泡沫の永遠

うたかたのとわ

前編(志貴)

 

「だから、お願い。これからもずっと、そのままで生きていってね」

 ほんの一瞬。

 哀しそうに、彼女は笑って。

 

 ばいばいと手をふって、夕暮れに融けるように、俺の前から消え去った。

 

 

___彼女のその望みを守ろうと・・・

___そう考えた・・・

 

 

___しかし、ただこの『魔眼』が・・・

___自分の死期が近いことを告げる。

___「まっすぐに生きなさい」・・・先生はそう言った。

___「そのままで生きていってね」・・・彼女はそう言った。

 

___残された日が少ないのなら

___この我儘を叶えよう

 

___たとえカノジョが望まなくとも

___自分の思うまま

___後悔しない様に生きよう

 

 

 

 

 

そして、遠野志貴は別れを誰に告げるということもなく旅立つ。

言えば止められるから・・・

引き止められれば決心が鈍りそうだから・・・

でも、それを望まないから・・・

 

ヒトの手の届かない場所という手がかり

あとは、そのナマエだけしか知らないけれど、

「見えざるものを見る眼」が、その異界を探り当てた。

そうして、そこに辿り着く。

千年城とよばれし、月に照らされ続けるその空想世界に

エイエンに夢を見ることを望んだカノジョが住まう場所に

 

痛む頭を堪えながら、その城の前に立つ

すでにもう眼鏡は意味が無く

目をつぶろうと、全ての線が見えてしまう。

限界はもうかなり近いのであろう。

死に近いところに立つが故に

死を理解しやすいのだから・・・

 

でも、その痛みより

カノジョに逢えないことを考えた時の心の痛みの方が、はるかに痛かった。

それこそ、気がおかしくなりそう

いや、そうじゃない。

だって、遠野志貴は、カノジョにとっくにイカレてしまっているんだから・・・。

 

 

そして重く閉ざされた扉をこじ開けて

カノジョがいる玉座に向かう

 

 

カノジョとの思い出を

噛み締めながら

その玉座へと

一歩一歩歩いていく

 

そして辿り着いたその先には

幸せなユメを見るカノジョがいた。

鎖に繋がれ、

身動きさえ取れない姿で、

それでも微笑むカノジョがいた。

 

その前に立ち、聞こえてないかもしれないけれども

「愛している」

そう一言声をかけ、カノジョに口づけをした。

 

 

そして、カノジョに寄りかかるようにして眠りにつく。

エイエンに覚めることの無い「永遠(とわ)の眠り」へと

泡沫だけれども永遠なユメを・・・

「カノジョとの幸せな結末」を幻視するように

 

Fin.


2002年9月2日 脱稿

2004年2月12日 訂正