目覚めて最初に見えたものは白い世界。

どこかぼやけて、まるで夢の世界のようだった。

 

頭がはっきりとしてくる。それにつれて世界も形を整えだした。

はっきりと目が覚める頃にはそこが病室だという事が理解できた。

 

「こんにちわ。遠野詩姫ちゃん。

 気分はどうかな? 」

 

横から声がした。

振り向くとそこには柔和そうな表情を''作っている''医者がいた。

 

「悪くないです。ここはどこですか? 」

医者はあらかじめ返答を用意していたのか、即座に答えを返してきた。

「詩姫ちゃんは交通事故にあってこの病院に運ばれてきたんだよ。

 胸にガラスの破片が刺さってね、とても助かるような傷じゃなかったんだよ」

 

交通事故?そんな事があったとは。

また首を動かし、白い世界を見る。

チクリと頭が痛くなった。

「・・・眠いです。眠ってもいいですか? 」

「ああ、そうしなさい。今は体の回復に努めなさい」

ベッドに体を倒し、体を休める。

自然と天井が目に入り、白い世界が見えた。

―――ああ、そうだ。

 

「ひとつ聞いていいですか? 」

部屋を出ようとする医者を呼び止める。

「何かな? 」

こちらに振り向く医者。

 

 

 

「どうして、部屋中落書きだらけなんですか?

 お医者様にも落書きがしていますが」

 

 

 

 

―――白い世界には黒い線が奔っていた

 

 

 

 

私の問いにニコリとだけワラって部屋出る医者。

その仕草で同じ質問を繰り返す気にはなれず、目を閉じて寝ようとする。

やはり疲れていたのかすぐにまどろんでいった。

眠りにつく中で、医者が何か言っていた。

「眼球」「異常」「検査」と単語だけ理解できた・・・・・・。

 

 

 

「なんだろう、これ?」

自分の眠る寝台にも奔る黒い線。

今まで不気味に思い、触れないようにしていた。

が、ついに好奇心が優ったのであろう。

私はベッドの黒い線に指先で触れてみた。

 

―――ズブリ

 

指が沈む。奥まで入れようとしたがほんのちょっと沈んだだけで、それ以上は進まなかった。

(・・・・・・もっと細いものなら。)

寝台の横にある、小さな机の上の果物ナイフを取る。

それで線をなぞった。

 

―――ゴトリ

ゴトリ―――

 

(・・・・・・え?)

 

寝台は音を立てて、線の形に崩れていった。

それはまるでパスルピースの様に・・・・・・

 

 

 

「―――それで、君はどうやってベッドを壊したのかな? 」

三度目の問い。語尾など微妙に違うものの、同じ内容の問い。

「だから!ベッドの線をなぞったら壊れたの!」

私も少々気性が荒くなったものの、同じ答えを返す。

「・・・・・・わかった。この事はもういい。」

あからさまな溜息をこぼした後、医者は部屋を出て行った。

「本当なのに・・・・・・」

一人残された私。

信じてもらえないのが悲しくなる。嘘をついたと思われるのが嫌だった。

「・・・・・」

目に涙が溜まる。手で目をこする。

だけど、涙は後から後からこぼれていった。