夢を見る。

辺り一面は火の海となっており、暗い曇り空を朱に染める。

炎は静かに燃えている、雨が降っても弱まることの無い炎の中に1人の少年が立っていた。

―――――あれは誰だ?

―――――ワカラナイノカ?

少年は何をするでもなくただ空を見上げていた。

―――――わからない、知らないはずだ。

―――――シラナイ?ソレモチガウナ。

周りの炎が勢いを増す。

―――――しかし、まるで生物だな、この炎は。

―――――マルデジャナイ、コレハイノチノカタマリダ。

炎が外側からゆっくりとその勢いを落としていく、いや、少年に引き寄せられている。

―――――これは見たことがあるな。

―――――ナイトオカシイダロウ。

炎は少年の左腕に鎖の跡を残して消え去った。

―――――そうか、ソウダ、知ラナい訳ガナい、何故なラあレハ俺ダ。

視界がぼやける、恐らく朝が来たのだろう、意識が夢から離れていく―――――。

 

目が覚める、まだ眠いが起きてしまったからしょうがない。身体をソファーから起こして服を着替える、昨夜は結局、沙由香をベッドに寝かせてから部屋の隅にあるソファーに横になった。

「さて、町の探索にでも出掛けますか。」

外を見ると日が昇ったばかりだった。

コートを羽織ると廊下に出る、するとメイド服を着た少女がいた。

「おはよう、え〜っと翡翠さんだっけ?朝早いんだね。」

「おはようございます、火蓮さま、私のことは翡翠とお呼び下さい。」

「様付けをやめてくれたらね。」

すると翡翠は気難しい顔になった。

「・・・・・お出掛けになるのですか?」

「うん、昨日着いたばかりだから町の地形について知っておこうと思ってね。まあ下見だけだから三十分位で戻ってくると思うから。」

「畏まりました、それでは用事がありますので。」

「用事って?」

「姉に秋葉様へ手紙を頼まれていまして。」

「そう、悪いね引き止めちゃって。」

「いいえ、それではこれで。」

「頑張ってね〜。」

翡翠と別れて再び玄関に向かう。

(とりあえず、事件のあった現場に行ってみるか。)

玄関の扉を開ける、冷たい風が意識を活性化させていく。

 

 

何処からか轟音が聞こえてくる、何故だろう、音がだんだん近くなっている。

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!

恐怖心で目が覚める、ベッドから飛び起きて部屋からの脱出を図る。

急げ、急げ、急げ、急げ、急げ、急げ、急げ、急げ、急げ、急げ、急げ!!

体内の警報が危険レベルが最大である事を告げていた。

(どこから逃げる?ドア?見つかる確立が非常に高い。部屋に隠れる?論外だ、絶対に捕まる。窓?今この状況では最良の選択だ!)

窓に駆け寄り、開けようとするが開かない、見ると接続部分に白っぽい固体が引っ付いていて、微かな匂いからそれが何であるかを理解する、木工用ボンドだ。

「琥珀さぁ〜〜ん〜〜!!」

恐らく、いや確実に犯人であろう人の名前を叫ぶ。

そうしている間にも轟音、もとい足音は接近してくる。

(窓を壊すしかないかっ!)

急いで机の上に置いてある筈の七夜を取りに行くが、そこに七夜は無かった。

「くそっ、やられた、こうなったらドアから逃げ――――。」

ドドドドドドドドドドッ!!キキーーーーーーーッ!

車の急ブレーキみたいな音が屋敷に響く、勿論、屋敷内に車が入る訳が無く、当然この音も人間が出した事になる。

轟音は止み、静かな時が流れる、もっともその時間は三秒にも満たなかったが。

ドアがゆっくりと開けられる、そこには彼の妹が髪を赤く染めながら仁王立ちをしていた。

彼女の兄、遠野志貴は思った。

(・・・・もっと早く起きればよかった。)