血の束縛

 

―――――静寂が町を包んだような静かな夜、まだ午前一時だというのに町に生気は無く歩行者はおろか、自動車も走らない。

所々に建つビルに灯る明かりも僅かしかなく、ただ静かに朝を待っているようだ。

こんな状態になっているのも一週間前から続いている事件の影響であろう。

人体消失事件。それがこの静寂の原因である、事件が起こった現場には血の跡しかなく身体は消えているという奇妙な事件だった。

最初の現場には1人分の血が、次の日には二人分、と被害者は増える一方だった。

そのためか、夜はおろか昼間も出歩く人は日に日に減っていく一方だった。

そうして完成した無音空間、聞こえるのは風の吹き荒れる音のみだった。

だが、冷たい風が心地よく吹くこの空間を壊す異分子が入り込もうとしていた。

「風が気持ち良いな、こんな夜は外で酒を飲むに限るんだがな、させてくれないか・・・。」

男はビルの屋上にいた、黒いコートを纏い灰色のボストンバックを左手に持っていた。

バン、と屋上のドアが勢いよく開けられる、男が振り返ると十歳位の長髪の少女が不機嫌そうに立っていた。

「どうした、気分でも悪いのか?」

「・・・気分じゃなくて機嫌が悪いの・・。」

少女は静かに言い放つ、殺気を感じたが気のせいだろうと決めつけて視線を再び町に戻す。

「この町にあいつはいるみたいだな。」

「・・・・・無視しないで。」

「・・・・時に沙由香さん、なぜに機嫌が悪いのですか?」

「本当にわからないの?」

殺気がどんどん大きくなっていく、しかし、男の頭上には?マークしか浮かばない。

「・・・そう、わからないのね。女の子を二十階まで階段ダッシュさせたのが理由にならないと思うの?」

大気が凍る、もう沙由香の頭の中では殺る気満々らしい。ダレカタスケテ。

「あ、あ〜〜、あれは〜そう!一種の愛情表現というもの・・で・して。」

「・・・・・・・・。」

視線がいたい、殺気が恐い、忘れていたなんてとてもじゃないが言えない。何とかして誤魔化そうと思案していると。

「こんな所で何をしているのですか貴方達は?」

いいタイミングでお茶を濁すきっかけを作ってくれた人が現われた。