シエルの考えでは一方的に自分が負けるはずだった、事実、黒鍵は既に残り2本、こちらの攻撃は届く前に薙ぎ払われる、しかし相手にも異変がみられた。

最初は日本刀くらいの長さだった剣が今は短刀程度の長さしかない。

「やはりそれほどの代物だと魔力の使用量が違うんですか?」

多少の勝機がみえて少し余裕が出てきたのか、笑みをこぼしながら聞いてみた。

「・・・・・・・・・。」

一方、京介は難しい顔をしていた。

「シエルさん、1つ聞いていいか?」

「・・・何でしょう?」

「この町で何か事件は起きていないか?」

「起きてますよ。」

「どんな事件だ?」

「人体消失事件って呼ばれていますね。」

事件の名称を聞くと苦虫を噛み潰したような顔になった。

炎の短剣をビー玉程度の大きさにまとめる。

「シエルさん、1つ良い事を教えましょう、既に着いている奴もいますがこの町に死徒の群れが来ます、普通とはちょっと違うので警戒してください。」

「・・・・・・はぁ!?」

突然の話に困惑するシエルを余所に話を続ける京介。

「まあ、群れといっても4、5匹程度ですけどね、全員元魔術師の筈ですから調べるのは簡単だと思いますよ。あっ、普通と違うのは死徒ではなく死者ですから間違いのないように。それでは、急用ができたのでこれで失礼します。」

京介は右手を前方に向ける。

「ま、待ってください!そいつらの目的はな――――。」

「フレア。」

言い終える前に京介の右手から光が放たれ、視界が白く染められた。

「――――っ!」

気配のする方に黒鍵を投げつけるが、見えていても当たらなかったものが今の状況で当たるはずがなかった。

二分ぐらい経つと視界が戻って来た、辺りに気配はなく完全に見失っていた。

「〜〜〜〜〜〜〜、ああもう!何なんですか一体!?」

そう叫ぶと落ち着いたのか、帰路についた。どこかで「うるせえ!」と怒鳴り声が聞こえた。

 

一方その頃、沙由香は走っていた、追われるという恐怖に怯えながら。

逃げ切れないはずがない、何故なら追う側は鈍い死者、いかに子供といえど走れば逃げきれる。

しかし、恐怖は払いきれない、時折後ろを振り返り追いついてないか確認をする。もし其処に影があったならそれで終わり、彼女には自身を守る術がない。

「ハア、ハア、ハア、――――――っ!」

あった。人型の影が三つ走ってくる、それを確認するとスピードを上げる、もう振り返る必要はない、こうなれば走りきるしか方法はなかった。

しかし、逃げ切れないのは彼女自身理解していた、あれは普通の死者ではない意識も有り知能も有り身体能力も上がっている、しかし親の命令に逆らえない哀れな死者、まさしく生きたマリオネットだ。

少女は京介の緩みきった笑顔を思い出していた。

火蓮京介、今彼とは運命共同体という関係にある、奴らの狙いもそこにあるのだろう。

今まで斜め下を見て走っていたが、ふと前を見るとT字路に差し掛かっていた。

一瞬迷ったが右に曲がった、しかしそれはどうでもいい決断だった。

「追いかけっこは終わりだ。」

目の前にさっきの影とは違う男が立っていた、後ろを振り返ると男が四人、恐らく両方の道で待ち伏せていたのだろう。

「私に何か用なの?」

「いやお前に用は無いんだが、中身には用があるんでね。」

「そう、・・・あいつの命令?」

「そうだ、主は何故かあいつを欲しがっている、その為にはお前が、いやお前の右胸にあるものが必要らしい。」

「取り出す自信があるの?移植した人ですら戻せないのに。」

「今までそれを研究していたのだ。」

「納得、だから今まで手を出してこなかったわけね。」

「そういうことだ、わかったらおとなしく来て貰おうか。」

「悪いけどそんな事はさせない。」

その声に沙由香が振り返る、しかし、視界は灰で埋め尽くされた。

風が強く吹く、灰は吹き飛ばされ、後ろにいた四人の男達は姿が無く、1人の少年が立っていた、その顔は京介に負けず劣らず緩んでいた。