「ふぅ、何だかもうすっかり秋だなぁ」

学校からの帰り道、俺はそんなことを呟いた。

俺がもう秋だと感じたのは帰り道にある落ち葉が増え始めたことに加えて偶に吹く風が冷たさを帯び始めているのと…

太陽が沈む時間が早くなって帰る時にちょうど夕暮れを迎え始めているからだった。

その目の前に広がる風景は俺にとっては鮮烈なものだった。何故ならちょうど一年前、俺の知っていた世界が劇的に変化したからだ。

―――遠野の屋敷に戻った事と遠野家の隠されていた秘密

―――――その一年前に起きた殺人事件に巻き込まれた事とその真相

――――――――そして………そして今何よりも……心に甦ってきているのは…

 

(弓塚さつきという一人の少女と交わした約束………)

 

俺は今ちょうどそのある約束を交わしたあの坂道を登っていた。

一年前のことを思い出す

全てが夕焼けで橙色に染められた風景の中で俺と彼女は昔の話をしながら帰宅していた

俺はその話のことは覚えていなかったが弓塚はまるで昨日あった様な喋り方をしていた

その時俺は初めて弓塚さつきという少女を知った…その少女を知ることが出来た………

初めて俺と彼女が友人としての一歩を踏み出したばかりなのに…俺は……俺は………

 

―――――俺は彼女を殺した

 

弓塚は「ピンチの時は助けてね」と言った。そして俺はそれを何の迷いも無く受けた。だというのに俺は救いを求めた彼女を救うことなく殺した…殺してしまった…。

………あれは今でも正しかったとは信じている。

だが答えとしてあれが本当に正しかったのか…あるいは間違っていたのか…その答えは未だ出てはいない………

そのせいなのだろうか…あのことを思い出す度に俺の心の中に何か疑念という黒い靄の様なものが滲み出てくる。

(一体どうしたらこの靄は晴れるんだろうな…)

何かの拍子で彼女のことを思い出すと決まっていつもそう思った。答えが欲しいと。

もしかすると一生消えないかもしれない。けどそれは当たり前のことだろう。

彼女、弓塚さつきを殺したことは遠野志貴にとって決して逃げることの許されない罪なのだから―――――

「なぁ〜に辛気臭くなってんだ、志貴」

「うわぁあ!」

突拍子も無く耳元で聞こえた声に驚いて俺は前のめりに倒れかけた。崩れた体勢を戻しながら振り返る。

「燈真さん!」

「よっ、どうかしたのか?」

俺に不意打ちな声を掛けたのは昨日出会ったばかりの浅神燈真、その人だった。

「どうしたのかじゃありませんよ何ですかいきなり…」

「いや〜、何か妙に黄昏てるな〜と思ってな、驚かせたら面白そうだったからつい」

「何ですか…それ」

呆れる俺をよそに燈真さんは「はっはっはっ」と白い歯を見せながら楽しそうに笑っていた。その時初めて気付いたが…

「あれ?それ俺の服ですか?」

「ん?ああそうだぜ。悪いな勝手に借りてしまって」

「いえ構いませんけど…どうして俺の服を?」

「何だか良く分からないがお前のトコの妹さんに服を着替えろって言われてな」

何と言うか俺も似た様な状況が過去に多々あったので容易くその状況が想像できた。

「お前の妹さん怖いこと、怖いこと。あれじゃ志貴、お前も気苦労が絶えないな」

「…分かってくれますか!燈真さん!」

嬉しさ余り燈真さんの手を取って両手で固く握る。秋葉に関して少しでも理解者が出来たことが嬉しかった。

「あっ…そう言えば…」

「?」

「その秋葉のことで今危惧してることがあるんですよ」

「何だそりゃ?」

「実はですね…」

 

 

 

「私も行きます」

…やっぱりそう言うと思ったよ。

時刻は大体午後10時過ぎ、場所は遠野邸、既に全員集合している状況だった。

全員が集まりきったところで秋葉が呆れるくらい俺の想像通りの言葉を吐いてくれた。

「行くって…何言ってるんだ。そんなの駄目に決まってるだろ」

「兄さんこそ何を言ってるのですか。度々言っているでしょう、この辺り一帯で起きる魔に関する事件は我々遠野の管轄

 です。相手がどの様な者かが分からない以上、他人任せには出来ませんから私も行くと言っているのです」

「けどなぁ…」

秋葉が言っていることはとても正論だ。遠野家の裏の部分を知っているからその事に関しては文句が言えなかった。

「アルクェイドや先輩も何か言ってやって下さいよ」

それでも俺は大事な妹に、秋葉に残って貰いたいから二人に助けを求めた。

「ん〜私はどっちでも構わないけど」

俺の意図などお構い無しにそっけなく答えるアルクェイド。

「私もどちらでも構いません。足手まといにならないならですけど」

こっちはこっちでお構い無しの上に何故か半分喧嘩腰になっているシエル先輩。

(幾ら何でもそれは無いでしょー!先輩!!!)

「…それはどういう意味ですか?」

いつの間にか先輩に向かって臨戦状態な秋葉。

「含みはありませんよ、言葉通りの意味です」

そんな秋葉に向かってしれっとした顔で冷静に答える先輩。

睨み合う二人。そして…二人の目線が火花を散らしている(様な気がする)。

って!傍観者を気取ってる場合じゃない。早く止めないと。

「私は反対です。秋葉は私と共にここに残るべきだと思います」

「「えっ」」

シオンの一言で俺と秋葉の声が重なった。

「俺もそうだな。君にはここに残って貰いたいな」

続いて燈真さんまでもが秋葉が行くことを反対した。

「どうしてかしら?二人に納得の出来る説明を要求するわ」

先輩に食って掛かった勢いを残しながら秋葉が二人に向き直る。

「理由ですか?構いませんよ」

「俺もいいぜ。多分理由は同じだと思うが」

「ええ。私もそう思います」

何気に連携の取れた喋りをする二人。

「理由は二つあります。一つは相手の手の内や敵の数が分からないとうこと」

…?不思議に思った。シオンの言ったことは、こと戦いに関して言うなら必ず付いてまわるものだ。

俺も実際そうだった。ネロやロア、ワラキアの夜と闘う時は相手の手の内など知る由も無かった。

「それは当然のことでしょう。そのことに関してなら私だけでなく兄さんやアルクェイドさん、先輩にも言えることのはずです」

秋葉も当然その事を突いて来る。俺も当然そう思う。

「悪いがそのことに関しては君は例外だ」

だが燈真さんがその意見を却下した。シオンを見ると動揺が表れていないので彼女も同じことを思っていた様だ。

「なっ!…どういうことですか」

「そうだな…説明するより実際に体験させた方が良いかもしれないな」

そう言うと燈真さんは皆から少し離れて、そして秋葉を招いて互いに距離を取り合った。

「どんな方法でも良い、俺に触れてみろ」

「それが一体何になるんですか?」

「いいから…やってみな」

渋々といった表情で身構える秋葉。それとは対極的に先程から変わらず燈真さんは殆ど棒立ちの状態だった。

―――空気が次第に静まり

―――――殺気に近い様な気迫が空気を犯し始める

―――――――秋葉の髪が紅く染まり出し…そして!

「はい…これで君は一回死んだ」

「なっ!」

燈真さんは既に秋葉の目の前に立ち、秋葉の首筋に俺と闘った時に使っていた黒い小太刀を添えていた。

(疾い…)

状況から察すると秋葉は燈真さんが声を掛けるまで目の前にいることに気付かなかったのだろう。

正直俺自身もいつ動いたのかは分からなかった。俺が分かったのはせいぜい抜刀した後ぐらいだった。

アルクェイドや先輩ならもう少し早く気付いていたかもしれない。

「ちなみに今のは志貴や姫君、代行者は抜刀した瞬間ぐらいには既に反応していたはずだ」

燈真さんは抜いた小太刀を袖の中に戻し、秋葉から少し離れた。

「簡潔に言うとな、君は闘う者としては余りに訓練と経験不足なんだよ」

「今回の敵は俺達とってはまだ謎だ。だが向こうから俺達を見れば俺達の手の内は殆ど筒抜けだろうな」

「だからもし君の能力が完全に封殺される様な敵と闘うことになった時…君は生き残れるか?」

「……………」

決定的な言葉だった。燈真さんが言ったことは尤もな事だった。

秋葉の能力…檻髪は強力な能力だ。使い勝手の良さなんかを考えると俺の直死の魔眼よりも使える能力だろう。

どんな能力で檻髪を無効化出来るかは想像もつかないが…それが出来るとなると実戦経験の乏しい秋葉にとってこの上なく危険なことだ。

その事を秋葉も身をもって理解したせいか反論する様子も無く押し黙っていた。

「さっきのやり取りの中で俺は自分の魔眼を使った。君の髪や瞳孔…他にも全身の筋肉や骨格にも注目してな、そうすればどんな能力かは知らないが発動する前に攻撃を仕掛けられる」

(つまりはそうやって秋葉の能力を少なからず殺したというわけか…)

「それとな、もう一つの理由ってのは彼女達二人だ」

真面目な雰囲気からいきなりあっけらかんとした声を出して燈真さんは翡翠と琥珀さんを指差した。

「昨日も言った通りエミオスにとって俺達は研究のサンプル扱いだ。だからその二人もヤツの標的に成り得る、故に彼女達二人を守れる人物が必要なのさ」

「ですから秋葉は私と一緒に残って欲しいのです。私がいれば不測の事態というのはまずありませんから」

少し微笑みながら自信たっぷりに言い切るシオン。何とも彼女らしい言葉だ。

「…わかりました、ここに残りましょう」

少々納得のいかない顔をしているがどうやら残ってくれる様だ。

俺としてはありがたいんだけどな。

「それじゃそろそろ行きますか」

「そうだな、効率を考えると二人一組で行くのが良いだろうな」

「おわぁ!」

燈真さんが言い切るとほぼ同時に何かが俺に覆い被さって来た。

「なら志貴は私とで決定だね〜」

覆い被さって来たのはやはりと言うか当然の如くアルクェイドだった。

「お待ちなさい…誰が、あなたと行くと言いましたか?」

俺からアルクェイドを引き剥がすように先輩がアルクェイドの肩を持つ。

「何言ってんのシエル?カレーの食べ過ぎで頭悪くなっちゃった?」

「…何ですって」

「どうやら耳まで悪くなったみたいね〜♪」

「あは…あはハは」

先輩の声は笑っているのに顔が笑っていない、って言うか顔が固まってる。ということは…

(あっ…先輩がキレた)

「この単細胞吸血鬼!今日という今日こそ死んでしまいなさい!!!」

いきなり先輩がアルクェイドにいつかどこかで見た様な素晴らしいフリッカージャブを連発する。

「ぶみゃー!志貴は私の恋人なんだから当然じゃない!ケツデカはひっこんでろ―――!!!」

こっちはこっちで俺から離れ、ネコミミが生えてデフォルメ状態になるアルクェイド。

そしてこれもどこかで見た様にアルクェイドは先輩のジャブをダッキングで見事に避けていく。

「誰が誰の恋人ですって…」

その馬鹿げているけど凄い状況に秋葉までもが参戦した。

髪が真っ赤で揺らめいている上にまるで鬱憤を晴らそうとしている顔つきはどういうことですか?秋葉さん…

「………行くか志貴」

「…そうですね。矛先が俺に向く前に行きましょう燈真さん」

「翡翠、琥珀さん、シオン後は頼んだ」

「どうかご無事で、志貴様」

「手馴れたものですから安心してくださ〜い」

「よろしく頼みましたよ、志貴」

けたたましい騒音が鳴り響く屋敷を後に俺と燈真さんは街へと向かった。

だって仕方ないじゃないか…………あんな所にいたら命が幾つあっても足りやしない。

 

 

 

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後書き

 

ども皆さんヴァイ オリンです…

あ〜もう何か後書きで書くネタもなくなってきたな〜

何か良いネタないかな〜もうこれで終わりにしようかな〜

あ〜い〜う〜え〜お〜………

…やっぱり思いつかない

………もし宜しければ感想下さい。励みにも勉強にもなるので

それではまた…