屋敷から逃げ出す様に…と言うより逃げて来て俺達二人は街中まで到着していた。
ここまで来るまでそこそこの距離を歩いたがすれ違う人の数は記憶に留まる程度の人数にしか会わなかった。
今までの道のりの殆どは住宅街の中だ。だから少ないと言えばごく当たり前の事になるだろう。
次に街の中だが…
やはり人は少ない。ここ最近は頻繁に外に出るといったことはなかったが記憶の街の中の風景を今の街とを比べると人の数は まばらだと思う。
殺人事件の報道が功を奏した…と言う言い方は変だろうが実際に深夜ということを差し引いても人は少ない。
これほどまでに街にいる人が少ない少ないと俺が思ってしまっているのは…
(ただの気のせいか、それか気負っているのかのどちらか…かな)
―――――――再び殺人事件が起きた
これが間違いなく今自分の中を支配している思考だろう。
そこで心の中に浮かび上がってくるものは数多くの犠牲者達…その殆どが何故自分の命が蹂躙されるのか分からずに殺された。
俺が思う犠牲者は三つ、
一つ―――ホテルで食事扱いされ死んでいった顔も名前も知らない百数名の人達
一つ―――偶々公園を通りかかっただけで殺されてしまった女子高生
一つ―――絶対に死にたくは無かった筈なのに死を許容した弓塚さつき
「ぐっ」
視覚が一瞬赤色に閃く。
頭の中に俺が彼女を殺したという真実が、そして彼女を殺したという感触が手の中に甦る。
そして…ココロの中には、彼女に対する悲愴感が罪悪感が哀惜感が焦燥感が………いや何よりも後か
ガスッ!
いつの間にか手を建物の壁に打ち付けていた。
(俺の馬鹿野郎ぉ、あの時は…ああするしか………)
…………犠牲になってしまった人達を思うと胸が絞めつけられる。
何も犠牲になった人達を全員救えた筈だなどと馬鹿なことを思っている訳じゃない。
ただ………ただ俺は彼ら、彼女らを救えるに近い立場であったにも関わらず何もしてあげることが出来なかった。
それが…それだけが嫌だった、心残りだった。自分は余りにも無力だと思い知った。
―――だから、今度こそは―――
これからの覚悟を決めた為か敵を探す足取りが速くなる。
「え?」
が驚いて俺は歩くのを止めた。
急に俺の少し前を歩いていた燈真さんが立ち止まったからだ。
「ここまで来ても何の当たりも無いか…志貴、何か考えは無いか?」
いきなりな言葉だった。
屋敷を出てから俺達は別段これといった会話もなく普通に歩いていた。
外に出てから何の迷いも無く堂々と歩いているから俺は何か考えがあるものと思っていたのだけど………
「燈真さんは何か考えはないんですか?」
当然の疑問を投げかける。その回答は、
「う〜〜〜ん、そうだなぁ」
何だかお悩みの様子だった。
「俺はここでは前にも似たような事件があったからその経験者の志貴に任せてみた方が良いと思うのだが…」
と燈真さんは自分の考えを口にする。それに対する俺の回答は、
「このままで行くしかないと思いますよ?何か考えろと言うなら考えますけど…」
「……………」
「……………」
沈黙…ただの沈黙…語り合う言葉は無い!と言わんばかりの沈黙。
互いに考えながら向き合っていたので傍から見ればとんでもなく間抜けに見える。間違いなくそう見える、確実に見えるだろ う。
二、三分後先に口を開いたのは燈真さんだった。
「はぁ…互いに考えが出ないならしょうがない、このまま続けるか」
「そうですね、そうしますか」
気を取り直して真面目に探索を続けようとして歩き出した時、
―――――ドクン…
唐突に胸がはね上がった。
―――ズキッ
続いて鈍い頭痛が起こる。自然と頭を守るかの様に右手を頭に持っていく。
「んっ…」
「どうかしたのか、志貴?」
「いえ、何でもありません」
返答する前に既に俺は辺りを見回していた。
もう何度も何度も経験している唐突な頭痛。これが起こる時にはいつも決まって近くに人ならざる存在がいる時だ。
「んっ……なるほど血が反応したのか。ということは近くにいるんだな?」
無言で頷く。俺に遅れながらも燈真さんの血も反応した様だ。
そして二人で辺りに気を配る。相手に悟られない様になるべく自然に。
―――――時間が流れる。その間も歩く。歩く。その間も時間は流れる。
(………かれこれ二、三十分ほどたったのだろうか…)
実際に時間を計っている訳ではないので本当はもっと長いかもしれないし短いのかもしれない。
いずれにしろ始めはまだ街中の方を歩いていたが気配を頼りに相手を探している内に、街の外れの宅街の近くまで来ていた。
(…おかしいな。気配はあるのに何処から発せられているのかがはっきりしない)
残り香の様に漂う気配。気配の元に近づくために移動するが幾ら進んでも魔の気配は強くも弱くもならない。
歩く。何処まで続くか分からないけど歩く。今の自分を考えるとまるで食虫植物に誘われる虫の気分だ。
けど、それでも歩く歩く歩く………確かに気配はあるのだからそれを信じて歩き詰めた。
「………あ」
そこで気付いた。
前方を歩いている一人の男が目に付いた。
黒い背広を着たサラリーマン風の男。他にもここに来るまで何人もの人間を注視していたが何故かその男が気になった。
だから眼鏡を少しずらして魔眼でその男を視る………直感した通りだった。
その男には普通の人よりも数多くの線が存在していた。いや数多くというよりも既に六割方、線と点で体が満たされていた。
故にあれは既に終わっている存在…少なくとも人としての生は終着している。
「燈真さん、あれです」
燈真さんの服を引き、目配せだけで目当ての者を示す。
「あいつか」
俺の視線を追って吸血種となった男を見つけると、燈真さんは瞳に刻む様に睨み付けた。
「…よし、それじゃもう少し間を空けて尾行するぞ」
「はい」
返事をした後、今一度男をしっかり見る。
―――――瞬間、いつの間にかこちらを向いていた男と目が合った
男の顔は笑っていた。何が可笑しかったのか分からないがとても嬉しそうに、楽しそうに笑っていた。
俺から燈真さんに視線を動かすと男は直ぐに走り出し、間近にあった脇道に入り込んで行った。
「チッ!気付かれてたのか!」
男を追いかける為に同じく燈真さんも走り出す。
何故男があんな顔をしたのか疑問を抱きながらも俺は燈真さんに遅れを取らない様に走り出した。
―――時を遡ること約三十分前、人の気配がないある場所にて
「どうやら動き出したようですね」
男は廃棄物に鎮座していた。
建物と建物とで自然と出来上がったコンクリートの道。男はT字路になっている道と道とが交差している点に鎮座している。
道を作り出している建物は既に空虚、誰も存在していない。ここいら一帯にあるのはただの物、物、物。
何かの柱になったであろう木材、散乱している砕けたガラス、何かを詰められているダンボールの山…
今ここいら一帯にあるのはただの物、物、物…そして建物や物で出来た影、影、影。
男は夜空を見上げていた。
黒く黒く、ただ深く黒く染まった空を、その中で己が存在を魅せつける様に白く輝く月を。
「浅神燈真と遠野志貴が組んだということはもう一組、姫君と代行者が出るでしょうね」
赤いサングラスをかけたその男は黒い空を、白い月を愛でていた。
そして彼の後ろに存在する影と影とが重なり合って出来上がった静的でありながらも威圧的な暗闇………
その中に暗闇のせいで視覚的には陽炎の様な不確かな存在だが間違いなくそこには四つの存在がある。
「エミオス様よぉ、何だってあんたはこんな回りくどいことが好きなんだよ?」
闇の中の一人が喋る。その声の中には不満の色が表れていた。
「我らが主の決定だ。言葉が過ぎるぞ、ハーキス」
それを戒める様に近くにいた者が手に持っていた袋に包まれた棒の様な物を突き出した。
「黙れガキが・・・捻り潰されたくなけりゃテメェの得物を引っ込めろ」
武器を突きつけられた者…ハーキスは自分に歯向かう者に対して嫌悪感と怒りをあらわにする。
「おやめなさいデイス、彼にそんなことをしても意味はないですよ」
そこをエミオスが仲裁した。
デイスと呼ばれた者は己の主人の命令を聞き、ゆっくりと自分の武器を手元に引き戻す。
「俺はなぁ、早くあの燈真の糞野郎をぐちゃぐちゃにしたくて堪らねぇんだよ!!!」
だがもう一人、ハーキスは自分の意見を引かず、むしろ自分の不満を思い切り吐き出した。
「落ち着きなさいハーキス、善処はしてあげましょう」
「へへ、そうでないとな」
自分の主の言葉を聞くと先程までの気迫が嘘の様に消え果て満足気な声をあげる。
「では……彼らも動き出したことですし我々も動き出すとしますか」
闇夜に佇む四人の主は腰掛けていた廃棄物から腰を上げてパタパタと廃棄物から着いた埃を払う。
「それでは鈴春、話した通り彼らの方は頼みましたよ」
エミオスが視線を向けた先にいる者は無言で頷き、その場から離脱した。
「あなた達は私に付いて来なさい。私達は彼女達の方に向かいましょう」
エミオスは歩き出す。その後をついさっきまでいがみ合っていた二人と終始無言だったもう一人が後を追う。
「彼ら四人の実力、とくと拝見させて頂きましょうか」
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後書き
どもヴァイ オリンです
やっと話が本腰に突入〜〜〜……スイマセン時間かけ過ぎました
ここで一つ言いますけど鈴春と言う名前は適当に付けました…一応女性のつもり
設定で中国人にしようと思っただけで深い意味は何もありません。ホントです
読み方は適当に読んでやって下さい。私なりにも少し調べたのですが結局中国語はワカリマセンでした
チクショー!世の中うまくいかないなぁ〜………それでは皆さんさようなら〜