今、一つであった者達が互いを見詰め合う。

 

仮に彼らが無手で、事情を知らない第三者が見ても何が起こるか判らないなどありえない。

 

七つの夜を駆ける殺人貴と

 

天使の笑みを持つ死神―――――

 

今夜

 

二人は

 

 

 

 

マジリアウ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天使の笑みを持つ死神

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いくぞ。」

 

先に仕掛けたのは殺人貴だった。

 

姿勢を低くし、クラウチングスタートの様な構えをとり、一気に蹴り足を爆発させる。

 

一瞬で死神の足元に辿り着きそのまま七つ夜で足を薙ぎ払う。

 

「チッ!」

 

死神は殺人貴の狙いをすぐさまさとり、バックステップを踏む。

 

そのステップで10m程の間合いが開く。

 

殺人貴は悠然と起き上がる。

 

「ほう・・・、今のを避けるとはな。」

 

再び見詰め合う。

 

殺人貴は楽しそうに言う。

 

「成る程、俺がくたばっていた時にあの鬼神を殺ったことがかなりの経験になったということだな。」

 

再び構え合う。

 

「強くなったという訳か。これなら納得いく死闘ができそうだ。」

 

殺人貴の言動に少しずつ冷静になる死神。

 

――今のは危なかった・・・――

 

その思考と同時に自分のズボンを見る。

 

ズボンの膝の部分と脛の間に両足とも切られた痕が残っていた。

 

――くそ!やっぱりまだ迷いがあるのか――

 

――おそらくここで死ねば間違いなく死ぬ。あの時とは違う本当の死を迎えるだろうな――

 

深くそして迅速に考え込む死神

 

――やはり迷いを断ち切るには・・・――

 

殺人貴を強く睨み付ける

 

それと同時に瞳の黒がうっすらと蒼くなり始める。

 

殺人貴の体に線が視え始め、点が数点視え始める。

 

――自分から仕掛けるしかない!――

 

「今度は俺の番だ、殺人貴。」

 

その一言と共に先程の殺人貴と同じような姿勢をとり、蹴り足を爆発させる。

 

殺人貴の足元まで迫る死神。

 

その光景を見てバックステップの姿勢をとる殺人貴。           ・・・しかし!

 

足元まで辿り着いた死神は一瞬で殺人貴の視界から消える。

 

その光景に驚きつつも殺人貴は即座に判断し、七つ夜を持つ右腕を折りたたみ七つ夜を肩口に置く。

 

そこに死神の七つ夜が迫り互いに反発しあう。

 

その反動を利用し死神は樹の幹へと着地し、そのまま根元に滑り落ちる。

 

「やるな死神。まさかあそこから後ろに回りこんで斬りつけて来るとはな。」

 

その言葉と同時に振り向く。

 

「先程の俺の攻撃を利用するとは随分と冷静になってきたものだ。」

 

「そいつはどーも。」

 

三度見詰め合う。

 

それから数刻の間、両者とも動かなかった。

 

いや、傍の目から見ればそう見えるだけで実際は双方は肩を動かし、足を動かし、指を動かし、目を動かしていた。

 

互いに相手を出し抜くための最初の一手を打ち続けていた。

 

更に数刻、不意に・・・

 

殺人貴が後ろへと振り向く。

 

――なっ・・・――

 

驚く死神。そこに・・・

 

振り向きざまに七つ夜を投擲する殺人貴の姿が映った。

 

――これは!――

 

その光景にあの時の夢が思い出される。そして殺人貴は跳ぶ。

 

あの夢を一瞬で思い出したおかげか、はたまたあれを経験していたおかげか、

 

死神はナイフを受けることもなく、頭を引き抜かれることなく右前方へと駆け抜けた。

 

                   しかし!

 

「やはりそう動いたな・・・。」

 

耳元に殺人貴の声を聞いた。

 

視認することなく身を屈める死神。だが・・・

 

左腕に激痛を感じる。

 

――左腕をやられたか!――

 

そして上空にいるであろう殺人貴に無理矢理蹴りを入れ間合いを取る死神。

 

二人の距離が開く。苦悶の表情をする殺人貴。

 

「まさかあそこから反撃してくるとは俺も油断がすぎたか・・・。」

 

蹴りが入った腹の部分の制服の汚れを起き上がりながら払う殺人貴。

 

そこに

 

「何故だ、完璧に避けたはずじゃ・・・。」

 

左腕を押さえながら起き上がる死神。その表情は困惑に満ちていた。そんな死神に殺人貴は言う。

 

「油断しよって。過去に殺リ合った時に出した技をそのまま出す馬鹿がどこにいる。まあしかし、だからこそ効果があるとは思ったが。」

 

そう言って死神の後ろの樹を指差す。

 

その樹には何かが突き刺された痕が残っていた。

 

それを見て驚く死神。

 

「まさか・・・。」

 

「そう、そのまさかだ。俺はお前が避けることを見越して初めから樹を狙っていたのだ。後ろが樹だからなお前は後ろ

 には逃げないと思っていた。後は単純だ、刺さったナイフを抜きお前が逃げた方向に樹の幹を足場に跳べば良い。」

 

その言葉を聞き先程の殺りとりを思い出す。同時に左腕が痛み出す。

 

――左腕はまだ動くか?――

 

左腕を動かす。腕は動いた。しかし、

 

――これじゃナイフを持って自由に動かせても、思いっきり斬りつけたりするのは無理か・・・――

 

自分の腕の状況を確認する死神。そんな時に殺人貴は言う。

 

「どうやらまだ覚悟しきれていない様だな。」

 

「何・・・。」

 

「お前は目先の事しか頭にないようだが、仮に俺がお前を殺して表に出たらどうなると思っているのだ。お前を憎んでいる俺が表に出たらどうなると・・・。」

 

その言葉に愕然とする死神。

 

「貴様ァ!」

 

「ようやく理解したか。そうだ、お前を憎む俺がお前の大事なものに何もしないと思ったのか?」

 

その言葉が決定的だった。

 

死神の中でナニカが崩れ始めた。

 

同時に殺人貴の殺気とは比べ物にならない殺気が放たれる。

 

「良い風だ・・・。」

 

再び死闘という劇が幕を開く。

 

 

 

 

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後書き

 

・・・・・・・・・すいません。

 

ほんとにすいません。前後編どころか4部作ぐらいになりそうです。

 

一様、話の長さにまとまりをみせたいと思っているもので。

 

読者の方々どうかよろしければ最後までお付き合いください。

 

ヴァイ オリンでした。