―― I am the bone of my sword.
(体は剣で出来ている)
半年前の聖杯戦争の重要だった言葉。
―― Steel is my body, and fire is my blood.
(血潮は鉄で 心は硝子)
今聞いてみると、呪歌のような気がしてくる。
―― I have created over a thousand blades.
(幾たびの戦場を越えて不敗)
今必要ではない。むしろ邪魔だ。
―― Unknown to Death. (ただの一度も敗走はなく)
―― Nor known to Life. (ただの一度も理解はされない)
今すぐにでも別のことを考えないと狂いそうだ。気持ち悪くて吐き気がする。
―― Have withstood pain to create many weapons.
(彼のものは常に独り 剣の丘で勝利に酔う)
・ ・・・・・・・・・・・・・・・何か音が聞こえた。
―― Yet, those hands will never hold anything.
(故に、生涯に意味はなく。)
この音にすがりつかないと戻れない気がした。
―― So as I pray, unlimited blade works.
(その体はきっと剣で出来ていた。)
意識が浮上していく感覚がした。助かったと思った。
―― But・・・・・・・・・
音の正体は波の音だった。士郎はゆっくりと上半身を起こした。額に浮かんだ汗を拭き思考を巡らせる。昨日は家の中全てが騒々しく。静かになったのは夜中の一時。その後日課の魔術の修練をした。そして布団に戻ったのが二時半近く。起きたのは六時で駅弁を買って食べようとなった。
その後電車で二時間、バスで三時間。
(セイバーのいうとおり疲れ溜まってるのかもしれない。)
「あっ。先輩やっと起きたんですか?」
「あ・・・・ああっ」
「皆心配してたんですよ。」
「悪いな・・・桜」
クスッと微笑んだ桜の後ろには赤い悪魔が突っ立っていた。
邪気が見えてしまうような気がしてきたのか士郎はだらだらと冷や汗を掻きまくっていた。まるで士郎のところだけ大雨が降ったかのようだ。
「おはよう遠坂さん。」
「おはよう衛宮くん。」
士郎と凛の間に渦巻く不穏な空気に耐えられなくなったのか、桜はちょっと飲み物買ってきますねといって去ってしまった。これで邪魔者(士郎にとっては救世主)が去ってしまったことになる。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・ぷっ・・・・・・・・・あはははははっはははははははは」
凛は狂ってしまったかのように笑い始めた。士郎はさらに警戒心を強めて凛を見ている。
「士郎。大丈夫?」
「・・・・何が?」
「魘されていたみたいだけど。」
「まあ・・・・・・・なんとか。」
すっといきなり凛の手が伸びてくる。士郎はとっさに退こうとしたがまだ調子が悪いのか逃げることが出来なかった。
「警戒する必要はないわ。ただ士郎が寝ていたとき魔力が不安定だったから・・・どんな夢を見たの?」
士郎は言うべきか言わざるべきか悩んだ。無闇に心配はかけたくないと思っていたし、それにもうあれは・・・固有結界は必要ないと思っていたからだ。
そこで思い出した。
昨日の朝にある火事の報道をしていた時凛が呟いた言葉を思い出した。士郎はまずそれから聞くことにして言うかどうかを決めることにした。
「遠坂。あのさ・・・」
「なに?」
「前に火事を起こしたのが魔術師って言っていたけどどういうことだ?」
凛は何のことだか思い出そうと思案顔になった。そして思い至ったのだろう。苦虫をつぶしたような顔になって口を開いた。
「あっ・・・・・・あれね〜。・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「あれはその・・・・」
「・・・・・・?」
凛は何是か口を何度も開閉した。士郎には凛が水槽の中にいる金魚のように思えてきた。凛はちらちらと士郎の様子を伺っている。
「あのね、実は・・・・・その。」
「どうしたんだよ遠坂。何時もよりも変だぞ。」
「なっ私のどこが変なのよ。」
「そういう意味じゃなくて。」
「はあ・・・・まあいいわ。あのねあれは正確には魔術師ではないわ。」
「どういうことだ?」
「あれはただの一般人・・・・って言いたいけど、あれは二つの中間の人達よ。」
魔術師と一般人つまりただのどこにいるような人間もしくは魔術回路を持たないモノ。
それらの中間とはいったいどのような意味なのだろうか。例を挙げるとしたら昔の(今もかもしれないけど)自分か慎二と考えて士郎は考えを改める。慎二のほうが近いような気がしたからだ。そう考えるといくつかの問題点が浮かび上がってくる。
1.魔術師として衰退してしまったのは間桐しかいない。
2.他にそのような家系がいたとしても凛が気づかないとは思えない。
3.あんなに大雑把な事件を起こすとは思えない。
4.達ということは複数いる。
「遠坂。それは慎二のような人達ってことか?」
「その質問の答えは・・・・ノーよ。」
「・・・・・・・・へっ?じゃあ・・どういうことなんだ?」
凛は士郎の隣に座り込んだ。波の音とどこかから流れてくる最近はやりの音楽が流れている。それでも士郎の耳には静寂しかなかった。凛の言葉は多分嘘ではない。だがどういうことなのかは理解は出来ない。凛の言葉によって士郎の頭には幾度となく同じ言葉が繰り返される。
「魔術師に魔術回路は必要よ。慎二の場合は本を媒介にして発動しているから理には適っているの。ただ今回の場合は・・・その・・・・何というか・・・魔術回路も本もなしというか、魔術道具は一切使われていないわ。」
「そんなこと可能なのか?」
「不可能よ。しかも魔術回路の代わりが血管なんてありえないことこの上ないわ。」
溜息をつくと同時に顔を背けてしまった。士郎はそんな凛を見て今度は頭がパンクしそうになる。
(そういえば遠坂は土地の管理者であるから責任重大なんだ。こ・・・こんな時どうすればいいんだ!!!?)
「くっ・・・・・はははっ・・・・・あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」
「なっ」
凛は突然笑い出したかと思いきや、片手でお腹を抱えて片手で士郎の頭をばしばしと叩き始める。あまりの不可解な状況に士郎は絶句を強いられてしまった。
「士郎。な〜に変な顔しているの?卒業アルバムの最初のページに貼り付けてそのまま墓までもって行きたいような顔してるわよ。」
それは少しばかり勘弁して欲しいなと思いながら凛の手を退けた。
「ま、私にかかればこんな事件ちょちょいのちょいっていいたいけど・・・不可解なことが多すぎるわね。でも士郎に心配されるようなことじゃないんだから。」
「そうか・・・」
そうよと言いながら凛は背伸びをしながら立ち上がる。逆光で今の表情は読み取れないが、遠坂なら大丈夫かなと苦笑しながら士郎の頭にあった何かは晴れていくような気がしていた。
「士郎」
といいながら差し出してきた手をつかみ士郎は立ち上がった。
「あんたがここでボーとしていても時間は経っていることを忘れないでね。」
士郎は凛がどういった意味で言ったのか分からないながらも凛の後ろをついていった。それにしても視線が多い。もちろん士郎にではなく凛に対してのものだ(そのうちいくつかは士郎に対してのものもある。理由は・・・)
(何だあのへなちょこな男は・・・)
(男連れかよ)
などである。まあ確かに凛は学園で人気はある。どこに行ってもそれは変わりないことで、ここにいると凛が綺麗であると再認識しなければならない。いや、いつもよりも綺麗だと思ってしまうのか凛を直視できないでいた。凛はそんなこと気にせずにどんどん突き進んで行く。赤のビキニは凛の胸を包み込み、前に見た時よりもさらに強調しているかのようにそこに備わっている。そう思うとあのときの夜がよみがえる。暗い中士郎と凛は部屋で裸になり、状況が状況なので切羽つながりながらもベットの上で・・・
と考えていると士郎は自分の顔が赤くなっていることに気づいた。よくよく思い出してみるとあまりにも恥ずかしいという羞恥心が駆け巡っている。
「士郎。着いたわよ。」
着いた場所はどこにでもあるような海の家。カキ氷やソフトクリーム。ラーメンや焼きそばなどがある。そこで異様な物が・・・異様な人に訂正がいた。
「・・・なっ」
士郎はここに着てから絶句ばっかりしているが、あまり気にしてはいけない。なぜなら士郎の周りには特殊な人ばかり集まるのだから。
閑話休題――
改めてそこを見る。そこにいるのはセイバーと藤ねえ。その回りにはラーメンのどんぶりが山積みにされていて、焼きそばが入っていたと思われるパックはいくつも地面に転がっており、今二人の手元にはバケツと思わせるようないれものの中には大量のパフェが入っている。先ほどの凛の言葉は忠告もしくは警報機のような役割をしていたのだろと理解した。士郎は思考をフル回転させ料金を計算する。海の家に飾ってあるメニューの値段とにらみっこをして出た答えは・・・
「い・・・・一万二千五百三十円・・・・・」
今月はバイトを少しばかり増やさなければならないと思いながらも財布の紐を空けてしまう士郎であった。
Interlude
走りに走った。しかし後ろには得体の知れない何かが迫っている。逃げ切れるという保証はないが逃げるしかない。もう口は酸素を求めるだけに開閉している。足はこれ以上動けないと知らされていても止めることができない。こうなってしまえば、後ろの奴らに捕まるか、足を縺れさせてしまい逃げることが出来ないのかの二つだ。そう考えるとどっちにしろ捕まってしまうのなら潔く立ち止まってしまえば楽になるかもしれないという歓楽的思考と戦いながらも逃げる。景色も朝か夜かも分からないまま逃げる。
「――はっ・・・・・はっ・・・・・はっ・・・・・・はっ・・・・・」
どんどん呼吸が荒くなりのどの痛みが臨界点を越えている。目の前が暗くなり始める。酸素が脳にまでわたっていないかのようだった。苦しいという叫びと、痛いという悲鳴と戦いながらも走った。もう二度とあんな未来は作り出さないという誓いと共に・・・
Interlude out
まずはじめに気づいたのは凛だった。
「士郎。」
「シロウ。」
セイバーの声も何かに気づいたようだ。凛はパーカーを重ねて走り出す。セイバーはすでに青い甲冑に身を包み疾走する。あわてて士郎も走り出す。砂浜から普通の道路へと進み、すぐ近くの路地裏に入る。迷路とまではいかないものの少し薄暗い道にはどこかしこにも同じような配管が唸りを作っていてあまり入りたくないような印象を強くしている。そこには数体の何かがいた。全身が黒く、赤い目には凶暴性が宿っているかのようだった。
「なんだ・・・・あれ。」
「多分・・・・使い魔のようなものだと思うわ。」
何かはこちらに気づき様子を窺っている。そこに疾風の如くセイバーが攻める。不可視の剣を使いまずは目の前の一体を叩き伏せる。切れたかと思った次の瞬間その部分は跡形もなく消えている。しかし、セイバーは怯むことなく攻め続ける。もしかしたら何かの中には一定の魔力が備わっており、それを使って修復しているのかもしれないと思ったからだ。そうなのであれば魔力が切れるまで攻め続ける。右下からの一撃は壁が見えるほどに切り裂いた。しかし、それすらも一瞬で修復してしまった。これではキリがないと思いながらも攻撃の手は休めない。
ズッ―――
壁から手だけが生えていた。壁の近くにいた一体が壁に手を入れてセイバーの近くから手を出した。まるで手品を見ているかのようだった。
(油断した・・・)
唇を噛み締めてなお目の前の何かを見据えている。まずこの場から逃げられたとしてもいたちごっこのように意味がない。むしろ、体力があるという点ではこちらが不利である。
「逃げろセイバー。」
士郎の言葉通りに壁を蹴りながら片手で剣を振るう。そこに螺旋状の剣が音もなく何かを貫通しはじけた。
Archer /
「セイバーが捕まった。」
最初に出た言葉はそれだった。あまりにも異形のものを見て何も言葉が出なかった。士郎は何も出来ずにその場に立っているが、凛は隙あらばガンドを撃とうと魔力回路を開きっぱなしにしていた。しかし今となっては撃つにも撃てない状態にまで達してしまっていた。
何かと凛の間にセイバーが挟まった形のまま硬直しなければならなくなった。こんな細い路地裏では動きが制限されてしまうのである。
「士郎。アーチャーの剣を投影しなさい。」
「わかった。」
返事をすると同時に魔力回路のスイッチを入れた。切り替わったのが分かった。
トレース オン
「―――投影、開始」
アイツの剣を作る。使い慣れたものならばセイバーの役にたつとおもう。
「その必要はない。」
それは今士郎たちが入ってきたほうから聞こえてきた。まさかそこにいるはずがないと思いながら振り返る。そいつは弓をセイバーのほうに向け、今まさに放たんとしていた。
トレース フラクタル
「―――投影、重装」
我が 骨子は 捻じれ狂う。
「―――I am the bone of my sword.」
カラドボルグ
「―――“偽・螺旋剣”」
「逃げろ、セイバー。」
セイバーに言葉を放った。それから今しがた現れた奴を見る。赤い正装を着て颯爽と現れた赤い騎士は、半年前に見たあいつと酷似していていたがどこか違うような違和感が付きまとい離れなかった。
Archer /end
爆風と共に消し去った何かは元から何もなかったかのように塵一つ残さず消えていた。
セイバーさえも呆然と立ち尽くすしかなかった。得体の知れない何かを一撃で葬ったのはあのバーサーカーとやった時と比較的に少ない火力の物だった。にもかかわらずアーチャーは何事もなかったような立ち振る舞いをしていた。
「アー・・・チャー・・・・?」
凛はまだ状況を理解できないといったような顔をしている。
「なんだ。凛。」
「えっ・・・・別に・・・な、なんでもないわ。」
そうかと呟くようにして言うと、セイバー横を通り過ぎる。ここにはセイバーは現在しているのかなどと呟いたのも気のせいではないと確信できた。
アーチャーは周りなど構わずに進む。そこには少女が独り倒れるようにして眠っていた。
「アーチャー・・・その子を知っているのですか?」
「私はこの子と一緒に来たのだから当たり前だ。」
一瞬の沈黙。アーチャーは無言で歩き出した。少女を背負って出口を目指す。その言葉に呆気に取られたまま何もいえなかった。アーチャーは振り返って、
「まずは場所を変えよう。同じ奴らがまた来るかもしれんからな。」
Black /
黒尽くめといった格好の男は、何かを通して追跡していた少女を愛おしそうに見ていた。
そこに邪魔が入り怒気が膨れ上がったが、セイバーと凛と士郎を見た瞬間邪気を含んだ笑みが止まらなかった。こんなにも面白い役者がそろうとは思っていなかったのだ。
「くっくっくっ・・・・あはっ・・・あひゃひゃはっ・・・・」
抑えきれない笑い声が漏れ出すと、ダムが決壊したかのように狂笑をした。
Black / end