それは、ある日の夕方のことだった。



俺が居間の前を通りかかると、イリヤがテレビに噛り付いて呟いていた。



「ダメよイリヤ・・・淑女はこんな格好しないわ・・・ダメよイリヤ。」



その呟きに、若干の違和感を感じた俺だったが、夢中でテレビを見ているイリヤの邪魔をするのも悪いと思って、何も言わずに居間を後にした。



・・・だが、今思うと、それが間違いだったのだろう。



・・・・・・俺はその時、己の全てをかけてイリヤに話し掛けるべきだったのだ。



俺の名は、衛宮士郎。



今、紅い空を飛んでいる物体。



それが俺だ。

















聖杯少女☆マジカルイリヤ!!



第1話


「華麗に爆誕!!聖杯少女☆マジカルイリヤ!!」















夕暮れ時。

俺は、スーパーのビニール袋を両手に持って家へと向っていた。

「ふむ、どうするべきか・・・・・・」

俺は、最近のイリヤの様子を思い出す。

イリヤは最近、何か思い悩んでいる顔をよくするようになった。

俺が、「何かあったのか?」と尋ねても、「なんでもないよシロウ。」と、とって付けたような笑顔で答えてくる。

心配だった。

とても心配だった。











深夜寝る前に、体調の事で悩んでいるのかと思い立った時は、

すぐさま遠坂の家に殴りこんで、寝ている遠坂に叩き起こした。

鼓膜が破れるかと思うほどの悲鳴と、ビンタ百発、ガント撃ち二百発の末にききだした事は、異常無しとの事だった。

「あの子は、貴方より長生きするわよ!!ったくどんな構造しているんだか?」

とは、遠坂弁。

ふむ、安心だ。

・・・だが、会うたびに悪寒が走る笑みを浮かべないでくれ遠坂。











学校で、雷河や藤村組の人達に、性的な悪戯をされているんではないかと思い立った時は、

学校を早退して問い詰めに行った。

木刀と弓の完全武装で、組員を全員病院送り、そして雷河の骨ニ、三本と交換の末、聞いた結果わかったのは、それが俺の勘違いだったということだ。

「悪かった!士郎の想いの人を家で預かると言った事は謝る!!だから許してくれ!!」

とは、雷河弁

ふむ、勘違いは良くない。今後注意しなければ。

・・・何故か次の日からイリヤは俺の家に住み着いた。

・・・・・・それと、俺を組同士の抗争に借り出そうとするのは止めてくれ。いくら金を積んだって、用心棒や、先生といったものにはならないぞ雷河さん?











まさか、桜と喧嘩したか?と思いたった時には、

すぐさま桜の家に聞きにいった。

そこで突然、人間とも思えないような物体に遭遇した為、

魔術を駆使し、セイバーの剣カリバーンを投影し、取りあえず問答無用でぶった切っておいた。

そしたら何故か、桜に泣かれるほど感謝された。

・・・・・・一体なんだったのだろうアレは?

感涙を流す桜に、喧嘩のことを聞いたところ、

「イリヤちゃんと喧嘩ですか?もちろんしてませんよ?・・・イリヤちゃんに何かあったんですか?」

・・・桜と喧嘩していたわけではないらしい。











前に弓道部の新入部員歓迎会にイリヤを連れて行った時に、学校でイリヤに何か意味ありげな視線を送っていた奴がいたことを思い出した時は、

先生、男子生徒は言うに及ばず女子生徒にも、拳を持って秘密を吐かせた。

・・・・・・学校で俺に話し掛けてくる奴が激減した。

なぜだろう?俺が何かしたのか?

そして何故か、俺は裏で番長とか裏番とか言われているらしい・・・

なぜだ?

一成に相談しに行ったら、俺に折られた腕を痛そうに肩から吊った一成が、俺の顔を見た瞬間に顔を青く染めていきなり逃げ出した。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なぜ逃げる親友?











「解らん・・・全くもって解らん。一体イリヤは何を悩んでいるのだろう?」

いくら考えても答えは出ない。

「どうしたのシロウ?悩みがあるならわたしに言ってみて。わたし力になるよ?」

悩みが顔に出たのか、イリヤにもそう言われてしまう始末。

・・・・・・俺はイリヤのことで悩んでいるんだよ。

「はぁ〜〜〜。」

答えが出ない悩みを抱えながら、家に歩いていると、通りかかった近所の公園から泣き声が聞こえてきた。

唐突に、ゴミ捨ての時に近所の奥様方と井戸端会議していたときに聞いた話を思い出した。

最近、ヒーローごっこにかこつけた、苛めがおこっているらしい。

「ふぅ、やれやれ。」

苛めは悪だ。

正義の味方を目指す俺としては、見逃すことの出来ないことだった。

俺は嘆息と共に公園に足を踏み入れると、すぐにそれは見つかった。

ヒーローの仮面をつけた5人の男の子が、一人の男の子を囲んで、「アーチャー(レッド)キック!!」、「バーサーカー(ブラック)パンチ!!」、「ランサー(ブルー)ショット!!」、「ギルガメッシュ(ゴールド)チョップ!!」などと騒ぎながら苛めていた。

どうやら、最近テレビではやっている、英霊戦隊サーヴァントの真似をしているらしい。





英霊戦隊サーヴァントとは、アーチャー、バーサーカー、ランサー、アサシン、セイバー、ライダー、キャスター、と呼ばれる七人のヒーローが、七人で一人の敵を苛め倒すといった、有名な戦隊物の流れを汲む人気作品だ。

最近では、ギルガメッシュと呼ばれる、幻の金色のスーツに身を包んだ八人目の謎のサーヴァントが出てきて、さらに人気が上がっているらしい。

苛めている男の子がつけているのは、そのうちのアーチャー、バーサーカー、ランサー、ギルガメッシュだ。

やっぱり、女キャラクターや、ランサーと色が被っていまいち人気の無いアサシンをつけるのは嫌らしく、近くの地面にアサシン、ライダー、セイバー、キャスターの仮面が転がっていた。





「オイ!!止めないか!!」

俺は子供達を止めるために声を上げるが、それは別の声によって消されてしまう。

「絶対に悪は許さない!!」

「なっ!!」

俺はどこか聞いたことのある声に驚いて、その姿を探そうと辺りを見渡す。

子供達も同じようだ。

子供を叩いていた手を止めて、俺と同じように辺りを見渡している。

一向に自分の姿に気付いてくれない子供達に我慢できなくなったのだろう、声の主は自らその場所を明かした。

「わたしはここよ!!」

俺はやっと声の主の姿を見ることができた。







風邪になびくツインテール。



それは、



赤く染まった空を背にしながらも、



なおその色を染めさせない純白の処女雪を思わせた。



力強く子供達を見つめるクリクリっとした可愛らしい大きな目。



それは、



血のように赤くそまった太陽よりも、



さらに紅い。









ジャンブルジムの上で、ツインテールにした髪をなびかせながら、悠然と立つその少女は俺のよく知っている少女だった。

「い、イリヤ?」

なぜ、イリヤがここに居る?

なぜ、ツインテール?

解らない!!

そしてその手に持つステッキ!!

その先端についているのは何だ?

何で宝石とかじゃなくて人形なんだ?

そして何でそれに羽が付いてるんだ?.



人形?いいでしょう。





羽?認めましょう。



でも、




でもね?




いくらディホルメしていてもバーサーカーは無いだろう?








俺にはわからない!!

そして何より!!




何だその服は!!

 



その服は紫色をベースに、各所に大量のフリフリをつけたとても可愛らしい物だ。

それはいい。

それはいいが、

だが何だ!!そのスカートは!!

今にも下着が見えてしまいそうなほど短いそのスカート!!

それは、強い風邪を感じないのか魔法の如くその姿を一定に保っていた。

そして、そこから覗く細い足!!

いくらニーソックスを穿いているとはいえ、

お兄ちゃんはそんなはしたない格好を許しません!!











それじゃまるで・・・・魔法少女じゃないか!!







愕然とする俺を無視して、イリヤ(仮)の口上は続く。



「悪は絶対許さない!!」



子供達は何も答えない。

そりゃそうだろう。俺だって何もいえない。



「愛する人の為!!」



これを見て即座に反応できるのはただの変態だ。



「今、聖杯の導きにより!!」



止めろ!!止めてくれ!!マジで止めてくれ!!



「聖杯少女☆マジカルイリヤここに爆誕!!」



マジカルイリヤの後ろで大きな爆発が起こる。



バサバサ。



俺の手からビニール袋が落ちる。

終わった。

何かが確実に終わった。

地面に膝を付き、力無くうなだれる。

「い、イリヤ・・・なんて事を・・・それに魔術は使うなとあれほど言ったのに・・・・・・・」

俺は、確かにマジカルイリヤの後ろで起こった爆発に魔力を感じていた。



俺の心中をよそにイリヤの暴走は止まらない。



「苛め・・・・・・それは悪!!シロウの為に悪は絶対許さない!!」



イリヤ・・・俺のためなのか?

俺の為だというのなら・・・・・・・今すぐそれを止めてくれ!!



「聖杯の力を今こそここに!!」



そして子供達・・・今すぐ逃げてくれ。

現実を忘れていることぐらい解るけど今すぐ逃げてくれ!!



「イリヤ!マジカルボム!!」



俺は魔力で起こされた爆風を感じながら涙した。

すまん子供達・・・・・・俺は無力だ。













でも、俺はイリヤのお兄ちゃんだ。

間違いは正さなければならない。

子供達・・・・・・君達の犠牲は忘れない!!

俺は立ち上がると、「ごめんね。今見たことは忘れて。」そういいながら、苛められていた子供の目を見つめて魔眼を発動させているイリヤの元に歩いていった。

「ふぅ〜、完全悪滅。」

達成感に満ちた瞳で、満足そうに呟くイリヤに俺は、恐る恐る声をかける。

「・・・・・・・・・い、イリヤ?」

「え?」

俺の声に驚いて振り返るイリヤは面白いほどびっくりしていた。

「え?え?ええ〜〜!!」

俺は驚愕しているイリヤを他所に、周りで気絶している子供達を見渡す。

・・・・・・・・・・よかった。安らかな寝顔だ。

これならば、夢だったと錯覚してくれるだろう。

俺は、未だに驚愕して口をパクパクしているイリヤの肩に優しく手を掛ける。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・イリヤ。」

俺は万感の想いを込め、ただポツリとイリヤの名を呼ぶ。

だが、その想いも当人には届かなかったようだ。

「い、イリヤ?だ、誰それ?わ、わたしはマジカルイリヤ。イリヤ何てかわいい女の子じゃないよ?」

慌ててまくし立てるイリヤに、俺は顔を振って答える。

「良いんだイリヤ。イリヤの俺を思う気持ちはよく解ってるよ。」

「だ、だから、わたしは!!」

その時、突然疾風が巻き起こり、魔法的な理解出来ない何かの力で一定の形を保っていたスカートが何故か捲り上がる。

イリヤは神速の速さでスカートを抑える。

だがしかし、その神秘は俺の脳裏に焼きついていた。

イリヤは顔を真っ赤に染めながら俯く。

・・・・・・・・・・・・・・・そうか、ニーソックスだと思っていたのはストッキングだったのか。

無限の沈黙の後、

イリヤは俯きながら、見上げるように俺を睨んでくる。

「・・・・・・・・・見た?」

俺はそんなイリヤを「畜生!!可愛いなぁぁ〜〜」と思いながら、

イリヤの視線から逃れるように空を見上げる。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・見たの?」

イリヤの追求は終わらない。

うん、妹の間違いを直すのも兄の勤め。

俺はしっかりとイリヤを見つめる。

「イリヤに、レースの黒い下着とガーターベルトは早」

「シロウのエッチィィィィィィィィィィ!!」

俺の言葉はイリヤの叫びと、その魔力の爆発に遮られた。

















そして今俺はここに居る。

真っ赤に染まる空を翔びながら俺はやっとおもいだした。

イリヤが見ていたあのテレビ。

そしてあの時刻。

あの時間には

確か、大きなお兄ちゃんに大人気な魔法少女のアニメが放送されていたなぁ〜と。(爆)























目が醒めると、そこには夕暮れを背にして微笑むイリヤの顔があった。

「あ?シロウ起きたんだ?」

「ん?イリヤ?・・・・・・・・・俺は一体?」

俺はズキズキと痛みを訴える体を起こす。

「だめだよ無理しちゃ。」

イリヤはそう言うと、俺の頭をその太ももに押し付ける。

「な!!イリヤ止め!!」

「だぁ〜め。」

俺は慌てて起きようとするが、イリヤは嬉しそうに笑いながら、俺を抑える力を強める。

カーカー

烏の鳴き声が公園に響く。

俺もイリヤも何も言わない。ただ静かな時間が流れていた。

「公園を通りかかったらシロウが倒れてるんだもん。わたしビックリしたよ。・・・・・・何かあったの?」

「倒れていた?・・・俺がか?」

解らない?

俺が倒れていた?

なぜ?

どうして俺は倒れていたんだ?

その時、頭痛にもにた痛みを伴って、ジャングルジムの上に佇む何者かの映像が頭に浮かんだ。

俺は、イリヤの膝から飛び起きる。

「ど、どうしたのシロウ?」

辺りを見渡す俺に、イリヤが不思議そうに尋ねる。

「イリヤ、何か変な格好をした女の子を見なかったか?」

「へ?女の子?見てないよ?・・・だって公園にはシロウしか居なかったもん。」

「そ、そんな馬鹿な!!」

思い出せ!!

確かに居たはずだ!!

あの・・・

あの・・・・・・・・

あの・・・・・・・・・・・・

あの何だ?

思い出せない?

俺は何をみた?

俺が悩んでいと、イリヤが、「変なシロウ」と笑っているのが見えた。





見惚れた。





イリヤの笑顔は可愛かった。





ただ純粋に可愛かった。





そこに、バーサーカーを連れて俺を見下ろしていた時の面影など微塵も無かった。





ただの純粋な可愛らしい笑顔だった。





純粋なものは、ただそれだけで美しい。





だからこそ俺はイリヤの笑顔に見惚れた。







イリヤはベンチから下りると、呆けている俺の手を取る。

「帰ろ、シロウ。・・・わたしお腹へっちゃった。」

「ああ、そうだな。」

俺は、ベンチの横に置いてあったビニール袋を片手で持つと、イリヤの手を放さないように、しっかりと手を繋ぎながら家へと帰った。

暖かいその手をしっかりと握り締めながら。

























公園を出たとき、木の陰で、妙な服をきた二人組みが、気絶している子供達を介抱している姿を見たような気がするが、それはきっと幻だろう。

・・・・・・・絶対に幻だ!!

















あとがき



初めまして、MASAと言います。

このSSは、片月さんのサイト、「L.A NOA本館」内にある「喫煙所出張版」にて、ある方とお話をして書くことになったものです。

本来なら、そのまま闇に沈むことになるはずだったのを、何の戯れか、私が片月さんに「要りますか?」と聞いたところ「要る」とのことで贈らせていただきました。





さて、駄作の為、続きが読みたいと思う人など要るはずも無いのですが、取りあえず言っておきます。



この「聖杯少女☆マジカルイリヤ」ですが続きません!!

第1話と書いていますが続きません!!

現在、私にこれを続けさせる余裕が無いのです!!





最後に、ここまで読んでくれた方、ならびに管理人である片月さんに、多大なる感謝申し上げます。