うたかたのとわ
後編(アルクェイド)
―――そして、私は目が覚めた。
いつもなら、そのまま再び眠りにつくだけなのに
いつも通りでは有り得なかった・・・
一瞬、私は目を疑った。
ユメが現実を侵食して幻視しているのでないかと・・・
ソコには私が愛した・・・いや、愛している人物が穏やかに横たわっていたのだから。
ふと思い出す。
あの2週間にも足らなかった・・・だけど・・・私の中で何より貴かった日々を。
そんな中、彼はこのように穏やかな眠りをしていた。
まるで「死んだ」ように眠るその姿を
「死んだ」?
不意に視界が混濁する
いいしれぬ不安が私を襲った・・・
そして、不安を払拭したくて彼の鼓動を感じ取る。
頭を金槌で打たれたように強い衝撃が走る。
志貴の心臓は止まっていたのだから。
そして、彼の体温がまだ冷え切っていなかったというのも、私をさらに打ちのめした。
ソレは目覚める少し前まで彼が生きていたという何よりの証拠。
彼が死んで私はどうすればいいのだろうか・・・
死した魂は還らない。
志貴は転生などありえないだろう。
なら、また夢を永遠に見つづけるべきなのだろうか。
…………
………
……
…
そして、この異界に再び静寂が戻った。
月の光差す広間では
鋼の鎖にとらわれた姫と
氷の棺に横たわりし従者が
穏やかな顔をして永遠の眠りにただ就いていた。
後書き
かつて自分のHPでこっそり公開していた短編の訂正版です
公開時は現在の前編だけでしたが。
前編も若干表現を変えたり訂正したりしてありますが
2004年2月12日 脱稿