季節は夏を終え秋となっていた。
誰もがあの暑い夏から開放され、人々はまだ多少の残暑が残るものの涼しい季節である秋を満喫していた。
そして時が流れれば冬が来て、春が来て、また夏が来る。
そして人々はその度に寒い季節になった、過ごし易い季節になった、また暑い季節になったと言う。
そして時が流れるということは人それぞれ多かれ少なかれ自分の身に何かしらの事件が起こる。
他人にとってはどうでもいい事でも当人には大事件と言うことがある。
だから人々は忘れる、忘れてしまう・・・・過去のことを。
ここは三咲町―――
表向きには現代の波に乗ってかどうかはわからないがそれなりに都市開発が進む何処にでもあるような町だった。
高層ビルが多くはないが立ち上がっていたし、交通の便も悪くはない、娯楽も探せばちゃんとある町。
人々が笑って暮らせるそんな町だった。
あくまでも・・・表向きには・・・・・・・。
この町は過去二度連続殺人事件があった町として取り上げられた。
一度はほんの数ヶ月前に、そして一度は去年のちょうどこんな季節に。
二つの事件は死体の血が極端に失われるという共通性を持ち話題となった。
一つは犯人は現代に現れた吸血鬼か!と言われる程のものだった。
一つは噂が噂を呼び本当に殺人事件があったのかわからなくなってしまう程のものだった。
だが人々は忘れた。
殺人事件といえども所詮は他人事、ニュースやラジオで取り上げられても人々は忘れる。
だが事件を忘れない者もいる、忘れられない者がいる。
そう・・事件の当事者にとっては・・・・・。
夜――――――
ある一人の青年は立ち尽くしていた。
年の頃は二十歳前後か、中肉中背、顔つきはそれなりに端正なもので探せばどこかで見つけられる様な青年だった。
彼の特徴を挙げるなら髪は短いが前髪が少し目にかかっていることと全身が黒尽くめであることだった。
着ている服やズボンは全て皮製のもので、多少服のゆとりを残してはいるがほぼ彼の体のラインに合った服だった。
服にはそれ以外の特徴もあり服の袖が少し長く、腕の一本はゆうに入るものでそして・・・
見る者全てが「戦闘服」というイメージを持たせるものであった。
そんな青年は路地裏に立っていた。
その路地裏は何処にでもある路地裏で変わったことなど二つしかなかった。
一つは地面や周りの壁が赤いペンキで乱雑に塗りたくられていた。何かが潰れた様な塗り方をしているものがあれば、
スプレーの様な物で吹き掛けたものもあった。そしてそのペンキからは鉄の様な匂いがした。
もう一つが人であったモノがあった。幾つもの手が、足が、胸が、頭が、ごろごろ、ごろごろ転がっていた。
転がったモノからは赤いペンキが流れ、モノによっては臓器が飛び出ているのもあった。
彼が佇む路地裏はそんな場所だった。
普通の人間ならまず直視できない惨状を彼は意に介せず平然と佇み、転がっているものを観察していた。
――この切り口は・・やっぱりあいつか・・・――
その切り口は細胞を傷つけることのないように綺麗に、繊細に切られていた。
周りの惨状を分析し青年は結論づけた。
――これは俺への挑戦状だな――
その結論と共に彼の顔が不敵に笑った。
「さって、これからどうするかな。」
青年は自分が持っている情報を整理し、思考を働かせた。
――やっぱりまずあいつの所へ行って、事情を説明して協力してもらうか・・・――
青年は更に思考に没頭していった。
そこに何かの足音が響いた。彼は自然と足音のする方向へ向いた。
そこには一人の女性が立っていた。
彼女は聖職者というイメージを持たせる服装と編み上げのブーツを履いていた。
夜だったので顔つきまでは良く分からなかった。それはおそらく相手も同じだろう。
だが青年は彼女の姿を見ただけで誰だかわかった。
――彼女は確か・・・――
そう考えたがそれは彼女の一言で掻き消されてしまった。
「貴方は何者ですか?」
その一言と共に彼女は常人ではまず怖気づく程の強烈なプレッシャーを放った。だが・・
「何者と言われてもねぇ。」
青年は平然と受け答えた。
二人の間に何ともいえない雰囲気が流れ、静寂に満ちていた。
「なら質問を変えましょう、あなたはこの惨状に関係してますか?」
「ん〜どうだろねぇ〜。」
青年はすっとぼける。それが彼女の癇に障ったようだ。
「喋らないと言うなら実力行使に出ますよ。」
先程とは比べ物にならないプレッシャーが解き放たれた。
しかしそれすらも平然と受け止めて青年は考え込んでいた。
――ここで彼女の実力を知っておくのも悪くないか――
青年はそう結論づけた。
「どうかしましたか?喋るなら今の内ですよ。」
「やだな〜喋らないなんて言ってないでしょ、埋葬機関第七位のシエルさん。」
青年は笑いながら答えた。
だがシエルと呼ばれた彼女は頭を一瞬で戦闘モードに切り替えた。
そして黒錠を一本弾き飛ばす。黒錠は青年へと襲いかかった。
しかし青年は黒錠を体捌きだけで避けた。
――良い反射神経だ。一朝一夕で身に付くものじゃないな――
冷静に実力を判断して、そして青年は彼女に接近戦を挑んだ。
彼女もそれに応え、打撃と蹴り技の応酬が始まった。
それが数分間続いた。
――「弓」と呼ばれるだけあって接近戦は苦手か――
早々に判断し、そして・・・
「隙あり!」
「ぐっ。」
青年は彼女の腹に深々と拳を突きたてた。
彼女・・シエルは苦悶の表情をしながらも反撃を試みた。だがそれは空を切るだけだった。
青年は既にバックステップを踏んでシエルとの間合いを広げていた。
そして二人は見詰め合う。
互いに一瞬で行動を起こすために構えた。が・・・
「ありゃっ。」
青年は素っ頓狂な声を上げて体勢を崩してしまった。どうやら足を血で滑らしたようだ。
「貰いました!」
青年が体勢を崩したところへ全力で三本の黒錠をシエルは弾き飛ばした。
そしてシエルは後悔した。
――しまった!黒錠を全力で放ってしまいました!――
彼もそうだが彼女も相手を推し量るため、話しを聞くために全力は出していなかった。
だがあまりの実力者ぶりについつい加減を忘れてしまった。
そんな彼女の意志とは裏腹に黒錠は彼の心臓めがけて飛ぶ。
だが三本の黒錠は彼に突き刺さることはなかった。
「なっ・・・。」
シエルは驚愕した。それもそのはず、彼は黒錠を避けることもなく、弾くこともなく・・・
ただ三本の黒錠を指の間に挟んだのだから。
「ふぅ・・、危ないあぶ・・ってあちゃちゃ!」
青年はすぐさま黒錠を離し、指に息を吹きかけた。
シエルはそんな光景を見ようともまだ驚いたままだった。
なぜなら彼女の経験上、今まで体勢を崩した者はまず間違いなく黒錠が突き刺さるか、それを弾くか、無理矢理でも避け
るかのいずれかであった。だが目の前の男はどの手も取らず受け止めた。しかも・・・
――私が投げた黒錠は回転しているんですよ――
そうシエルは黒錠を投げる時、いつも爆発的な捻りを加えて投げている。
だから目の前の男が取った行動が信じられなかった。
――何者なんですかこの男は――
やっと冷静になり再びシエルは青年を睨んだ。
青年も既に臨戦状態に入りシエルを見ていた。だが彼の視線はシエルではなく、シエルの後ろへと向いた。
「誰だ!」
その言葉と共にシエルは後ろを向く。だが・・・
そこには誰もいなかった。
状況を理解し自分の愚かさを後悔しながらもすぐさま振り返るが、最早そこには誰もいなかった。
そしてどこからともなく声が聞こえた。
またお会いしましょう―――――
その声を聞いてシエルは彼を追いかける気力を削がれてしまった。
「ホントに何者なんですか?」
シエルは怪訝に思いながらも、しかたなく目の前の惨状をどうにかするために意識をそちらへ集中した。
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後書き
第一話です
どうでしたか?私はオリジナル路線を爆進するつもりです
そして文章の長さは毎回変わると思います、上手い具合に分けていこうと思ってますので
私は駆け出しのSS書きなので話が進めば感想よりも苦情や質問を受け付けたいなぁとか思ってます
あくまで私個人の思いなので気にせず感想も書いてください
ちなみに題名は「まじんげんそうたん」です
では第二話でまたお会いしましょう ヴァイ オリンでした