琥珀さんのよふかし

 

あはー、今日はバレンタインですねー

にぶちんさんの志貴さんに今日こそ分かってもらうんですよ〜

 

あはー皆さん忘れていませんか〜

0時を回ればバレンタインデーですよ〜

フライング?

いえいえ、これは一つ屋根の下で住む恋する乙女の特権ですよ〜

もちろんチョコも出来ていますし、あとは渡すだけですよ。

 

さてさて、いよいよ見回りの時間ですよ。

ええ、お仕事ですからね、お・し・ご・と。

誰ですか、職権乱用とか言ってる人は。

忘れていませんか?

私は遠野家の「メイドさん」なんですよ。

愛妹の翡翠ちゃんばかりがメイドと思っていませんか。

私はメイドさんなんですよ。家政婦さんじゃありませんよ。

それは確かにお料理と「ガーデニング」しかしていませんがメイドさんなんですよ。

誠心誠意で真心込めて遠野家におつかえしていますよ。

遠野の皆さんが心安らかに永眠するお手伝いには手間隙惜しんでいませんよ。

もちろん手段も選んでいませんよ。

 

さーて、独り言が脱線してしまいましたが、とりあえずは監視カメラをぽちっとな。

あらあら、お嬢様は何も知らずにお休みですね。

檻髪で昨晩も暴れていらっしゃいましたしね。

あんな粉もこんな漢方もつかてませんよ。

ええ、まったくつかっていませんよ。

まあ、こちらはこのぐらいにしましょうか。

 

翡翠ちゃんはすやすや眠っていますかね。

あら、あらあら、まあまあ、いませんね。

廊下のセンサーの履歴はっと…

なるほど、お台所ですか。ぽちっとな。

…なぜ画面が紫色なんでしょう。

はっ、翡翠ちゃんは、翡翠ちゃんは無事ですか。

…………

     …………

          …………

…お姉ちゃん、あなたが分からないわ。

どうしてあの材料から動き回るチョコレートが出来るの。

どうしてそんなにうれしそうにそれを見つめているの。

 

いつも明るい貴方の琥珀さんはなんにも見ていませんよ〜

 

さてさて、いよいよ志貴さんのお部屋ですよ。

翡翠ちゃんは気が付いていませんが、最初に寝顔を拝見したのも実はわたしなんですよ。

あれの隠し場所もわかってるんですよ。

あら、あらら、志貴さんがベットにいません。

琥珀一大事です。

ぴんちですか。

でも大丈夫、ぽちっとな。

GPSによると…あら、まだ屋敷の中ですね。

毎日のお食事はわたしが作っているんですよ。

混ぜものだって思いのままですよ。

わたしの固有結界のなかで逃げ切れるとは思わないでくださいね、志貴さん。

さあ、追い詰めますよ。

志貴さんのお部屋 …ネガティブ

居間       …ネガティブ

お台所      …ネガティブ

リビング     …ネガティブ

秋葉様のお部屋  …ネガティブ

翡翠ちゃんのお部屋…ネガティブ

離れの和室    …ネガティブ

お風呂      …ネガティブ

トイレ      …ネガティブ

翡翠ちゃんの箪笥 …ネガティブ

金庫室      …ネガティブ

地下帝国     …ネガティブ

お・ん・し・つ  …ネガティブ

うそ、みつからない。

どこ、どこなの、この遠野家でわたしの知らない場所が?

ありえない、ありえない。

 

とんとん

「琥珀さん、起きていませんか」

えっ、この声は志貴さん!

いけません、監視装置がフル稼働中です、ぽちっとな。

ズ、ズ、ズ、ウィーン、、、、ふう、これで大丈夫。

いつものわたしのお部屋に模様替え完了です。

すたすたすた

「はい、起きていますよ、志貴さん」

がちゃ、

「どうしたんですか志貴さん、こんな夜中に?秋葉様に見つかったら大変ですよ〜」

「うん、わかってる。でもどうしてもやりたいことがあってね、すぐに戻るよ」

「あは、なんですか。やりたいことって」

「これなんだ」

えっ、これはなんですか。志貴さん。

ブルーのラッピングに白のリボン、それに甘い匂い…

「あの、その、受け取ってくれないかな。海外じゃあ男女を問わず大切な人にチョコを送るんだ」

「えっ…大切な…人」

「迷惑だったかな」

 

わたしはそのままうれしさの余り泣き崩れてしまい、志貴さんはおろおろしてました。

 

うれしい、うれしい、うれしい。

ふと鏡をみると、

そこには、

笑ったわたしがいました。

 

初めて笑ったわたしの顔をみました。

 

 

結局、わたしのチョコは忘れて渡しそびれたけど、

翡翠ちゃんのチョコとの戦いでお屋敷は半壊したけど

3バカとりおの皆さんはにぎやかでしたし

学校から帰った志貴さんからチョコの香りがしたけど

浅上からいろんな宅急便が志貴さんに届いたけど

全部許しちゃいました。

 

許しちゃいました。