「♪〜〜♪♪」

ああ、志貴が歩いてる。てくてく、てくてく歩いてる。

知ってる。「がっこう」にいくんだ。

いつでも一緒にいたいのにやさしい志貴は「がっこう」にはくるなっていう。

志貴は私のことを「ばかおんなー」とか「常識なしー」とかいっつも怒るけど、

怒った後はちゃんとやさしくあやまってくれる。

そんな志貴も大好き。

そんな志貴にまた合いたいから同じことをやってみる。

そしたらこんどは違った志貴に合えるから。

そのときは志貴は私だけを見つめて私だけを怒鳴ってくれる。

いまでもあのことを思い出すと涙が止まらない。

 

でも一度だけ「がっこう」に行ったときは違ってた。

今度はどんな志貴に会えるのかとわくわくしてたのに、

志貴はわたしを見つけると「約束を守れないならもう会わない」って言った。

そうだった。志貴は「約束」ってすごく大切にするんだ。

出合ったころに「約束」だからってすごく無理してくれた。

いっぱいいっぱい「約束」のためにがんばってくれた。

志貴が好きで志貴の近くにいたくて志貴の匂いが好きで志貴の声が聞きたくて…それだけだったのに

それなのに志貴は「もう会わない」って言った。

何をいわれたのかよく分からなかったけど、志貴がいつもと違うことだけはわかった。

だから、ひとまず帰った。

夜、じっと考えたけどやっぱり分からなかった。

だから志貴に会いに志貴のおうちにいった。

でも、志貴の部屋の窓は鍵がかかっていた。

こんなことははじめて。窓を壊すのは簡単なこと。

でも、志貴とわたしの間にある距離の壊し方は分からなかった。

窓の向こうに志貴がいるのは感知できるけど、

あったらどうすれば良いのか分からなかった。

だから、またマンションに帰った。

何でかわからないけど、目から水が出てきた。

戦闘に支障をきたすのであわてて止めようとしたけど、

後から後から流れてきて止まらなかった。

どれだけそうしていたか分からないけど、目から出る水は止まらなかった。

このままマンションにいると、水でおぼれそうだったので、公園に行くことにした。

公園についても目から出る水は止まらなかった。

公園にいると志貴の思い出が後から後からあふれてきた。

私のためにネロ・カオスとぼろぼろになって戦っていた志貴。

隠れてしまった私を追いかけて必死で探していた志貴。

シエルともめていたところを止めてくれた志貴。

一緒に鳩にパンくずをあげた志貴。

志貴はもう会ってくれないっていった。

志貴はもう会ってくれないっていった。

志貴の窓は閉まってた。

志貴の……

 

「やっと見つけたぞこのばかおんなーーーー」

 

志貴の声が聞こえる。志貴はもう会ってくれないのに。

志貴の足音が聞こえる。志貴はもう会ってくれないのに。

志貴の香りがする。志貴はもう会ってくれないのに。

志貴の指が私のほっぺたをびろーんて引っ張ってる。志貴はもう…

「心配したんだぞ、このばかおんな。話の途中でいなくなっちゃうから探したんだぞ」

志貴は息を切らして、上着を着てなくて、ぷんすか怒ってた。

何で志貴が目の前にいるの?またあってくれるの?

「いいか、俺は「約束を守れないならもう会わないけど守ってくれるならちゃんとこれからもアルクェイドと付き合うよ」っていおうとしたんだぞ。それを話の途中ですっ飛んで行っちゃうから」

え?え?え?今なんていったの?私と付き合ってくれるって行ったの。それって会ってくれるってことなの。

「あー、だから「約束」だけはちゃんと守ってくれって、それだけなんだよ、っておい、よせよ」

「じ〜ぎ〜、じ〜ぎ〜、じ〜ぎ〜、じ〜ぎ〜」

志貴が目の前にいる。志貴が会ってくれる。志貴が付き合ってくれる。志貴が…

目の前にいるのが志貴だって確かめたくって、飛びついたらなんと志貴だった。

「ごべんね〜じ〜ぎ〜、もう「約束」やぶらないがら〜、ごべんね〜」

目から水がいっぱいでたけど、さっきまでと違う水だった。

しばらく志貴にくっついていたら、目から出る水も止まってくれた。

「落ち着いた?ごめんな、そんなに泣かせるつもりはなかったんだよ」

「泣く?泣くって何?」

「うーん、さっき目から水がでたよね」

「うん」

「それが涙ッていって、辛いことがあったり、うれしいことがあったりすると出るものなんだよ。涙を流すことを泣くっていうんだよ」

「あ、あれって病気じゃないんだ」

「ふふっ、病気かもね」

「やっぱり病気なの?」

「どっちなのかな、よし、今日のお詫びに明日は映画を見に行こう。そのときちゃんと教えてあげるよ」

「ほんと、明日もあってくれるの」

「ああ、「約束」だよ」

「「約束!」」

「この「約束」は守ってくれない?」

声が出なくってぶんぶん首をたてに振った。守るって伝わったかな。

「もう一つ「約束」」

「「約束!」」

「家にくるときは?」

「窓から!」

「玄関から」

「窓から!!」

「………できるだけ玄関から」

ああ、窓のこと聞かなくっちゃ、志貴は答えてくれるかな。

「ねえ、今日窓が閉まってたの。どうして?」

「えっ、窓って俺の部屋の?うーん、、、、、、

ああ、お前が今日の朝来たときに窓から入って「さむい〜」とかいってしめてたろう」

「あ………、閉めた」

「俺の部屋の窓は閉めたことはないよ」

「開けておいてくれるの?」

「うん「約束」」

「えへへ〜、しき〜、なんでかな〜。すっごく胸のあたりがぽかぽかする、ねえ、なんでかな〜」

「ばっ、ばかおんな。そ、それは〜」

結局説明してくれなくって、ぎゅって私をしてくれた。なんでぽかぽかするのかなんとなくわかった。

志貴がそばにいて、志貴が私を見てくれるからぽかぽかするんだね。