ねこー、ねこー







「ひまだな」

「ひまだね〜」

「暇すぎっつーか…………ひまだ」

「うん、とってもひまだね」

「せっかく学校をサボったのに、この暇さ加減はどうだ」

「う〜んと……映画でも見にいこうか?」

「却下」

「え〜、なんでぇ〜?」

「おまえ、さいきん映画館に入りびたりになってるだろ。日々を同じ行動で潰していくのはダメ人間への第一歩だぞ」

「う……それはそうかも。 シエルなんて毎日おんなじもの食べてるからあんなになっちゃったんだもんね」

「うむ。 違うと思うがその通りだ。 一つの事に打ち込むのはいいことだけどな、それによる進歩がないと意味はないんだぞ」

「じゃあじゃあ、ここに三時間もいるっていうのはなにかスゴイ意味があるの?」

「…………………ない」
















              ネコ達の昼下がり

















 
 寝て起きたらアルクェイドの部屋にいた事は、激しく疑問だった。
 疑問だったが、とりあえず両脇に寝ていた吸血姫と黒猫少女を起こして事情聴取を始める。
 なんでも夜のうちに俺をさらってきたらしい。

 …………………………まあ、この非常識さも今さらではあるが。

 みっちりと六法全書の内容と鬼妹の恐ろしさを語ってから、じゃあこれからなにしよっか、という話になる。
 その態度がまた癪に障ったので、とりあえず貫手で数回胸の感触を楽しんでやる。すんでのところで避けられて
しまったが。

 ちぃっ

 アルクが俺と一緒に盗ってきた服はなぜか学生服だったから学校にいくとことも考えたが、やはりというかなんというか、
すがるような二対の瞳に根負けして一日中遊ぶことになってしまった。

 ついこの前までは強引に誘ってきたのに最近ではみょーにツボを押さえてくるというか、へんな知恵をどこからか仕
入れてくるようになってきた。


 多分、遠野家に出没する家政婦さんの仕業じゃないかと思う。




 ……おそろしい人だ。いろんな意味で。











「ないんだったらどっかいこうよ。 わたし、まだシエルみたいになりたくない」



 遊ぶといっても制限がある。

 学生服だから繁華街に出るのは気が引けたし、俺が休んでいる事を不審に思ったシエル先輩とエンカウントしてしまった
ら、この(比較的)平凡な非日常が死に彩られた日常に変わってしまうので遠慮する。

 朝起きた時点で非日常なのかもしれないけど、なんのまだまだ。いつもの三人衆の激突時に比べれば……。

 結局はなにをするでもなく、部屋でごろごろしながらアルクェイドの提案する遊びを片端から斬っていた。

 それもそろそろ限界みたいだ。

「どっかって、どこに行くんだ?」

「だから、どっか。 公園でもいいから、行こう」

 三時間弱、アルクェイドとレンの話を聞いていて思ったのだが、二人の提案は、なんというか斬新である。
 常識に囚われないというか、固定観念がないというか。
 思いもよらないことを提案する事があるのは聞いていて面白い。
 いかんせん、まだ社会に馴染みきれてない二人にはまだ選択肢が少なすぎたようだが。

「………」

「ほらほら、レンも行きたそうじゃない」

「ん、わかったよ。 公園でいいんだな?」












 でもまぁ、このメンバーで行動を起こせば当然なにか起こるわけで。
























「何匹目?」

「36…37匹目よ」

 俺とアルクとレンの三人で座っているベンチには、やたら猫が群がっていた。

「40は超えそうね」

「―――――」

 公園でまったりしていたらレンにネコが寄ってので、折角だからとどれだけのネコが集まるか数えてみたらいつのまにか
予想を上回る数になっていた。

 レンの膝の上は言うに及ばず、俺の肩の上、アルクの頭までネコネコネコネコネコネコ。

 足の踏み場もないほどのネコが公園を支配している。

 はじめは俺も数えていたのだが、ごちゃごちゃと移動するネコ達に惑わされて、いまではアルクェイドがその超感覚でもっ
て把握していた。

 始めは微笑ましくネコに囲まれた俺達を眺めていた老夫婦も、ついさきほどなにやら拝みながら公園を出て行ってしまった
し……

 迷惑になってるよなぁ。

「集まりすぎじゃないか?」

「そうね。ネロでも連れてこないとこんな風景は見れないわね」

 いや、ネロでもここまでネコばっかりじゃないだろ。

「このネコ、なんでこんなに集まってくるんだろ」

「……フェロモンかしら」

 フェロモンって………まあ、レンならありえない話じゃないだろうけどさ。














 アルクの頭頂部を占拠するネコの上にさらにネコを乗っけたりして時間を潰す。

 夢の中でもみたが、いま眼前に広がっている風景は、なんというか別の意味でユメに出そうだった。

 寄ってくるネコは数知れず。公園に入ろうとしては逃げていく常識人も数知れず。

 俺達は動くに動けず、ひたすらまとわり付いてくるネコを愛でる。

 黒やら白やら斑やらが目の前を蠢くのは、質の悪い催眠術にでもかけられているかのような。

 人当たりならぬ、猫当たりをしてしまいそうだ。




















「アルクェイド、あっついから離れろ」

「しょうがないでしょ、こうしないとネコが間に入って来るんだから」

「―――――。」

こて。

「おわっ。 ……レン、眠いのか?」

「あ、ずるいっ。 わたしもするっ」

「アホっ、お前じゃ頭の重さが違うだろうが。ネコが苦しむ」

「む、志貴が持ち上げといてくれればいいじゃない」

「俺は四匹ものネコとレンの頭を同時に持ち上げる自信はない」

「なら、私が空想具現化で持ち上げるっ」


ブワぁッ


「―――――。」

「…………これはまた」

「自分でやっといて言うのもなんだけど、絶景ね」

「たいして動揺しないコイツらもすごいと思うけどな」










  そうして、

    アルクェイドとレンに膝枕をしながら
  
        夕日を背負って空中遊泳をする猫たちを眺めていた。











 ああ、まったり。


































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 あとがき


 初めての方ははじめまして。師走でございます。

 とりあえずレンとアルクを題材に猫の話を………とか思ってこれを書いたんですが、どうにもねぇ。

 山なし落ちなし意味なしの三なしがそろったこの作品、どうでしょうか。

 これを読んでまったりした気持ちになってくれれば意味はあったんでしょうけど、いかんせん文章力が乏しすぎました。

 もっと精進します。

 あと、最後のくーそー具現化のシーン、分かり難いですよねぇ。

 アルクが勢いあまって周囲の猫も一緒に持ち上げてしまったってことです。

 わからんわなぁ。
  
 以下、レンの視点ってことでどうでしょう。

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「と、遠野くん、なにやってるんですか!?」

「……うぃす、シエル先輩。 夜の見回りご苦労様です」

「いえ、仕事ですから………じゃなくて、ちゃんと質問に答えてください」

「我が使い魔の魅力値をあなどってました。これ、ちょっとした固有結界みたいですよね」

「………そうですね。私も『獣王の巣』かと思ってしまいましたから。猫の海と猫の雲って感じですよ」

「お、上手い。アルク、しえる先輩に座布団一枚」

「猫の座布団でいいかにゃー」

「重みで潰れるだろうが」

「潰れません!失礼なこといわないで下さい!」

「………座るんですか? ネコに」

「あ、いや……座りませんけど…………じゃなくて、遠野くんっ」

「ああ、分かってますよ先輩。 ほら、空想具現化で座布団ぐらい作れるだろ、アルクェイド」

「違います! どうしてこんなことになってるのか説明してくださぁぁああッ!?」

「ほらほら、あんまり動くと落ちるわよ。 ネコたちが潰れたら責任取れないでしょ」

「本当に空想具現化を使わないで下さい! っていうか、なんで座布団が飛ぶんですか!?」

「こうしとけば黒鍵も撃てないでしょ。そこで大人しくしてなさい」

「っ…この、不浄ぉおっ!?」

「わかってないわねぇ。その見えざる座布団は私の意志次第でどうにもなるのよ」

「なめないで下さい、この程度っ」

「むだむだむだむだぁー。 志貴の膝はわたしのものだもーん」

「わっ、ちょっ、このままネコの中に降ろす気じゃないでしょうね!?」

「頭上も眼下もネコで埋め尽くされるがいいにゃー」





















「……まったり」

「―――――まったり」




 きょうも

 しきといっしょに魔空間でまったりするのでした。まる。