遡ること三日前、セブンが貯金通帳を確認した事によって始まった。

「・・・・・マッ、マスターーーーーーッ!!どういうことですかこれは!?」

シエルは、面倒くさそうに聞いた

「なんですかセブン大きな声を出して、近所迷惑ですよ。」

精霊である彼女の声が近所に聞こえる訳がないが、一応注意する。

「こ、これが騒がずにいられますかっ!教会からの経費が一日で半分になってますよ!一体何に使ったんですか!?」

ちゃぶ台をドンドンと叩きながらシエルに抗議する、それをシエルは聖母のような柔らかな笑顔で言った。

「寄付ですよ、世界の恵まれない子供達の為に私達も身を削らないといけませんからね。」

「嘘です!マスターがそんな人の為になる事を進んでする訳ありません!」

ヒュンッ、ドドッ。 二本の黒鍵がセブンの顔左右1cm横に突き刺さる。

「ほう、私が進んで人の為になる事をする訳がないと、・・・何故そう思うのですか?」

天使のような悪魔の笑顔で尋ねてくる。

「ヒイィイイッ!だ、だってそんなお金があるならカレーを食べるのがマスターじゃないですか。」

怯えながらも必死に抵抗するセブン。一方、気まずそうなマスターことシエル。

「・・・・・・・・まっ、まさか本当にカレーに使ったんですか!?経費の半分を全て?」

「・・・・全部カレーという訳ではありません、交通費も含まれています。」

開き直ったのか、さも当然のように告げるシエル。

「一体何処まで食べに行ったんですか!?」

「セブン、スープカレーというのを知っていますか?」

「知ってますよ、この前マスターがテレビでやっているのを見てたじゃないですか、たしか取材していたのは北海ど、・・・・まさか北海道まで行ってきたんですか!?いつ!?」

「先週あなたが乾君の家に避難したときですよ。」

幸せそうに先週を思い出している。

「そういえばなんか満足感のある顔でしたね。一体何杯食べたんですか?」

「一店舗平均四杯ぐらいで、三十軒まわりましたから・・・約百二十杯くらいですかね〜。」

気を失う一歩手前で踏み止まるセブン。

「1日でですか?」

「いえ、三日に分けて食べましたよ、一日ではきついですからね。」

「マスター、それは交通費ではなく立派に旅費です。」

「とにかく!お金はもうカレーとなり私の血と肉になりました、今更元に戻すことなど出来ません!」

胸を張りながら告げる。

「堂々と言わないで下さい!ああもう!只でさえ貧しいのに更に貧しくなるじゃないですか!」

ギャーギャーと騒ぐセブン。

「大丈夫ですよセブン。」

落ち着き払った様子のシエル、これに期待を抱かずにはいられない。

「何か策があるんですか?」

「セブン、人間という生き物はどんな困難にも立ち向かえるように出来ているんですよ。たとえ、貴方のニンジンが五本から一本に減ったってどうという事はありません。」

「マスターは減らさないんですか!?」

「・・・・・・そうですね、貴方だけでは確かに不公平ですね、いいでしょう、私も何か節約しましょう。」

「・・・・・・本にしてください。」

「・・・・・・はい?」

「一回の見回りの黒鍵使用数を二十本にして下さい。」

セブンはもうキれていた。

「な、何を馬鹿なことを言うのですか!もし強力な死徒に出会ったらどうしろと、いえ、その前にアーパー吸血鬼とはどうしろと!?」

「黒鍵は拾いながら戦ってください、アルクェイドさんは諦めてください、マスターにはいい薬です。」

「そんなこと許しません!」

セブンを叱ろうと立ち上がろうとして動きを止めた、セブンの手(蹄)の上にあるものが見えたからだ。

そこにあるのは携帯電話だった、先月教会から送られてきた非常用のホットライン、連絡先には泣く子も黙る埋葬機関のトップ、ナルバレックが待機している。

「マスター、それ以上動くとナルバレックさんに経費横領のことを告発しますよ!」

シエルにとっては冗談ではない、こんな事があの嫌味屋に知られたら定期報告度に何を言われるか、考えただけでもぞっとする。

「わかりました!わかりましたからそれを仕舞ってください!」

「わかってくれれば良いんです、あっ、それと私の使用も無しということで、有彦さんの所に行きますから。」

満面の笑みでセブンは去っていった。

これが三日前の出来事である。