「さて、本題に入ろう。」

 

 

 そう言ってエプロンを外す。右手にはポットを持って右手には人数分の茶菓子にヨウカンを持っていた。アーチャーは飲みほした人から入れ始めた。そして最後に自分のに注いだ。もちろん士郎の分は自分でやれというかのようにポットをドンッと音が鳴るくらい力強く置いた。士郎はそんなアーチャーを少し恨めしげに見た後ヨウカンを一切れ口に放り投げた。

 食後の一息が終わったところでアーチャーは口を開いた。

「凛はなにについて知りたい?」

「・・・そうね、まずは今なにが起ころうとしているかかしら・・・・・」

「・・・・・そうだな・・・しかし、自分の中ではこれだと思っているものはあるのだろ?」

「・・聖杯戦争・・・アインツベルン、そしてマキリが動いているから決まっているも同然と睨んではいるけれど・・・でも肝心な聖杯が存在していないはずでしょ?」

 どうなのっとアーチャーの顔を覗いた。セイバーもアーチャーの答えを待っていた。ふむっと考え事を始めた。どこから話していいものかと悩んでいるようだった。

 少しの時間が経って台所からヤカンの音が鳴り始めた。

「すまないが止めてはきてはくれないかね?」

「・・・わかったよ」

 たちあがって厨房に向かった。士郎はコンロのツマミを回した。そこで士郎は不思議な感覚に襲われた。

 剣が見えた。しかし、その剣には刀身がない。これでは剣としての役割を持っていないだけではなく、何の役にも立たないただの重り。よくって飾りといった剣。

何でそんな物が見えたのか分からない。首を横に振ってイメージをかき消す。士郎は最近ろくに休んでないことを思い出してそのせいにすることにし、水道から水をついで一気に飲み干した。

「そんな!!・・・でも・・・それは確かなの?」

「ああっ。戯言ではない。私は事実を言ったまでだ。」

 そう聞こえてきた。士郎はコップを流しに置くとすぐに凛の顔を覗き込んだ。顔色がいつもと違うのは一目瞭然だった。

「やっと戻ってきたようだから二つ目の質問に進むとしよう。」

「・・・・・・・・・・・・・ええっ。そうね。次は敵の正体かしら。」

「はい。私も大軍という言葉が決して耳から離れなくって困っていました。」

「そうだな。・・・サーヴァントとはなにか言ってみればなにかしら思いつくかも知れんぞ。」

「英霊と大軍は結びつきません。いくら聖杯であろうと、召還される数は決まっているはずです。」

「むっ・・・その通りなのだが・・・言い方が悪かったか。それなら宝具という切り札を何故頻繁に使ってはならんのか分かるな?」

「どこの英雄だか分かってしまうからだろ?」

「それだけ有名な英雄がサーヴァントになっている。・・・でもそれは答えになっていないわ。」

「・・・大軍・・・有名な英雄・・・サーヴァント・・・」

 そこで凛の表情が歪んだ。苦虫をつぶしたかのような顔でアーチャーに再び問いかける。

「もしかして・・・それって人ではない無生物とかって関係ある・・・?」

「どういうことですか凛。私達にも分かりやすく説明してほしい。」

「つまり・・・その・・・・聖杯と契約したのは島とかかなって・・・。」

「・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・へっ?」

 呆けたような声。それしかだせない。それが返事の限界。士郎はしばらくの間思考は止まってしまっていた。士郎だけではなくセイバーも何も言うことができないまま固まった。

「つまり・・・どういうことなんだ?」

「聖杯と契約したのは一個人の願いと契約したってことだとして。島または国。他にもそういったものがあるかもしれないけど・・・それらは大勢で一つの契約をしたってことでしょ?それが敵の正体だと思うけど・・・」

「ああっ。その通りだ凛。しかしそれでは正解の半分でしかないぞ?」

「そうなのよ・・・有名な島とかっていうとムーとかかしら?」

「・・・・・アトランティスとか?」

 士郎の呟きに皆が皆士郎を見た。

「そっか・・・そうよね。一晩で消えた海底都市か・・・」

海底都市『アトランティス』。一万二千年も前に栄え一夜にして滅びた国。いろいろな説がでまわっているが、確かなモノがなく、真実味にかけているモノしかない。

士郎はアトランティスのことについてぐるぐると思考を回転させた。

「とりあえずギリギリ合格だ。では次のステップだ。」

 

 ――ドンッ――

 

 一瞬呆気に取られた。地震ではない揺れが生じた。近くでなにか大きな音もした。

 

「なっ・・」

 なにが起きたんだと言いたかったが、舌を噛みそうになったので口を塞いだ。一瞬の揺れは何事もなかったかのように静まってしまう。

 

「今のは?」

「今話していたアトランティスの兵だ。」

「なっ!?もう来たのか?」

「ほんの1、2体だがな。」

 

 そういって襖をいきよいよく開けた。庭を駆け抜けすぐに塀の上に飛び乗った。振動も伝わったということは近くで起こったということである。近くならばと思ったのかすぐに現場を探り当てることに成功した。

 

「では戦闘開始といこうか。」

 そういって塀の外に飛び降りた。

 

 

 実際に士郎の家からそんなに離れていない場所だった。しかし今はあったものがなくなっていた。見慣れているはずの家は、そこにとどまっていなかった。ドアは崩壊し、瓦はいたるところに飛び散っていた。中心には一本だけ傷一つ付いていない柱があった。だが余計な物が増えていた。それは一人の男性だ。背中から腹へと貫通して突き刺さっている。その男性の穴という穴から腐臭や血が留まることなく流れ出しているような気がした。士郎は喉の奥から込みあがってきた嘔吐感を抑えた。

「・・・ひどい。ひどすぎる・・・・」

セイバーは恨み言のように口から言葉を吐き出した。そこに一枚の写真が風に揺られているのを見つけた。写真は狂うことなく士郎たちの足元に落ちた。それには死んだ男性とその奥さんがそして腕に抱いた双子のような子供たちが写っていた。その三人も無事ではないかもしれない。そう思う士郎は怒りが抑えられなくなった。

「アーチャー!!!こんなことが起こるのは知っていたな!!!!!?何で助けようとしなかった!!!お前は何のためにここにいるんだ!!!!!」

「落ち着いて士郎!!」

 士郎は凛がのばしてきた手を力強く引っ叩いた。

「うるさい!遠坂は何にも思わなかったのかよ!!」

「そんなわけないでしょ・・・でも仕方ないのよ」

「なにが仕方ないんだ!!何も知らない人が・・・無関係な人達が殺されたんだぞ。しかもこんな近くで!!仕方ないで済ませられるわけないだろ!!」

「その通りだ。が助けられない。これが現実だ。」

 士郎は歯をギリッと自分で聞こえるほどに噛み締めた。ふざけるな。そんあことわかんないだろ。そう怒鳴ってやりたかった。しかしそれができるほど大人になってはいなかった。言葉で伝えるではなく暴力で伝える。そう命令されたような気がして逆らわずに賛成した。握り締めた拳は何の躊躇もなくアーチャーの右の頬に届いた。アーチャーは何の抵抗もせずに殴られた。

「・・・・それが望んでいた理想像の形か?それが正義の味方の行動か?笑わせるな!!」

 そういって士郎を殴り飛ばした。士郎は何の抵抗もできずに殴られ倒れた。気絶はしていない。それほど重くはなかった。しかし、痛かった肉体的にも精神的にも。

「アーチャー・・・・」

 凛はそうかける言葉しか見つけられなかった。セイバーは助けられなかった命を見て悲しく思った。こんなに近くにいた。士郎の言うとおりだ。そう感じた。また助けられない命がでた。そしてこれは戦が始まるのと同時に次から次へと増えていく。どうにかしたかった。

「そこをどけ凛・・・」

 いきなり凛を突き飛ばす。そこに重たい斬撃が振りかざされた。中世の世界に出てくるようなか形の剣がそこにあった。凛はバランスがとれず尻餅をついてしまった。

「今は少し取り込み中だ。消えてはくれないか?」

アーチャーの前には甲冑に身に纏った騎士が立っていた。騎士は剣を持ち上げると凛に再び牙を向けた。

「やはり無理か・・・しかたない。」

 騎士の剣は凛の頭上五十センチ弱のところでアーチャー剣によって止められていた。

騎士は何度も何度も凛を斬ろうとするがアーチャーの剣がその全てを流し受け止めた。セイバーはすぐさま騎士の背後を取った。不可視の剣で斬ろうとしたが、甲冑には傷一つついていなかった。何度もやってみたが、傷はつかなかった。

「セイバーはそこで呆けているだけの役立たずのお守りでもしていろ。」

「ふざけるのもいい加減にしてください!」

 しかし、セイバーの剣は敵には届いていなかった。狂ったように何度もやってみても結果は変わらなかった。

「・・・・投影開始・・・」

 短くそう呟いた。セイバーの前に七枚の花びらが現れた。

「アーチャー何のつもりですか!?」

「今のセイバーでは戦力にはならない。冷静になって現状を見極めろ。」

 アーチャーはすでに凛が離れているか確認しそして剣の投影を用いたなにかをはじめた。

魔力の量は半端なく。空気を震わせ、身体が暴れていた。騎士は何事かと思い動きを停止させていた。アーチャーの口から出てきた言葉、士郎にとっては知っているようで知らない単語ばかりだった。まるで固有結界のときと同じ感じがした。

 

(・・・・頭が痛い)

 

 いきなり士郎の頭に誰かの思い、考え、訴え、悲鳴、怒号、悲哀、笑気、狂気、狂喜、全ての喜怒哀楽が混ざり合ったなにかが刀身のない剣と共に次々に士郎を攻撃し始めた。

 

――壊れろ壊れろ。お前は俺で俺はお前だ。すぐにお前はいなくなる。■ぬ―■す―

される、お前はなんの■■もなく■ぬ。もうすぐオマエはオレに■■され、■■され壊される。そうオマエに■■もなくなる。■■も消される。悶えるな。それだけではオマエは進行を早め一秒とかからずにオレに■■される。気分はいいが、望みがなくなる。今のお前に興味はないが、オマエの■には興味があり、おまえの■■を愛している。オレがお前になったときにおまえの■がみえなくなって残念だ。おまえの全ての■■によってたのしませてくれよ?■■――

 

 

「お前は俺の何だって言うんだ・・・」

 

 

――オレはお前のスベテだ。

 

 

 士郎の思考はそこで閉じた。そのまま暗闇の中に引き込まれて安堵した。もう一つの現実から一刻も早く逃げ去りたいと願ったのだから。

 

 

 

Berserker /

 

 

 

 アインツベルンの森は朝夜かまわず薄暗く、訪れる者には恐怖を植え付けるような印象があった。そんな森の中を十数体の騎士が城を目指して突き進んでいた。しかし城壁のように立ちふさがっているバーサーカの前では数も自身を守る鎧も意味はなかった。森の中にはすでに鎧の塊として気づきあげたかのような小さな山が築き上げられていた。その大きさはすでにバーサーカーの長身よりも高く、幅はその倍ほどだった。それでもバーサーカーに疲れははく、敵が進んでくるたびに剣を振り回した。轟音。そのたびに塊がまた増えた。血が土に染み込んでいく。森はそれが嬉しいかのように全土が震えた。

 

■■■―――■■―――

 

 咆哮はマスターの元まで響き渡る。イリヤは満足そうに笑いながら観賞している。それに応えるようにさらに激しさが増した。イリヤは楽しいと感じでいた。こんなに楽しいのは生まれて初めてかもしれない。そう思っていた。そう感じていた。バーサーカーが一緒にいてくれてよかった。サーヴァント同士の戦いも見てみたかった。本当に前のイリヤはツマラナイ。

 

 ツマラナイ人達と戯れて、そしてツマラナイサーヴァントに殺された。バーサーカーもそいつに殺された。前はこんなに暴れることが出来なかった。かわいそうなバーサーカー。

 

「でも私は違う。あいつとは違うんだから。」

 

 でも今のあなたは幸せモノだよ。私がもっと楽しませてあげるね。もって暴れさせてあげるからねそう心の中で誓った。クスックスッと子供っぽく笑った。目は獣を狙うように鋭かった。

 バーサーカーはそんなイリヤのことをなんとも思えなかった。クラスのせいもあるが今のイリヤがなにかが違うような気がして悲しく思った。記憶がないのにも関わらず・・・しかし気にせずに剣を振り回した。今を満足させないといけないから。自身も楽しいと感じていたが、それすらも抑制されてしまった。でも、でもとおもった。イリヤはこんなことも分かってくれると。

 

シャラララララララ――

 

 鎖のこすれあう音が近付いてきたのに気づいた。先程までにはなかった雑音。なにかがバーサーカーを振るわせた。そのまま本能に従い走り出す。後ろの騎士よりも鎖のほうが気にかかったから。

 

■■■―――■■―■■■―――■■―――

 

 狙いはマスター。イリヤに迫ってきている。そう分かってしまった。イリヤとの距離はそんなに離れていないが、鎖のほうが若干早い。

 

■―■■■――

 

 再び咆哮を響かせる。イリヤまでの道に立つ木を一撃で切り倒す。切り倒す。さらに切り倒した。バーサ−カーよりも一回りほど大きな大木を薙ぎ倒してやっと見えた。その片隅でなにかがみえた。細長いなにかと疾走しながら風になびいている長い髪。

 

「バーサーカー?」

 

  不審に思いイリヤはバーサーカーを見た。そのために気づかなかった。イリヤはまだ気づいていない。

 

シャラララララララララララ――

 

■―――■■―■■

 

 バーサーカーはイリヤに手を伸ばした。その前に鎖の先端とおもわせる杭のように鋭い凶器が風を突いて放たれていた。

 

 なにがなんだか分からないイリヤはバーサーカーが狂ったのかと思ってしまい一歩後ずさった。そのおかげでイリヤとバーサーカーの間を杭は何も捉えることが出来ずに木に突き刺さった。バーサーカーはすぐさま鎖を掴み手元へと引っ張り込んだ。相手はちゃんとしたバランスが取れなかったのか、抵抗空しく草むらから引っ張り出された。

 

「・・・ライダー?そうそうなの。そうだったの。ごめんねバーサーカー。貴方のことを疑っちゃたりして。守ってくれてありがとう。ご褒美上げるね・・」

 

 そういって魔術刻印が浮かびあがった。バーサーカーの狂化。ただ暴れるだけの戦士。そうなってしまってはツマラナイやつらなんかさらにツマラナクなってしまう。

 

「やっちゃえバーサーカー!!!」

 

 その一言とともに咆哮をあげた。

 

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■――

 

 狂ったように剣を持ち上げ振り下ろしす。力にスピード。それらが一段も二段も上がっていてはライダーにとって絶望的といわざるおえなかった。スピードが上でもこの森では逃げられない。ライダーにはセイバーと違って対魔力はB。足止めを食らったらそこで終わりだ。

 

「その調子よバーサーカー。」

 

 イリヤは楽しそうに見ていた。早く死んではツマラナイ。だから粘っているツマラナイモノを見るのはとてもおかしくおもえた。どうせ死んじゃう運命なのに。だからこそ命を捨てないで逃げようと必死な奴らが好きだった。バカだから。

 

「でもそれもいつか飽きちゃうんだよね。」

 

 イリヤの思惑を残った理性をかき集めて感じ取り、本能で行動に移した。

 

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■――

 

 ライダーはさらに隙のなくなったバーサーカーに対して舌打ちをした。たぶん宝具を使ってもあまり効果はないとわかってしまっていた。

 

「戻れライダー・・・」

 

 暗闇の中から仮面をかぶったサーヴァントがいった。それが出来ないから困っているといいたかった。が、それよりも早く仮面をつけたサーヴァントがいった。

 

「時間を稼ぐ。その間に宝具を使え。」

 

 本当にこいつにそんなことが出来るのかと頭をよぎったが、今はそれしかないと思って一気に距離を離した。着地した後ライダーの背後からいくつもの短剣がバーサーカーに向かって投げ込まれていた。そんなものが効くはずがないとおもったが、バーサーカーの動きはイリヤを守ることで精一杯だった。そこで確信した。アサシンであると。

 

 確信した後はすぐさま魔力を解き放つ。本当にそれは足止めに過ぎないからそして一気に宝具を放った。

 

 

「ライダー逃げちゃったね・・・。アサシンも逃げたし。ツマラナイ相手にこんな感じじゃあなたもツマラナイでしょ?」

 

 

 気晴らし殺しましょ。そういっていた。ツマラナイ奴らよりもさらにツマラナイ騎士たちが草むらの中から隊列を組んで進んできた。

 

■■■■■■■■■■■■■■■■――

 

 バーサーカーは剣を振り上げ薙ぎ払い始めた。騎士は粉々に吹き飛んでいくサマを見ずに次々に敵へと終わりを送り続けた。