玄関での一騒動を終え、その場にいた全員が屋敷に入り居間へ向かう。

だが志貴は俺との闘いで少しぼろになった制服を着替えに行くと言って自分の部屋に向かった。そしてその後をメイド服の少女が追っていった。

故に現在居間にいるのは志貴とその少女を除く者達だった。

(・・・なんか視線が痛いな)

俺以外の全員が全員、怪訝そうな表情で俺を見ていた。だから居間の雰囲気が少し重い。

(当然と言えば当然か、いきなりの登場だからな)

彼女達の視線に気付いていない振りをして俺はしばらく居間の窓から見える景色をぼんやりと眺めていた。

(これからどうなるかわからないが・・・)

窓から眺める夜空は星が輝き、綺麗に彩られていた。

(少なくともヤツの犠牲者が出ることがないように気をつけないとな・・・)

「お待たせしました燈真さん」

居間の中に私服に着替えた志貴とメイド服の少女が入って来た。志貴が戻ってきたおかげで場の暗さが払拭されたような気がした。

「さて、それじゃあ説明するとしますか」

 

 

 

「っと、その前に自己紹介だな。俺の名前は浅神燈真だ、これからよろしく」

そう言って俺は皆に頭を下げて挨拶した。

ちなみに今の全員の立ち位置は俺と志貴、いつの間にか髪が黒になっている遠野秋葉とアトラス院のシオンがそれぞれソファーに腰掛け、志貴の後ろにメイド服の少女、遠野秋葉の後ろに割烹服の少女。そして俺から少し離れた所の左に真祖の姫君、右に埋葬機関のシエルが立っていた。

「私はアルクェイドよろしくね〜」

「アトラス院に属するシオン・エルトナム・アトラシアです」

「志貴様の身の周りのお世話をしている翡翠です」

「私は秋葉様の身の周りのお世話をしている翡翠ちゃんの双子の姉琥珀です」

既に俺と挨拶を済ませている人以外の人達がそれぞれ俺に挨拶をしてくれた。

(しかし真祖の姫君は随分とフレンドリーだな・・・聞いた話とは全然違うな)

聞いた話を思い出していたが今はそんな時ではないので思い出すのを俺は止めた。

「じゃ挨拶も済んだし本題に入るか。何から話そうか?」

「ではまず私達の敵になる者のことをお願いします」

俺の言葉にシオンが反応を示した。俺は彼女に向かって無言で頷いた。

「ヤツの名はエミオス。身体的特徴は黒の長髪に赤いサングラスをしていると思う、そして魔術師から吸血鬼になったヤツだ。実力的には死徒27祖には劣るが・・・ヤツが完成させたある一つの魔術を含めば27祖と同等の存在に成り得ると俺は思う」

ここにいる皆は死徒27祖というのを良く知っているのか誰もが真剣な表情をしていた。

「ある一つの魔術・・・ですか?」

シエルが俺の言葉を復唱した。

「ああそうだ。これはさっきここにいるほぼ全員がヤツの研究対象と言った事と関係がある。」

「「「「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」」」」

誰もが無言で俺の一言一句を見逃さないように耳をかたむけて集中していた。

「ヤツに言わせると誰もが何らかの才能か特殊能力を持っているらしい、本人が自覚しているしていないに関わらずにな。

 そしてヤツが創りあげた魔術は吸血行為を行う際にその対象の才能もしくは特殊能力を引き出すというものだ」

「ふ〜ん、それが本当なら確かに私達は研究対象になるわね、でもその目的は一体何なの?研究と言うからには何か目的があるんでしょう?」

アルクェイドが最もな疑問を口にした。皆の視線はアルクェイドに向き、そして再び俺の方に向く。

「・・・・・・目的に関しては良く分からない。過去数度ヤツと交えたがヤツの目的は知ることは出来なかった」

「そうですか・・・それで他にそのエミオスという者の情報はあるのですか?」

今度は遠野秋葉から質問してきた。

「さっきも言ったとおりヤツは自分の死徒を簡単に言えば強化することが出来る。だからもしヤツの死徒と出くわしたのなら決して油断しないで欲しい。どんな能力を持っているか分からないからな・・・・・・・・ヤツに関して言えるのはこんなところか、他に何か聞きたいことはあるか?」

皆に視線を投げかける。他に聞きたいことが思いつかないのか皆は少し悩んでいる表情をしていた。

そんな中おずおずと手を挙げる人物がいた。それは志貴だった。

「あの燈真さんの事ですけど、興味本位なんですが燈真さんはどんな魔眼を持っているんですか?」

志貴の言葉に驚き、皆はそれぞれ泳がせていた視線を再び俺に向けた。

「俺の魔眼か?ん〜〜何て言ったら良いのか・・・」

俺は座っている椅子に背中を預け視線を天井に向けて腕組をしながら少し考えた。

「俺自身がこの魔眼を直感的に理解しているからあまりこの眼に関して調べたことが無いんだ」

少し考えた後、椅子に背中を預けるのを止めて俺は腕組を解いて自分の左手で左目の辺りを覆った。

「だから、まあこの眼に俺が名付けるとしたら極視の魔眼ってところかな?」

「極視の魔眼・・・」

「ああ、この眼は持ち主の動体視力や静体視力、その他いろいろ。かいつまんで言えば自分の視力を自由に変化させることが出来る魔眼なんだ。遮蔽物が無ければ何百m先の物でも視ることが出来る」

「・・・・・・すごいですね」

感心したように志貴は言った。恐らくは俺たち二人が闘っていた時のことを思い出しているのだろう。

「それはそうと、志貴お前も魔眼を持っているんだろ、どんなヤツなんだ?」

俺も志貴と同様に興味本位で聞いてみた。

「俺のですか・・・驚かないで下さいよ。俺の魔眼は直死の魔眼です」

「何だと!!!」

俺は思わず立ち上がってしまった。その行動を含め、あまりの驚きように全員が驚いていた。

「あ、悪かったな驚かせてしまって。まさかそんな凄いものを持ってるとは思わなかったから」

俺は謝りながら椅子に腰掛けた。

(しかしよりにもよって直視の魔眼とはな・・・同じ退魔を生業とする一族で、志貴と式、ついでに言えば男と女・・・因縁があり過ぎだ!・・・・・・・・・そう遠くない未来でなんか凄いことが起こりそうだな)

式の事を思い出しながら俺は一つの心配事をした。

(エミオスの野郎、もしかしたら志貴が直視の魔眼を持っていることに気付いてるかも知れないな)

俺が知る限りでのあいつは情報の塊そのもの、そんなヤツが徹底的な下調べをしないはずが無い。

(となると今回の目的は志貴か・・・)

「あの、宜しいですか?浅神さん」

ヤツについて考えを張り巡らしていたところに遠野秋葉が俺に尋ねてきた。俺は視線だけ彼女に向けた。

「もう夜も遅いので話は終わりで構いませんか?」

「そうだな、そちらからの質問が無いならな」

俺は皆を見たが先程の話の間に何も思いつかなかったのか誰も質問をしようとする者はいなかった。

「そうですか・・・では兄さん」

柔らかに微笑みながら遠野秋葉は志貴に喋りかけた。

「ん?何だ秋葉?」

「セッキョウです・・・」

この世の言葉とは思えないほどの恐ろしい口調で志貴に微笑む遠野秋葉。いつの間にか彼女の髪は再び赤くなっていた。

そして一方志貴は何を言われたか理解できていないのか完全に固まっていた。

「えっ・・・と、秋葉、それは無しになったんじゃ・・・」

「私はそんなことを言った覚えはありませんが」

確かに玄関で会った時に彼女は志貴に説教(?)をすると言っていた。そして今の今まで彼女と一緒だったがそのことを撤回する様な事は言っていなかった。

「いや、ちょっと待った。秋葉自身もう夜も遅いってさっき言ったばかりじゃないか」

言いながら志貴はこの居間からゆっくりと退室しようとした。しかし・・・

「それは私と兄さんだけの話ではないからです。今からするコトは私と兄さんの問題ですから」

今度は全身から禍々しいオーラを遠野秋葉は解き放ち始めていた。

「あ〜、いや・・・、でもな・・・」

それを見ても志貴はまだ抵抗の意思をあらわにしていた。

「まだ受け入れないのならもっと凄いコトになりますよ兄さん」

遠野秋葉は志貴に強力な睨みを利かせた。それに志貴は完全に萎縮してしまった。

「た・・・助けてくれ!アルクェイド!」

そして遂に他人に助けを求めた。志貴は姫君の元に向かった。

「しき〜こういうのって自業自得って言うんでしょ?」

状況が分かっていないのか志貴に笑いながらアルクェイドは答えた。

そんなアルクェイドを見て志貴は方向転換をして今度はシエルの方に向く。が・・・

「因果応報です。遠野君・・・」

どこか呆れた表情をしながらシエルは言った。つまりは助けないということ。

だが志貴はまだ諦めていないのか今度はシオンの方に向く。

「身から出た錆です。志貴」

志貴が頼るのを予想していたのか志貴の方は向かずにお茶を啜りながらシオンは言った。

シオンの言葉を聞き、志貴の顔に絶望の色が出始めていた。

しかし・・・しかしまだ諦めきれないのか今度は翡翠と琥珀の方に志貴は向く。

「私は秋葉様に雇われている身ですから・・・」

「志貴さ〜ん、私がこんな面白そうなことを止めると思いますか〜?」

一人はとても気の毒な表情をして、一人はこの状況を間違いなく楽しみながら答えた。

ガクッ・・・

終に志貴の膝が折れた。

床に手を着きながら顔を伏せ、絶望に浸りきっていた。

「ようやく諦めましたか、兄さん」

待ちに待ったという顔をして遠野秋葉は一歩一歩踏みしめるように志貴に向かっていく。

遠野秋葉が近づくのを感じてか、志貴が伏せていた顔を上げる。

そんな志貴と俺は目が合ってしまった。

「と、燈真さーーーーーーーーん!!!!!」

その場から一瞬で闘っていた時のスピードを遥かに超えた跳躍で志貴は俺にすがりついた。

「助けてください燈真さん!俺は・・・俺はまだ死にたくありません!!!」

志貴は完全に俺の服を握り締めていた。離そうかと思ったが志貴の小動物のような顔を見ると出来そうになかった。

「出会ったばかりの人に頼るなんて見苦しいですよ兄さん」

まだ諦めていなかった志貴に怒りを表しながら大股で遠野秋葉はこちらに向かってきた。

近づいてくる自分の妹を見て志貴は俺の後ろに隠れる。

(・・・助けてやるか。これからのことに影響したらまずいからな)

「まあ秋葉さん、志貴もこんなに怯えて・・・いや反省しているんだから許してあげてよ」

なるべく彼女の怒りを買わないように言葉を選んだが彼女を止めることは出来なかった。

変わらずにスタスタとリズム良くこちらに近づいてくる。

(う〜ん・・・効果があるか判らないがアレを使ってみるか)

俺は自分の左の袖口に手を突っ込みアレを手探りで探した。その間も確実に遠野秋葉はこちらに近づいて来る。

彼女が後数歩でオレの目の前に辿り着くところで俺はアレを手探りで見つけることが出来た。

「取引をしないか?秋葉さん」

「・・・取引?」

取引という言葉が出てきたのが意外だったのか彼女は歩くことを止め、立ち止まった。

「そう取引。珍しい物あげるから今日のところは勘弁してやってくれ」

俺の言葉を聞いて遠野秋葉が驚きの表情から不敵な笑みへと変わる。

「私と取引ですか?面白そうですね、一体何を私にくれると言うのですか?」

俺は左の袖口に突っ込んでいた手を引き抜き、アレを彼女に手渡した。

それは一枚の写真

「志貴が赤ん坊の時の写真」

「「「「「「「!!!!!」」」」」」」

写真には笑いながらハイハイをする可愛らしい赤ん坊が写っていた。

遠野秋葉はそれに顔を埋め、体をわなわなと震えさせて網膜に焼き付ける様に見ていた。

そして彼女の後ろにはいつの間にか今まで傍観を決めていた女性陣がその写真を見るために争っていた。

志貴の方を見ると驚きの色が見えたが自分が助かったと思ったのか涙を流して喜んでいた。

(想像以上の効果だな・・・)

俺がそう結論付けると同時に遠野秋葉が手渡した写真を俺の方に差し出した。

「わ・・・私は遠野の人間です。この程度の取引では引き下がりません」

「「「「「「!!!!!!!」」」」」」

遠野秋葉の言葉は女性陣の争いを止め、志貴を再び絶望の淵に堕とした。

(余程志貴に説教をしたいんだな・・・)

だが俺は焦ることなく今度は右の袖口に手を突っ込み、取り出した物を彼女が差し出した手に渡した。

それもまた一枚の写真

「志貴が自分の親指をしゃぶっている写真」

「「「「「「「♯%♭√★$♪≠℃Бё=ヲ」」」」」」」

写真には間違いなく自分の親指をしゃぶっている赤ん坊の姿があった。

最早言葉にならない絶叫をあげる女性陣、そして志貴。

「この取引!受けます!!!」

顔を真っ赤にした遠野秋葉はそう言って居間から物凄いスピードで退室して行った。

その後を同じように我先にと他の女性陣が出て行った。

俺と志貴は完璧に彼女たちに居間に忘れ去られた。

「・・・あの、燈真さん」

驚きのショックで平常心を取り戻したのか志貴は俺に話し掛けてきた。

「どうしてあんな写真を持っていたんですか?」

尤もな事だった。だが俺にはそれに答える事が出来る。

「何だ。やっぱり思い出していないのか」

「?」

「無理もないか。俺達はお前がまだ赤ん坊の時ぐらいに何度か会っていただけから」

「そう・・・なんですか?」

「ああ、お前の親父さんと俺の親父の仲が良かったのか何度かな・・・お前が2歳ぐらいになった時から急にうちの親父が行かなくなってそれきりだ。だから覚えていないだろ?」

「・・・ええ。でも何となくですが・・・俺は燈真さんに会った時懐かしさを感じていましたよ」

そう言って志貴は微笑んだ。

「そうか・・・」

その笑みは赤ん坊の頃の笑顔そのものの様に俺は思えた。

あの頃に戻ったかのような感覚を感じて俺は胸の中が懐かしさで一杯になった。

「なんにせよだ。これからよろしくな、志貴」

俺も志貴に微笑んだ。

これから始まる戦いを覚悟して――――――

 

 

 

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後書き

 

遅くなってすいません、やっと書けました。

今回の話は正直壊れまくっているような気がします、許してください。

急ぎ気味の上今回の話が説明中心だったため中々上手く書けませんでした・・・修行が足りない(涙)。

話の上ではこれで2日目終了です、な・・・長かったここまで来るのに。

そして掲示板を見ていない方がいるかもしれないのでこの場で再び言います。

更新は不定期にさせて頂きます、すいません。

それではこの辺で失礼します、ヴァイ オリンでした。