某月某日。。

明るい光が差し込んで、俺はその眩しさによって目が覚めた。

「う〜ん、ひさびさによく眠れたなぁ。」

俺は両腕を上にあげて伸びをする。

コンコン。

いつも通り、乾いた音を立てて、俺の部屋のドアがノックされた。

「翡翠、入ってきていいよ。」

俺が返事をすると、ガチャリと音を立て、ドアノブが回される。

俺はまだわからなかった。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−悲劇はすでに始まっていたのだ、と。

 

 

 

特別編  日常を取り戻せ!

 

 

 

ドアノブが回され、ドアが開く。

「やあ、おはよう翡・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

いつもしていたはずの挨拶の言葉が、途中で空の彼方へと消え去った。

俺の目の前にいる人物は紛れもなく、翡翠ではない。

ゴシゴシと一生懸命メガネを磨いて見直しても、その事実が変わることはなかった。

「何の真似だ・・・?秋葉・・・・・・・・・・・・。」

そう、俺の前に姿を現したのは、普段翡翠がしているメイド服を纏った我が妹、秋葉だった。

「おはようございます、兄さん。琥珀様が下で待っていらっしゃるのでお早めに起こし下さい。」

当たり前のように、我が妹は、翡翠の朝の挨拶をそのまま使う。

開いた口が塞がらないとは、まさにこのことなんだと、身をもって知った。

しかしそんな中、俺の頭の中でワンフレーズがひっかかった。

ちょっと待てよ、今、秋葉の台詞の中に誰かの名前が出てきたような・・・・・・。

「えーと、秋葉。今なんて言った?」

俺は恐る恐る秋葉に尋ねた。

「まだ寝ぼけていらっしゃるのですか?ですから下で琥珀様が・・・・・・」

ヤッパリ、やっぱり、ヤッパリーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

俺はその言葉を聞いた瞬間、ダッシュで下の階へと向かった。

背後から秋葉の声が聞こえたような気がしたが、そんなものは届かない。

階段を下りると運良くそこには琥珀さんの姿があった。

「琥珀さんッ!!!!」

俺はふらふらと廊下を歩いている琥珀さんに向かって叫んだ。

「琥珀さんッ!勘弁してくださいッ!早く秋葉を元に戻して下さいよ〜。」

俺は両手で琥珀さんの肩を掴んでガクガクと揺らす。

「し、し、し、志貴様〜〜〜〜〜。一体何なんですか〜〜〜〜。」

志貴様・・・・・・?

目の前にいる琥珀さんの目を俺はじっと見つめる。

ジーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ。

ま、まさか・・・・・・・・・・

「ひょっとして・・・・・・ひ、翡翠?」

その言葉に彼女はうつむいた。

「そ、そ、そ、そうですけど、それがどうしたんですか〜?」 注:翡翠ですw

な、なるほど。そういうことか・・・・・・。

そう、俺の目の前にいた琥珀さんは口調こそ琥珀さんの真似をしていたが琥珀さんではなく、琥珀さんの格好をした翡翠だったのだ。

秋葉だけならまだしも、純粋である翡翠にまで手をかけるとは・・・。

「お、おのれッ・・・琥珀ッ・・・・・・・・・・・・」

俺は再びダッシュして、真の琥珀がいるであろう居間へと向かった。

ドダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダッッッッッ、バタンッ!!!!

「出てこい、悪魔ッ!!!」

俺は居間に突っ込むと大声を上げる。

そこに、彼女はいた。

足を組んでソファーに座っている、秋葉の格好をした琥珀が・・・・・・・・・・・・。←想像にお任せします(笑)

「遅かったですわね、志貴さん。朝食が冷めてしまいますよ。」

こんな状況なのに、琥珀という名の悪魔はお淑やかに紅茶を飲んでいた。

「貴ッ様ァッ、さっさと秋葉と翡翠を元に戻せッ。あんなのがこれからも続くと思うと、俺の頭がおかしくなる!それとお前は似合ってないッ!!」

俺は殺意を込めた視線を彼女に送りつつ、彼女の格好を批判した。

彼女はカチャンとティーカップを机に置くと満面の笑みを浮かべた。

「あら〜、志貴さん、いいじゃないですか。あんな秋葉様や翡翠ちゃんを見られることなんて一生ありませんよ。」

一生ありませんよ〜一生ありませんよ〜一生ありませんよ〜〜〜〜〜(エコー)

俺はヤツの言葉に揺れた。

た、確かに・・・。メイド服の秋葉や、あんな元気な翡翠を見ることなんて、これを逃したらもうないだろう・・・・・・・・・・・・

だったらいっそこのままのほうが・・・・・・・・・・ん?

アレ?いやいやチョット待て、それじゃダメだろ俺!

俺は頭を左右にブンブンと振って、思考を元に戻す。

「クッ、精神操作とはやってくれるな、琥珀。確かに惜しいものはあるがやっぱりこのままじゃダメだ!!さっさと二人を元に戻せッ!!」

俺は言葉を荒げる。

彼女はそんな俺の態度を見て、やりますねぇ、と一言漏らした。

どうやら彼女には、元に戻す気が全くないようだった。

「なるほど、そっちがその気なら、こっちも強行策を取らせて貰うぞ!」

俺は叫んだ後、メガネを投げ捨て、ナイフを取り出した。

そして琥珀さんを凝視する。

「琥珀という存在の中に棲んでいるその悪魔のような羨ましいような・・・・・・・いやいや、その悪魔な心を殺ス!!!」

まだ半分洗脳状態だった俺はなんとか自我を保ちつつナイフを強く握った。

しかし、本気である俺を前になぜか彼女は余裕だった。

「あはーーーー、志貴さん、直死の魔眼ですか〜?残念ですけど、そんなの私には効きませんよ〜。」

ふん、そんなワケあるか、と俺はさらに凝視した。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。。。

俺は彼女の言葉と同時に自らの眼を疑った。

アレ?そんな・・・・・・ホントにミエナイヨ。。。。

マジだった。ホントのホントのホントのホントに見えなかったのだ・・・・・・。

必死に眼を擦るがその事実は変わらない。

「お前ッ!俺の眼に何をしたあああぁぁぁぁぁぁ!!!!」

彼女は再び笑うと、自分の眼を指さしてこう言った。

その笑みは今までで一番悪魔に近かったのではないだろうか・・・。

衝撃の一言。

志貴さんが眠っている間に網膜の移植しちゃいましたぁ、と。

−−−−−−−−−−−−−−絶望した。

俺はがくんと足に力が入らなくなり、両膝と両腕を床について項垂れた。

そして、もうこの人を止められる人なんてこの世にはいないんだなぁと、心底思った。

「志貴さん、もう降参ですか〜?」

絶望の淵に叩きつけられた俺に、この悪魔はいつもの口調で話しかけてきやがった。

そんな時だった。

カツンカツンと俺の背後から二人分の足音がやってきた。

俺は見上げると・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・恐怖した。

お、お、お、お、お、お、お、お、鬼が二人・・・・・・。

凄まじい形相で二人の鬼が琥珀を見据えていた。

「琥珀ぅ〜、わかっているんでしょうねぇ?この罪は万死に値するわよ。」

「姉さん、今回のはやりすぎです。少しばかり頭を冷やしてください。」

二人を見て琥珀さんの顔も歪む。

彼女の顔からは汗がだらだらと流れ落ちていた。

「あ、あはははははー。な、何二人ともそんな怖い顔してるんですか〜?単なる遊びじゃないですか〜。新しい自分を見つけるいいチャンス・・・」

「聞く耳持ちません!!」(秋&翡)

キャアアアアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!←琥珀さんの叫w

 

こうして今まで通り、屋敷には平穏な日常が戻ってきた・・・・・・のか?

 

 

あれ?そういえば肝心の俺の網膜は何処に・・・・・・?

「イタッ、イタタタタタタタタッ!全然ダメじゃなですか、コレ!眼に入りません!!」

・・・・・・シエル先輩に渡っていた。

つーかアンタそれコンタクトじゃねぇって・・・・・・・・w