理で誉められるのは・・・名誉、か?」

セイバーの正面に座っていた同じく制服姿の士郎が苦笑を浮かべてぽつりと呟いた

 

 

「じゃあ、俺達は学校行くから」

そういって士郎が二人に言う

「貴方達は馬鹿ですか!?」    

「なっ、お前達は馬鹿か!?」

セイバーとアサシンは互いに大きな声で叫ぶ

まあ、制服を着ていた時点で突っ込むべきだったろう・・・

ちなみに二人の服装は至って普通の物、アサシンは志貴がセイバーの服は・・・士郎が、いろいろと死ぬ気で買ったものだ。回りからの視線に耐えて・・・

ともかく、聖杯戦争がまだ始まってないにせよサーヴァントを召喚した魔術師は少なからずいるはずだ、もし魔術師とはいえ人間である二人が襲われたら逃げる術は無いだろう・・・故にサーヴァント二人は学校へ行くこと反対する

「町で他の組に襲われないか心配してるのか?」

志貴が尋ねる

「そうだ!」

「そうです!」

実は・・・いや、絶対この二人は仲がいいと思う

士郎はそう思いながら右手を前に出す、志貴も同じように右手を二人に見せる

そして右手の人差し指、そこに一つの指輪がはめられている

「・・・・・・ああ、成る程」

アサシンはそれを見た瞬間に納得したようだ

「?・・・どういうことですか?それがただの指輪で無いことは分かりますが」

セイバーは・・・あまり、分かってないようだ

「つまり、これはある意味強力な魔力殺し、ということだ・・・」

アサシンが苦笑を浮かべながら説明する

「成る程・・・いえ、ある意味とはどういうことですか?」

「それはな、普通の強力な魔力殺しは魔力を片っ端から消してしまうが、この魔力殺しは常人と同じ程度の魔力量になるようになっているのだ、しかも殺すのではなく隠す・・・これは言うなれば魔力隠しといったところか、こんな物どこで手に入れたのやら・・・」

一般人であろうと少なからず魔力を保有している、これは魔術師である士郎や志貴を完璧に一般人と誤魔化すための物なのだ

ちなみに二人の師の一人である人の作品だ

「納得しました、つまり魔力が常人と一緒だから襲われる可能性は低いということですか・・・」

セイバーが指輪を見ながらコクコクと何度も頷く

「そういうこと、セイバー達がついてきたら逆に怪しまれちゃうしな」

そんなセイバーの行動がおかしくて笑みを浮かべた士郎が言う

「ふむ、分かりました・・・まあ、私は霊体化できないので好都合ですね」

「そういえば親父もそんなようなこと言ってたな・・・」

「聞いてはいたようですね」

「ん、ああ・・・ちょっとね」

「そうですか・・・まあ、別に戦闘には問題ありませんので気にしないで下さい、訳は今度お話します」

セイバーに士郎はああ、と一つ頷いて玄関の戸を開ける

「じゃあ、いってくる」

志貴もそういって士郎の後に続く

「ふん、行ってくるがいいさ・・・まったく、学校など休めば良い物を」

「はい、ではまた後で・・・」

そして玄関の戸が閉まった

 

 

「なんでさ?」

「あはは・・・」

士郎が頭を抱え、志貴が乾いた声を漏らす

士郎達が通う穂群原学園・・・その敷地に凶悪な結界が施されていた

「・・・くそっ、これ、内部の人間をまるごと吸収するタイプだぞ、志貴」

士郎が結界を瞬時に解析、結果を志貴に伝える

「最悪だな、まったく学校に結界を張るなんて・・・正気の沙汰じゃないな」

まるごと・・・つまり体も魂も何もかも溶かして吸収してしまう結界

「誰が・・・まさか遠坂さんか?」

志貴が呟く

昨日、この町に管理者(オーナー)である魔術師であり自分達の同級生である遠坂 凛が学校を休んだ

つまり、サーヴァント召喚の疲れが出たのだろう

ちなみに、面倒なので凛には自分達が魔術師であるということを隠している

「それは無いだろう、遠坂はそんなことをする人じゃない」

士郎が志貴の言葉を否定する

「じゃあ・・・桜?」

自分達を慕ってくれる後輩、間(ま)桐(とう) 桜・・・自分達や凛と同じく魔術師である

こちらも恐らくサーヴァントを召喚しただろう

間桐・・・マキリは落ちた魔術師の家系であり、その系譜に魔術を行使するために必要なもの・・・魔術回路が開いている者はいない、いたとしても人間を止めた臓硯という化け物だけであろう

だが桜は違う・・・桜は別の魔術師の家系、遠坂の娘であった、それを養子として引き取ったのだ

こちらにも自分達が魔術師だとは気付かれていないはずだ

故に凛でないのなら桜しかいない・・・だが

「それも無いだろうな」

士郎が言う

桜の性格を考えれば例えどんな事があろうともこんな事はしないだろう

「ま、取りあえずコレを何とかしないとな・・・」

「そうだな・・・じゃあ今夜にでも片付けようか」

そう話しながら二人は学校へと入っていった

 

 

「基点はここだな・・・」

そういって士郎が地面に触れる

昼食時、士郎達は自分達の弁当を持って屋上に来ていた

それは、結界の事を少しでも調べておく為だ

「今、殺すか?」

「いや、今やったら遠坂か桜にばれる」

志貴の言葉に士郎が首を横に振る

今結界を消せば凛と桜はそのことに気付くだろう、そうしたら自分たちの素性が露見してしまう可能性がある

「ま、そうだよな・・・」

「危険を取り除きたいのは分かるけど、焦るな・・・今夜やればいいさ」

士郎が志貴の肩を叩く

「ああ、じゃあ飯でも食うか」

そういって士郎と志貴が屋上に備えてあるベンチに座る

そして、その時・・・屋上のドアが開いた

「あ・・・」

「え・・・」

二人はドアから出てきた人物に内心驚愕していたが、表向き平静を保った

「あら、こんにちわ七宮君達」

ドアから出てきたのは遠坂 凛であった・・・

「えっと・・・どうしたの?」

士郎が尋ねる

「いえ、大したことではありません。少し屋上でお昼でも食べようかと思っただけですから」

凛が笑顔で返す・・・だが士郎と志貴は経験からしっている・・・この笑顔は、猫の皮を被っている者の笑顔だと

「そっか・・・士郎、俺達はお邪魔しよう」

屋上にはベンチが一つしかない、遠坂さんが地面に座るなんて糊塗するわけも無いだろうし

志貴はそう思い立ち上がる

「ん、ああ」

士郎も続いて立ち上がる

「あ、いえ・・・別にそんな」

それを凛が止める

「でも、遠坂さん地面に座るわけにはいかないでしょう?ましてや俺達なんかと一緒に昼食なんて」

志貴が言う

「いえ、別に構いませんけど?」

「え!?」

「な!?」

流石にその言葉には二人も驚いた

・・・その後、結局士郎と志貴は凛と一緒にベンチに座って昼食を食べることになった

しかし・・・食事の最中、凛は士郎作の弁当を見て少し、一瞬だけ悔しそうにしていたのを志貴は見た

そして、昼食を終え、授業を受け、放課後を迎え、士郎達は一旦家に帰った

 

 

「アーチャー、どう?」

放課後、赤い夕日に包まれた人気の無い教室で凛が呟く

しかし、その耳には自分の言葉への相手からの、サーヴァントからの声が聞こえる

「周囲、少なくとも学校の敷地内に魔術師及びサーヴァントは存在しないな」

「そう・・・じゃあ、行きましょう」

運命の歯車が少しずつ回り始めた

 

 

「士郎・・・今の・・・」

「ああ・・・投影・・・しかも、俺と同じだな・・・」

学校の屋上、先程まで凛、赤い弓兵、青い槍兵がいた所に士郎とセイバー、志貴とアサシンはいた

眼下では赤い弓兵と青い槍兵が夫婦剣と赤い槍をそれぞれ持ち、人間の域を超えた激闘を繰り広げている

そして、今・・・弓兵はその手に名前とは裏腹に夫婦剣を手にした

・・・・・そう、手にしたのだ・・・投影という魔術で作り出して

しかもそれは完璧な贋作・・・

こんなことが出来るのは・・・間違いなく、魔術の特性からいっても衛宮 士郎しかいないのだ

「夫婦剣・・・間違いないな・・・・・・平行世界の俺だ」

そして士郎が呟いた

「なんだ・・・そっちも英霊になるのか・・・救われんな」

いきなり志貴の背後のアサシンが言う

「そんなことを言う物ではありません、ほらマスター、この世界ではならないかも知れないのですから、頑張ればなんかなりますよ」

そしてマスターのことをセイバーがフォローする

「あ、決着つきそうだぞ・・・」

そこで志貴が言う

眼下では、青い槍兵が赤い槍を構えている、だが今までのとはわけが違う

その槍に、大量の魔力が注ぎ込まれる

あれを食らえば、さすがに弓兵とて無事ではすまないだろう

そして、そんなことになれば凛も・・・

「どうする?士郎」

「決まってる」

「何を言っても無駄なのでしょうね・・・まったく、あなたの性格が分かってきましたよ」

「普通なら漁夫の利を狙う物なのだがな」

そう言って、四人は屋上から飛び降りた

 

 

「食らうがいい、我が必殺の」

そしてランサーの槍に魔力が溢れる

「アーチャー」

凛が叫ぶ

「ちっ」

アーチャーは夫婦剣を握り締め、ランサーと相対する

「刺し穿つ(ゲイ)・・・死棘の槍(ボルグ)!!」

そして、放たれる必殺の槍

赤い閃光がアーチャーに迫る

「アーチャー!」

再びの凛の叫び

「ちっ」

そして、ランサーの槍が、アーチャーに

 

「投影(トレース)、開始(オン)」

 

「刺し穿つ(ゲイ)・・・死棘の槍(ボルグ)」

 

ガキィン

 

当たらなかった・・・必殺の槍はアーチャーの背後から放たれた全く同じ形をした槍によって軌道を逸らされ、それがアーチャーの肩を貫く

そしてアーチャーの背後から放たれた槍は砕け散る

「やはり、剣以外は駄目だな・・・」

「そんなことないって、弾いただけでも十分だぞ?」

「そうですシロウ、あなたの業は素晴らしい」

「ほほう・・・特異な力だな」

そして聞こえる四つの声

「今晩は、遠坂・・・出来れば、会いたくは無かったんだけどさ」

「やっぱり、それは無理だよね・・・」

そこにいたのは、鎧を纏った少女と黒い外套の男・・・そして

「七宮君・・・達?」

 

 

驚くよな、やっぱ・・・

士郎達の目の前では遠坂が呆然としている

「っ!どういうこと!?」

そしていきなり怒鳴った

「いや、まあ・・・こういうことだよ」

そういって士郎は右手の指輪を外す、志貴も同じように外す

その瞬間、隠されていた二人の魔力が溢れた

「ほう・・・なるほど」

「ふむ・・・これなら俺達に十分な魔力を配給できるのかが分かった・・・まあ、この魔力量なら大した事ではないのだろうな」

「なっ・・・」

アサシンとセイバーの感嘆の声

そして、凛の驚愕の声

「な、なんで・・・」

そして・・・ただそう呟いた、そうとしか呟けなかった

「まあ、とりあえず遠坂、俺達はお前の味方だよ」

そんな凛に士郎はそう言い膝をつくアーチャーの前に背を向けて立つ

「だらしないな、それでも俺か?」

そして唐突にそんなことを言った

 

 

「だらしないな、それでも俺か?」

目の前に立つ少年、衛宮 士郎が、自分に言葉を放つ

それは自分の心を・・・魂を揺さぶる

「俺・・・だと?」

その瞬間、凛の召喚の失敗のせいで抜け落ちていた記憶が再生していく

「貴様は・・・衛宮 士郎、なのか・・・?」

そして、ただ呆然と呟く

「他の誰だというんだ?」

士郎はそう苦笑を浮かべ、消えた

 

 

士郎がアーチャーの前から消えたかと思うと、次の瞬間士郎はランサーの目の前にいた

「投影(トレース)、開始(オン)」

その手に夫婦剣を握る

そして、それをランサーの首に向けて振るう

「くっ!」

ランサーはいつの間に戻ってきたのか赤い槍をもってそれを防ぐ

数回の攻防、そして士郎が渾身の力を持って剣を振るう

「ちぃ、貴様・・・何者だ!」

ランサーはそれを槍で防ぐ・・・が、威力を殺しきれずに吹き飛ばされる

「喋る必要は無い・・・投影(トレース)、重層(フラクタル)」

士郎は先程まで凛やアーチャーに喋りかけた声とはまったく別の、機械的な声で言った

ランサーの頭上に十三本の剣が出現する

「槍からして、お前はクー・フーリンなのだろうな・・・そして、矢避けの加護は面倒だ」

その剣は、どれもあらゆる加護を無視して突き進む剣

「なっ!」

ランサーは驚愕の表情を浮かべ、瞬時にその場から飛びのく

次の瞬間、爆音に似た音が響く・・・それは、たった一回、たった一回で十三の剣が一点に突き刺さっている・・・ランサーが一瞬前までいたところに

「なんだ、テメェ・・・人間なのか?」

ランサーはどこか、少しだけ楽しそうな表情を浮かべる

「それ以外の何に見える?」

「・・・はっ!最高だ、人間でそんな力を持つなんて、化け物以外の何でもねえな!」

そう言って、ランサーは槍を構える

「いいぜ、やろう・・・お前なら、楽しめそうだ!」

「投影(トレース)、開始(オン)」

士郎は夫婦剣を消し、新たな剣を握り締める

それは・・・黄金に輝く、今は無き剣

「あれは!」

セイバーが驚愕の声を漏らす

「勝利すべき黄金の剣(カリバーン)」

士郎が、真名を開放する

溢れる黄金の光・・・

「ははっ!本当、最高だ!」

そして、ランサーの槍に魔力が集まる

「刺し穿つ死棘の槍(ゲイボルグ)!!」

そして、必殺の槍が放たれる

「これで終わりだ、ランサー」

士郎も、その手に握り締めた黄金の剣を振るった

ランサーより放たれた赤い閃光が士郎が放った黄金の光と衝突する

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

「はぁあああああああああああああああああああああ!」

二人の雄叫びが響き渡る

そして・・・赤い閃光が黄金の光に飲み込まれ、光はランサーを飲み込む

 

 

「やったか?」

志貴が呟く、背後には凛・・・志貴はアサシントセイバーと共に呆然とする凛を守るように立っていた

校庭にランサーの姿は無い

「いえ、あのランサー、強者ですね・・・危機一髪というところで攻撃を避けて逃げました、ですが右腕を失ったようですね」

「あのランサー・・・なかなかにやるな」

セイバーとアサシンが感心したように言う

「いや、敵を誉めるなよ」

志貴がつっこむ

「いえ、敵とはいえあの一撃を避けるとは流石ですよ」

セイバーが志貴にそう言う

「へえ・・・でも、あの攻撃・・・上位の幻想種やら死徒二十七祖やらだと避けられるヤツなんて沢山いるよ?」

そして、志貴がそう言った

「は?」

「なっ」

「え・・・?」

そして、セイバーが、アサシンが、凛が驚愕の表情を浮かべる

「幻想種ですって!?」

「死徒二十七祖だと!?」

「なんでそんなの分かるのよ!?」

そして三人の砲口

「ああ、それは・・・」

「なあ、志貴・・・俺帰りたい、疲れた」

そこで士郎の声がした

「シロウ!大丈夫ですか!?」

セイバーが駆け寄る

「無視は酷いよな・・・」

「す、すみません」

士郎は・・・いじけていた

「しかし、サーヴァント相手に挑むなど、馬鹿ですか?・・・まあ、あの力量なら平気でしょうがね」

「なら馬鹿とか言うな、そして助けてくれても良かったじゃんか」

士郎が愚痴をたれる

「いえいえ、私には戦士同士の一騎打ちを邪魔するなど出来ませんから」

セイバーはその言葉に微笑を浮かべて答える

「そですか・・・・・・」

「ははは・・・じゃあ、とにかく話は後で」

そして、志貴がそう言ってアーチャーの方に歩いていき、アーチャーの肩を持つ

「よいしょっと」

「な、貴様なんだ!?」

アーチャーが抵抗しようとする・・・しかし、力が入らない

「わっ!おとなしくしろよ、まったく・・・遠坂さん」

そういって志貴が凛に声をかける

「ふぇ・・・あ、な・・・なに?」

呆けていた凛が慌てて返事を返す

「アーチャーに何とか言ってくれないかな?」

志貴が苦笑を浮かべてそう言う

「あ・・・そうね、状況を説明してもらいたいし、アーチャー・・・おとなしくしなさい」

「う・・・くそ・・・」

凛のことばでアーチャーが抵抗しなくなる

「じゃあ行こうか」

「そだな、帰ろう」

士郎と志貴が溜息をつきながら言う

本当に・・・前途多難である

 

 

 

感想(後悔)

書いといてなんですが・・・士郎強いですねぇ・・・(死