間桐邸

 

暗い地下室で2人の男女が口論をしていた

 

その2人の足元には”スリッパで叩き潰された蟲爺”と”後ろから一撃で倒された髑髏仮面”が朽ち果てていた

 

裏葉「しかし今度は高野山の所領ごと紀伊半島の中心部全てを飲み込む計画です
    いくら神奈様のためとはいえ果たして我々にそこまでする権利があるのでしょうか?」

 

柳也「わからん、しかしこのままでは観鈴の犠牲無しに神奈が解放されないことも確かだ
    今、我々がすべきことは因果を解くための努力、誰も失わずにすむ方法、それだけだ」

 

裏葉「そのために神奈様を封じ直し、敵の矢面に晒してでもですか!」

 

裏葉が感情を露にする、蜀台の揺れる灯りに照らされてもその表情に影は出来なかった

 

柳也「あの人に任せよう、今の我々にできることはここまでだ」

 

柳也は何かを悟ったように静かだった

 

 

 

 

孤独な安らぎの中で誰かが幸せな夢を見ていた

「この人は誰にも渡さないわ・・・誰にも・・・」

その永遠の中ではどんな願いも叶うはずだった

 

 

 

 

 

ほぼ同時刻、伽藍の堂

 

もうそこには何も残っていなかった

 

もうそこには誰も残っていなかった

 

それでも”封印指定”ほどの魔術使いならば何があったのか判っただろう

 

それでも”たどり着く”ほどの魔法使いならば何があったのか判っただろう

 

そこで何かが創造されたことが

 

そこで誰かが封印されたことが

 

 

 

 

 

 

僅かに後の時刻、遠野家地下王国

 

目の前の巨大魔法陣から大聖杯の姿が消えた

 

翡翠「大聖杯を洗脳です」

 

秋葉「ここまではね・・・」

 

構えを解くキャスターを迎えながら琥珀が陽気に笑う

 

琥珀「私が謀略の限りを尽くしました、後は天誅を待ちましょう、あは〜♪」

 

翡翠「でもなぜ私達がこちら側についているのでしょうか?いくら秋葉様のご判断でも納得いたしかねます」

 

その声には普段は決して表さぬ不満と、主を案ずる不安があった、それでも顔には何も表さない

 

琥珀「策士たるもの”勝つほう”につくのは当然ですよ、翡翠ちゃん♪」

 

琥珀の明るい声に秋葉は溜息をつく

 

秋葉「それで殴り込み艦隊を建造して遠野家の財力が底を尽いているんじゃ世話無いわね・・・

    しかも私は兄さんや艦隊の部下を騙してまで家を守ろうとしているのよ・・・それからあなた」

 

秋葉は大聖杯を転送したキャスターに話しかけた

 

秋葉「あなたは納得しているの?あの大聖杯が誰で出来ているのか?」

 

秋葉の脳裏に、大聖杯の核にされている、とあの女性から聞かされた翼をもった少女の姿が浮かぶ

 

夢の中で一度だけ会ったその少女の姿が良心の呵責となって秋葉の心に重くのしかかっていた

 

その夢を見なければ秋葉は決して信じなかっただろう

 

だが信じた結果がその少女を封じたあの器を動かす協力につながったのだ、そして呪いから解放する協力にも

 

キャスター「納得はしていませんわ、でも仕事はします、私も勝つほうにしか味方する気はありませんから」

 

その打算的な言葉に琥珀が不快そうに眉をひそめた

 

キャスター「それに5箇所のスレイブの敷設は完了しました、陣形も完成しています
       後は本体の発動を待つだけです、どうせもう引き返せません」

 

琥珀「そうですか、我々のなすべき準備はもうないのですね?ではキャスターさん・・・ご・く・ろ・う・さ・ま・♪

 

キャスターの背後で琥珀が最高の笑みを見せた

 

 

 

 

同日同時刻、高野山北方、千早城跡上空  −高野山中心殴り込み艦隊待機空域−

 

無数の巨大な戦艦が空を埋め尽くす、その空間に警報が鳴り響いた

 

秋隆「艦首2時方向に魔力震、規模はマグニチュード7.7」

 

シオン「何者かが空間転移してきます、予想出現位置、紀見峠上空」

 

突如中空に現われた魔法陣を内側から打ち砕き、圧倒的な黒い影が現われた

 

天を覆いつくすその姿にブリッジのクルー達が驚愕の声を上げる

 

秋隆「これが大聖杯・・・?、これが根源への扉?こんなものが本当に願望器だというのか?

    人間の業は、欲望は、こんな禍禍しいモノを生み出してしまうというのか?」

 

晴子「これに神奈が閉じ込められとるんやな・・・、これで高野山の呪いを解いて観鈴を守るんや!」

 

大聖杯を見上げる晴子の目は娘を見つめる母の目だった

 

 

 

 

 

そしてもう一つの目が遙かな高みからその大艦隊を見下ろしていた

 

偵察衛星からリアルタイムで送られてくる画像を見ながらその者は冷徹な声を響かせた

 

ナルバレック「あの存在は翼人を核にして大聖杯を新たに創造し、

        さらには極東の聖域の一つを侵そうとしている・・・らしいですよ?第七位」

 

ナルバレックの背後で黒衣の長身の女性がすっと立ち上がる

 

ナルバ「しかも旧き大聖杯はこのためだけに破壊されたそうです、ついでに言峰神父も彼女の手で・・・

     阿頼耶も協会も黙っていないでしょうね」

 

ナルバレックはシエルを呼びつけながら振り返りすらせず勝手に話し続けた

 

ナルバ「さらに彼女は自らの目的のために根源の扉すらこじ開けようとしています、

     無論、世界もこれほどの暴挙を見逃しはしないでしょう、

     既に真祖の姫が動き出したそうです、”彼”と一緒にね・・・」

 

彼”の部分で意図的に口調が変わっていた、  嘲笑の口調に  その嘲笑はシエルに向けられていた

 

シエル「どのようにしたいのですか?」

 

その挑発をシエルは平然と無視する

 

ナルバ「デリケートな問題です、彼女が解き放とうとしているものは伝承の通りなら翼を持った神の使い・・・翼人

     もしもそれが我々の主の使いということならば彼女の行為は主の代行と認めざるえません・・・でも

     そうでなかったら

 

シエル「真実を見極め、信仰ならば助け、侵攻ならば打ち砕け・・・というのですね?」

 

ナルバ「それが判っているのなら早く行きなさい、もう時間が無いようです・・・」

 

ナルバレックが向き直った時、シエルの姿は既に無かった、そしてモニターは偵察衛星が破壊された警報で赤く染まっていた・・・

 

だがナルバレックは知らなかった、艦隊を見下ろしているものがもう一人いたことを

 

 

 

 

????「さすが高野山の中心じゃな・・・あたり一帯結界だらけじゃ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

高野山中心殴り込み艦隊 旗艦”えるとりうむ”ブリッジ

 

秋子さん「高野山の聖達は空の神奈ちゃんを大聖杯に封じ直しました、自分達の願望達成のために

      私はそれを奪い、そして私達はそれを逆手にとって利用します
      大聖杯を洗脳ぢゃむで満たし洗脳された神奈ちゃんの翼人の力で”あんり・ぢゃむ”を召喚します

      その召喚の場は紀伊山系の霊脈の中心、護摩壇山です、そこまで大聖杯を死守してください

      そしてその中心から高野山の霊脈全てを飲み込みます、これにより高野山聖域は完全に消滅、

      同時に神奈ちゃんに掛けられた呪いも消滅し、神奈ちゃんは解放されます

      その後、神奈ちゃんの魂魄の洗脳を解き、それで本作戦は完了します

      最後に・・・神奈ちゃんの真の解放はこの一戦にかかっています!皆さん、がんばってください!」

 

艦隊の隅々まで緊張が走る

 

艦内を戦闘配置の命令が駆け巡った

 

秋隆「全砲門開け!法儀魚雷全管装填!砲雷撃戦用意!ショックガン連動!艦首波○砲エネルギー充填開始!」

 

秋隆の指令で全ての戦艦が超科学の力を剥き出しにし始めた

 

シオン「メカ翡翠”ストライプ”、メカ翡翠”レース”、メカ翡翠”フリル”、全機発艦体制に入れ!」

 

シオンの指令に数え切れないほどのメカ翡翠が装甲スカートをはためかせて発進していった

 

 

 

 

 

その頃、観鈴は格納庫で出撃準備を整えていた、その手には一枚の写真

 

観鈴「神奈ちゃん、1000年前に始まったこの呪いももうすぐ解けるわ・・・そしたら還るね、そら!」

 

往人「観鈴、2号艦には俺が乗るぞ」

 

観鈴「往人さん!」

 

往人「晴子が譲ってくれたんだよ、これが最後になるからって・・・」

 

2人の見上げる先には超科学の力で”ばすたぁましーん”と化した往人の方術人形”がんばすたぁ”が

 

 

天使人形byあゆあゆ

 

あれ・・・・・・・・・?

 

観鈴「往人さん、お人形変わっちゃってるよ?」

 

往人「気にするな・・・秋子さんのおちゃめをいちいち気にしてたら負けだ・・・」

 

よくわかってるね、君は・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 


シオン「先導艦”秋シオン”より入電!我、高野山大門付近に魔法陣反応を感知!

    サーバントが一斉召喚されつつあり!数は推定で60体!」

 

秋子さん「あらあら?阿頼耶も協会もルール無用の悪党に堕ちたみたいね♪」

 

シオン「続いて女人堂近辺より志貴、真祖、代行者、その他が出現!来ます!」

 

秋子さん「世界も教会も本気を出していますね、それじゃあこちらも本気でいかせてもらいましょう♪」

 

秋隆「敵集団は前衛艦隊を無視!大聖杯にまっすぐ突っ込んできます!サーバントの数も120に増えました、全天を覆っています!」

 

秋子さん「やっぱりこちらの目的には気づいていないのね・・・」

 

秋子は余裕の笑みを浮かべて全艦隊に指示を下す

 

秋子さん「目標は敵の中心部、護摩壇山への到達です、周りの雑魚には目もくれないで下さいね♪」

 

アルク「あたしを雑魚呼ばわりするなぁ!」

 

秋子の言葉に逆上したアルクェイドが腕を振るう

 

その一振りで数百のメカ翡翠が消し飛んだ

 

晴子「あかんわ!スーパーメカ翡翠級では歯が立たへんで!」

 

志貴がその様子に表情をゆがめる

 

志貴「メカ翡翠・・・琥珀さんだな、それにこの艦隊・・・秋葉は何をしたいんだ?」

 

その困惑は艦隊にも広がっていた

 

「あれは志貴様ではないのか?秋葉様を裏切られたのか!?」

 

その混乱に乗じて他のサーバント達が大聖杯めがけて殺到していた

 

シオン「真祖及びサーバント群、結界まで20秒」

 

晴子「結界全開や!」

 

ランサー「けっ!中にいる神奈とかいう嬢ちゃんをぶっ殺せばすむこった!悪く思うなよ、ゲイボルグ!」

 

ランサーの放ったゲイボルグが結界に弾かれる・・・いや、ゲイボルグは主の命がわからずに迷走した

 

その結界を士郎とアーチャーが解析する

 

士郎「大聖杯の周囲に張られているのは未知の結界だ!概念武装かそれ以上でなければ突破できない!」

 

シエル「ならば第七聖典の力を受けてみなさい!」

 

志貴「直死の魔眼で断ち切ってやる!」

 

アーチャーは少しだけ慎重だった、さらに念入りに解析を続ける

 

アーチャー「なんだこの結界は・・・?これは・・・これは因果の輪廻!そうか!そういうことか秋子!」

 

アーチャーが結界と思われたものの正体に気づき叫ぶ

 

そしてアルクェイドはそれを聞き逃さなかった

 

アルク「ダメよ!なんか変だわ、これは・・・こいつはいったい何なの!?こいつは大聖杯を守ってない!?」

 

しかしアルクェイドの制止はほんの一呼吸だけ遅かった

 

ガラスのように粉々に砕ける「それ」

 

その破片の降り注ぐ軌跡はとても美しかった・・・

 

 

 

 

 

 

秋子さん「終わったわね

 

その光景に秋子は微笑を浮かべる、神々しい女神のような笑み

 

しかしその慈母の微笑みはすぐに哀しい笑みに変わった

 

秋子さん「こんなにもあっけないなんてね・・・こんなくだらないもののせいで神奈ちゃんが・・・」

 

混乱の極に達したブリッジでその独白は誰の耳にも届いてはいなかった

 

 

 

 

 

煌きながら消えてゆく「それ」の破片に包まれたまま、アルクェイドとシエルが罵り合う

 

アルク「シエル!あなたはいまとても軽率なことをしたわ!」

 

シエル「あなたこそ他人のセリフをパクッてるじゃありませんか!」

 

アーチャー「いやそれよりそれを破壊したことのほうに突っ込めよ・・・?」

 

二人の罵声をさえぎり、秋子の言葉が戦場に響く

 

秋子さん「第七聖典は転生を否定する概念武装、そして直死の魔眼には因果すらも断ち切る力があります
      これで神奈ちゃんを縛っていた因縁は断ち切られ、彼女達の繰り返す転生も最後になりますね」

 

その意味を理解し打ちのめされたアルクェイドがかすれた声で呻く

 

アルク「そんな・・・それじゃ、あたし達がやったことは・・・」

 

シエル「最初から”我々にそれをさせるつもりだった”ということですね・・・」

 

シエルの声はあくまでも冷静だった、その直後、秋子の真意を聞かされるまでは

 

秋子さん「その達成のためだけなら大聖杯はただの餌でした、でも真の回帰のためには大聖杯の助力も必要なのですよ

      高野山を1000年前まで遡及して法滅させ、神奈ちゃんを無為法に導くためには」

 

秋子の言葉はシエルの怒りの限界すら超えていた、シエルの声が恐怖に震える

 

シエル「あなたは・・・あなたは自分が何をしているかわかっているのですか?!それは摂理を滅ぼすということなのですよ・・・?」

 

虚脱するシエルにかわり、冷めた声でアルクェイドが秋子の言葉を皮肉る

 

アルク「いい気なものね・・・あなたは”どこ”に導くつもり?・・・こんなおぞましい扉にしておいてよくもぬけぬけと!」

 

秋子さん「いいえ、していませんよ、魂だけにされてしまったあの子は大聖杯にはなりえませんから

      神奈ちゃんの魂は今でもこの空に囚われたままです・・・、中にいるのは桜ちゃんですよ」

 

凛「そんな馬鹿な!?」

 

秋子さん「あなたがたにとって予想もし得ないことだからこそ、あなたがたはこちらの予想どおりに動いてくれたのです
      ありがとう、あなたがたこそが・・・

 

沈黙を守っていた志貴が秋子をさえぎり、その先を続ける

 

志貴「願いを叶える者ということか・・・」

 

アインツベルンの末裔、そして真の聖杯たるイリヤが叫ぶ

 

イリヤ「どうして偽の聖杯の桜が大聖杯になっているの?!こんなのまがい物の扉じゃない!」

 

秋子さん「彼女には願いがありました、どうしても叶えたい願いが・・・

      だから彼女は自らの望む幻想を創るために、自ら進んで大聖杯になることを選んだのですよ・・・」

 

秋子は凛の姿を目に留め、その先の真実を言いよどむ

 

秋子さん「そして私はそれを利用するために彼女に手を貸したのです・・・」

 

凛「なんて酷い・・・・・・・・・」

 

凛の声が嗚咽で途切れる

 

シエル「しっしかし神奈を解放するなら今の刻に因果を断ち切るだけで十分でしょう?!

     なぜ過去を虚無に帰することまで求めるのですか!なぜこのような暴挙を続けるのですか?

     あなたは桜にこれ以上の何を求めているのですか!もう桜も解き放ってもいいはずです!彼女を現実に還しなさい!」

 

ようやく立ち直ったシエルの問いに秋子は静かに答える

 

秋子さん「今の刻に因果を断つだけでは不十分なのですよ・・・解き放つだけで救えない
      それに神奈ちゃんの存在に気が付いたあなたがたも新たに敵になるでしょうしね・・・
      だから”旧き敵”と”新たなる敵”、その両方をまとめて放逐するのです」

 

秋子はある禁忌をこともなげに続けた

 

秋子さん「青子ちゃんと橙子ちゃんの2人の力でこれとは別の大聖杯の種を創ってもらってありますから」

 

僅かな黙考のあと、その真意にきずいたシエルが怒号をあげた

 

シエル「まさか・・・!!!まさか、あなたは神の摂理に叛き悪魔の禁忌に踏み込むつもりですか!?」

 

秋子は哀しげにつぶやく

 

秋子さん「神の摂理・・・悪魔の禁忌・・・誰が勝手に定めたのでしょうね?そんなものを?

 

絶句するシエルの脇を抜けランサーが前に出る

 

ランサー「知らねえな!だが桜を殺せば終わるってことはわかったぜ!逝け!ゲイボ・・・ぐげぇ!?」

 

「やめろ!」そう絶叫する士郎の声が届く前に、秋子の真意を狙ったゲイボルグを放とうとしたランサーの身体を何かが貫いた

 

ランサーが顔を苦痛と憤怒に赤く染め、驚愕の怒号を挙げる

 

ランサー「・・・くそったれがぁ!なんで気づいた?!どこからこんな聖遺物をもってきやがった!」

 

それは赤い槍、秋子が”えるとりうむ”のブリッジからの投じたロンギヌスの槍

 

それが因果の逆転により時空を超えてランサーの心臓を穿っていた

 

秋子さん「そんな振りをして神奈ちゃんの”未然”を狙ったりするからですよ・・・、それに桜ちゃんも死なせません」

 

凛「何を言うの!桜を・・・桜をこんなにしたおまえが何を言うの!」

 

凛の顔が憎しみに歪む

 

ランサー「槍兵の俺にトドメを刺すに聖槍とはな・・・あてつけがましいまねをしやがるぜ・・・」

 

ランサーの悔しげな最後の言葉を引き継ぎギルガメッシュが吠えた

 

金ぴか「ならば我の王の財宝の力で大聖杯ごと粉砕してくれるわ!思い知れ!この雑種め!ゲート・オブ・バビロン!」

 

無数の宝具が大聖杯めがけて降り注ぐ、しかしそれは”がんばすたぁ”のホーミングレーザーでことごとく迎撃された

 

そして宝具を失ったギルガメッシュをバスタービームが襲う

 

金色の閃光に包まれ消滅する刹那、ギルガメッシュは断末魔の悲鳴を挙げた

 

金ぴか「馬鹿な?!我は王なるぞ?その我が雑種如きにぃーーーー!?」

 

指令官席で秋子は微かにギルを哂った

 

秋子さん「たかが王如き”賤しい身分”の分際で身の程をわきまえないからですよ・・・」

 

それはあまりにも美しすぎる悪魔の笑みだった

 

 

 

 

アーチャー「剣では勝てんか?ならば目には目を、歯には歯を、バスターマシンにはバスターマシンを!」

 

不利を悟ったアーチャーがメカ翡翠を無数に複製し戦艦に向け突撃させる

 

だが複製メカ翡翠の群れはスーパーイナズマキックでまとめて蹴散らされていった

 

それでもアーチャーは複製を続ける、士郎が彼に習い戦艦の複製を始めた

 

彼らは魔力が尽き、命が尽きるまでそれを続けた

 

 

 

 

イリヤ「バーサーカー!あの人形を足止めして!あのままじゃお兄ちゃんが持たないわ!」

 

イリヤの声にバーサーカーが”がんばすたぁ”に体当たりをかける

 

そのバーサーカーの突撃を”がんばすたぁ”は軽々と受け止めた

 

そしてイリヤの目の前でバーサーカーを 握 り 潰 し た

 

絶叫するイリヤ、そのイリヤをライダーがかばいその場を離れる

 

セイバーは哀しそうに小さく首を振り、そして泣きじゃくるイリヤを見つめた

 

セイバーとイリヤの視線が絡まる・・・やがてイリヤはその瞳に決意を込めてうなずく

 

ライダーがその意を汲み取りイリヤに自分の持つ魔力の全てを注ぎ始める

 

セイバーは面を上げ、秋子の座乗する旗艦を睨みつけた

 

セイバー「秋子!追い詰められたサーバントがなにをするか見せてあげます!」

 

 

 

 

 

満身創痍のシエルが大聖杯に突撃を試みる

 

シエルは自分に集中するビームもミサイルも全くよけようとすらしなかった

 

我が身を穿つその痛みを信仰でねじ伏せ、シエルは義務の達成だけを求めた

 

大聖杯の破壊・・・いや正確には大聖杯に潜まされた”種”の破壊

 

彼女に全艦隊の火力が集約されていく、なすすべもなく集中砲火を浴びるシエル

 

いつしか不死のはずの彼女が生存の望みを捨てていた

 

 

 

 

気配を殺し、全てを殺すために志貴が”がんばすたぁ”に忍び寄る

 

志貴は魔眼殺しを外し、志貴の心をも外して七夜と化していた

 

戦場に不釣り合いな優しい風が吹き、一人の女性が現われる

 

青子「志貴・・・約束守れてないみたいね♪」

 

 

 

 

 

アルクェイドは瞳を金色に輝かせながら”えるとりうむ”に肉迫していた

 

アルク「あたしを忘れてるんじゃないの?舐めないでよね、あたし真祖なのよ!」

 

そのアルクェイドの眼前にマント姿の男が降り立つ

 

魔道元帥「姫の相手はワシがしようかの?」

 

アルク「ゼル爺!裏切ったの!?・・・・・・そう、みんなが裏切りあっているということなのね・・・」

 

魔道元帥「裏切ってなどおらぬよ、この戦い、たった一つの奇跡だけしか残らぬのだからな・・・」

 

 

 

 

 

秋子さん「あなた方が求めるものは何なのかしらね?この世界に

 

 

 

 

 

そして最後の戦いが始まった

 

 

 

 

 

 

 


爆散する戦艦
消滅するサーバント
砕け散り無効化される結界
歪み軋み撓み悲鳴を上げる大聖杯

 

宇宙開闢以来の最大の闘いが繰り広げられた

 

そして世界はあってはならない矛盾に自らを否定し始めていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


大破・轟沈1700隻
中破4500隻
未帰還機2万2千8百機

 

ばすたぁましーん1号・・・健在
同2号・・・健在
同3号・・・健在

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あんり・ぢゃむ覚醒まであと  分

 

 

無数に漂う戦艦とメカ翡翠の残骸、そして火星よりも赤く月よりも荒れ果てた大聖杯

 

シオンの静かな声だけが戦況を告げ続ける

 

シオン「敵主力は第14波以降沈黙を守っています、新たなサーバント出現の兆候もありません」

 

それを聞き流しながら秋隆が感嘆の声を漏らした

 

秋隆「あれだけの損害で稼動している、まさに・・・」

 

晴子「奇跡や!」

 

秋子が皆にねぎらいの言葉を掛けた

 

秋子さん「皆さん、よく持ちこたえてくれました・・・、ありがとう」

 

もはや残存艦隊と”がんばすたぁ”以外に動くものはいなかった

 

あのアルクェイドすら機能を停止し世界に回収されてしまっている

 

倒れた志貴は先生の胸に抱かれ、戦闘不能に陥ったシエルはナルバレックの手で教会に連れ戻された

 

秋子さん「秋隆さん、味方は何隻残っているかしら?」

 

秋隆「本艦と2562隻です・・・」

 

秋子さん「そう・・・健闘したわね・・・」

 

しかし大聖杯の受けたダメージはあまりにも深刻過ぎた

 

大聖杯の表面に設置された洗脳スレイブが次々に沈み込んでゆく

 

その過半数が動かない

 

高野山を焦土と化し、護摩壇山上空に到達しても大聖杯は変化を見せなかった

 

シオンが悲痛な声を挙げる

 

シオン「だめです、洗脳が99.89%にしか達しません、中心部の桜が嫉妬で狂わない限り”あんり・ぢゃむ”は召喚されません、失敗です・・・」

 

秋子はその報告に全く動じなかった

 

現界しきれなくなったセイバーが士郎へ別れを告げる

 

セイバー「士郎、これでお別れです・・・他のサーバントは既に全て聖杯に取り込まれました・・・」

 

その士郎ももう動かない、士郎は凛をかばったまま折り重なって倒れていた

 

セイバーは秋子に向き直り最後の力を振り絞って、満足げに静かな落ち着いた声で勝利を告げた

 

セイバー「これであなたの野望も潰えた訳ですね、我々は大聖杯の成就阻止をイリヤに・・・真の聖杯に願いました、
      偽の聖杯を核にした大聖杯はこの矛盾を解決できないでしょう、
      聖杯戦争を踏み台にしようとしたあなたは聖杯戦争のルールによって負けるのです
      我々サーバントが倒されることによって負けるのです、

      いえ・・・もはや我々の間に勝ち負けなど意味の無いことですね・・・

      我々の望む奇跡は起こり、あなたの望む奇跡は起きない・・・、これが結末です・・・」

 

消えていくセイバーの声・・・だがその言葉は無視された

 

秋子さん「秋隆さん、あなたは神や悪魔を信じるかしら?」

 

秋隆「いいえ、私は」

 

秋子さん「そう・・・私は信じるわ、だってどちらも私の中にあるのですもの

 

秋子は笑う

 

その笑顔には何も込められていなかった

 

いかなる思いも無い無垢の笑顔

 

そして秋子は告げた

 

秋子さん「セイバーさん?もしもまだ聞こえていたら教えてあげるわね、

      奇跡は起きるわ、だってまだ願い事が一つだけ残っているから”

 

 

 

 

 

 

 

観鈴は迷わなかった

 

まっすぐ”あゆの天使人形”を大聖杯に向けて突っ込ませる

 

観鈴「これで終わらせる、あたしが神奈ちゃんの全てを受け止めて!」

 

その右手には洗脳ぢゃむのスレイブが握られている

 

その傍らに突然影がさした

 

魔道元帥「ワシもいこうかの?」

 

アルクェイドとの戦いで半身を失い、ぼろぼろの姿に成り果てた魔道元帥がいた

 

観鈴「おじいさん!?」

 

往人「だめだ還れ!」

 

観鈴「いくらおじいさんでもその状態じゃ大聖杯中心部には耐えられないわ!」

 

魔道元帥「案ずるでない、そこまでは潜らぬよ・・・それに秋子殿からおぬしらを平行世界に送り返してくれと頼まれておるのだ」

 

そういって魔道元帥は天使人形の左手に何かを握りこませた

 

魔道元帥「では、若者達よ、さらばだ・・・必ず還るのだぞ、どちらの刻にもな」

 

往人「なにを言って・・・?」

 

往人がその言を問いただす前に”がんばすたぁ”が限界圏に突入し魔道元帥との通信は途切れた

 

下降していく観鈴と往人を見送る魔道元帥

 

その表情にはゼルレッチが人だった頃、幼子だった頃に見せたであろう悪戯っ子の笑みがあった

 

ゼルレッチ「ふふ・・・秋子様に叱られてしまうかもしれんのう?」

 

 

 

 

 

大聖杯中心部へと下降していく”がんばすたぁ”

 

生きとし生けるものの何一つ無い世界

 

観鈴「往人さん・・・」

 

うつむいたままの観鈴が涙を零す

 

観鈴「ごめんなさい・・・あたしのせいで」

 

往人「・・・・・・・・・俺はお前の側でお前が笑うのを見ていられればそれでいい・・・だからおまえは笑っていろ

 

往人の言葉に観鈴が顔を上げた

 

 

 

 

 

 

残された僅かな時間が静かに流れていった

 

 

 

 

 

 

 

大聖杯中心部  洗脳・じぇねれいたー

 

観鈴「これが大聖杯の核・・・」

 

暗黒の中に更に深い闇を作る何か、それを見て観鈴が声を振り絞る

 

往人「そうだ・・・、嫉妬心を通常の3万倍にされた桜が封印されている」

 

 

 

 

 

 

 

そこで壊れた桜が終わらない幸せな夢を見続けていた

 

「この人は誰にも渡さないわ・・・誰にも・・・」

 

その桜の姿に観鈴の心が哀しみで満たされる

 

この人の心は孤独に病んでいる

好きな人のそばにいたいだけだったのに

好きな人と一緒に笑いたいだけだったのに

たった一つの願いすら叶わなくて

心の器が壊れてしまった

 

 

観鈴は洗脳ぢゃむを握った右手に力を込める

 

だから・・・

 

孤独の哀しみに狂った桜へ、慈しみの心がこもる

 

だからせめて・・・

 

 

 

 

 

最後には幸せな記憶を

 

 

 

 

 

 


観鈴は渾身の力で桜の口に最後の洗脳ぢゃむの壜を突っ込んだ

 

観鈴「ごーる!」

 

その瞬間、”嫉妬の夜に萌え狂う桜”と化した桜が”あんり・ぢゃむ”を具現化させた

 

あんり・ぢゃむ”が世界を侵食し飲み込み始める

 

一瞬で高野山の霊脈が飲まれて消滅し、1000年前の翼人封印の事実すらもが因果地平の彼方に消え去った

 

観鈴は悟った、それを逃れる術は無いのだと、もう還ることはないのだと

 

 

 

 

 

観鈴「ごめん、そら!もう会えない!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全ての願いが叶い

 

大聖杯は人に還り、刻を去った

 

青子と橙子の創った種が芽吹いた

 

また大聖杯が生まれた

 

魔道元帥の宝石がそれを導く

 

一つだけ願いを叶え、大聖杯はまた人に還り、刻に飛び立った

 

観鈴が最後に見たものは翼を持った少女の羽ばたく姿だった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界は恐怖した、世界の法を超越した奇跡という可能性に
阿頼耶の尖兵も抑止力たる真祖の姫ですらも修正できない
このままでは世界のルールそのものまで矛盾し消滅するだろう

 

そして世界は取引を選んだ、奇跡と取引する事を
たった1つの願いを全てに優先して叶えるかわりに
たった1つの願い以外の全てを未生に還す取引を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1万2千秒後

 

 

 

平行世界

 

往人「武田商店だぞ、観鈴・・・」

 

ぼろぼろに朽ち果てた”人形”が懐かしい街にゆっくりと降り立つ

 

砂浜に降り立った”人形”は無数の白い羽となって消えていった

 

無意識の内に呟いた

 

「ありがとう、天使さん・・・

 

さ よ う な ら

 

砂浜から防波堤に登った往人と観鈴

 

観鈴「自販機にどろり濃厚が置いてない・・・」

 

往人「やはりゲルルンは販売禁止にされてしまったか」

 

観鈴「あのあたりがお家だった・・・」

 

暗黒の帳に包まれた街

 

観鈴は涙をこぼした

 

もうお母さんにもそらにも会えない

 

傍らに立つ往人がそっと観鈴の肩を抱く、そして夜の海に浮かぶ二人のシルエットが重なり・・・

 

鈍い音と共に往人の姿が掻き消えた

 

腹に響く鈍い重低音が防波堤に轟き渡る

 

晴子「居候!おんどれこないな夜遅くまで観鈴をどこに連れて行っておったんや?今日という今日は生かしておかんで!」

 

観鈴「お母さん!?」

 

晴子「観鈴!居候に変なことされんかったか?泣き寝入りはいかんで!?」

 

ドカティに弾き飛ばされ大の字に伸びている往人の頭をそらが突付き、ポテトが足に噛み付いている

 

観鈴の瞳から涙がこぼれる

 

それは悲しみの涙ではなく喜びの涙

 

もう一人の自分が流している涙と同じ涙

 

 

還ってきたんだね

 

 

観鈴は晴子の胸に顔を埋めて涙を拭いた、そして生まれて始めての本当の笑顔で笑った

 

観鈴「お母さん!帰りにどろり濃厚ジュース買って!もう売ってないの!」

 

晴子がその言葉に顔を青ざめさせる

 

晴子「ああ、あれか・・・あれはちょっと・・・居候!そんなとこで寝とらんでとっとと家に還るで!」

 

晴子は話題をそらすため往人を引き摺ってバイクを押し始めた

 

観鈴「えーーー!?お母さんいま誤魔化した?買って!ねえ、買ってよ〜!」

 

往人「観鈴・・・あのジュースだけは勘弁してくれ・・・また明日・・・だ」

 

星の明かり以外なにもない夜空の下を3人と一羽と一匹の影が神尾家に向かって還ってゆく

 

闇の中に街の灯りがともり始めた

 

その灯りはこう読むことが出来た

 

オカエリナサλ

どろりじゃないのもありますよ?by秋子

 

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「幸せな夢を見たのじゃ・・・」

 

 

遠野家

衛宮邸

昼寝していた志貴を窓から飛び込んだアルクエィドがフライングボディプレスで叩き起こし、まくし立てた

夏の午後、桜が士郎の家の門をくぐった

腹を押さえて呻く志貴の傍らでレンが自分の主に非難の視線を送っている

昼寝をしていた士郎が目を醒ます

志貴「おまえなぁ・・・それまんま”T○Pをねらえ!”のパクリじゃないか?よくもまあいらん知識ばっかり・・・」

士郎「あれ?桜どうしたんだ?」

ようやく回復した志貴が眼鏡をかけながら呆れたようにつぶやいた

桜「ええ・・・おじいさまが行方不明になってしまわれて・・・」

アルク「なによー!この世にいらない知識なんてないんだからね?私は世界から直接知識を引き出せるんだよ、
    アカシックレコードに記録されていることならなんでも引き出せるんだよ!
    つまりあたしは何でも知ってるんだから、志貴なんかとは違うんだよーん(えっへん!)」

桜「でもそのおかげで自由に外出できるようになったんです」

志貴「あー、はいはいすごいねぇ、でもお前が見たのは夢だろ?

    現実じゃないならアカシックレコードなんて関係ないよな?プッw」

士郎「悪い子だな桜は(笑)」

アルク「・・・・・・・・・・・・・・・あ(汗)、むーーーーーーーーー・・・・・・・・・志貴のばかぁーーーーーーーーー!」

桜「酷いです、先輩!」

志貴「わーーーーー逆ギレすんなよ、このばかおんな!それに俺だって・・・うわーーーーーーーー!」

桜「でも聞いてください、とってもいい夢を見たんですよ・・・」

 

 

「俺も夢を見たぞ、おまえの夢をな」

 

 

アルクェイドは気がついていなかった

自分が確かに事実を引き出していたことに

 

他のみんなも同じ夢を同じ刻に見ていたことに

そしてそれが夢ではなく”世界が消し残した事実”だったことに・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

騒がしくて幸せで平和な日々が続いていく・・・

 

この空の上でいつまでも・・・

 

この空の下でどこまでも・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暖かい優しい風の吹く草原の中で、大きな切り株に腰掛け青空を見上げながら、秋子は誰かに向かってつぶやいた

 

秋子さん「これで何もかもが元通りになりましたね・・・あなたの幸せな刻が始まったというたった一つの奇跡だけを残して・・・」