遠野秋葉の朝は5時に始まる。

琥珀がドアの前に立つ気配を感じ、ノックの音で目覚める。

シャワーを浴びた後、琥珀に髪を手入れされながら服を着替える。

1階に下りると志貴を待ちぼうけをうけた後に朝食を軽めに済ませ、再び居間で志貴の起床を待ちわびる。

今日こそ志貴が30分早く起きることに一縷の望みを託す。

そして、遅刻する時間に起きてくる志貴についついお小言を発する。

これが遠野秋葉のもはや「日課」であった。

そんな1日が今始まろうとしていた…

1日あきはの日

秋葉はいつものとうりにシャワーを浴び身支度を済ますと1階の居間でいつもと変わらぬ待ちぼうけの時間を迎えていた。

「翡翠、いくら日曜とはいえ兄さんはまだ起きないの」

「はい、15分おきにお起こししておりますが未だ兆候がございません」

「そう…、兆候?それは何のこと」

「それは、その、恐れながら秋葉様にも申し上げかねます」

「どういうこと、兄さんに口止めされているの」

「いえ、違います。ですがみだりに主人のことはお話できません。私の主人は志貴様です」

「…そう、わかったわ。この話はいいから、早くもう一度起こしてきて頂戴」

「かしこまりました、秋葉様」

こつこつと足音を立て翡翠が志貴の部屋へと向かうと、入れ替わりに琥珀がティーポットとカップをもって居間へと入ってくる。

「まあまあ、秋葉様、翡翠ちゃんをいじめないで下さい。今日のお茶は鎮静作用のある「自家製の」ハーブをブレンドしてみたんですよ。落ち着くと思いますからぜひ御賞味下さい」

「別にいじめてないわよ、ただ兄さんが」

「分かってますから、さ、どうぞ」

かちゃりとかすかな音を立てて琥珀はサイドテーブルにカップを用意した。

そしてティーポットを傾け黄金色の液体を注ぐと辺りにはさわやかな芳香が立ち込める。

「あら、いい香りね」

「ええ、自信作です」

静かな一時が始まろうとしたその時、翡翠の叫び声が響き渡った。

「志貴様、どうか思いとどまりください。私をお捨てになるのですか」

その叫びに思わず振り向くと、志貴がとてとてと居間へと駈け入ってきて、続いて翡翠が精一杯の速さで追いすがってきた。

今日の志貴のファッションは白いシャツに膝までの半ズボン、もちろんサスペンダーで吊るして靴下は白で靴は黒、そして「1日あきは」と書かれたたすきが一本。

「あ、おはよぉございます。あきはにこはくちゃん」

志貴は二人に気がつくと両手を膝のあたりにあわせて前に転びそうなほど深々とお辞儀した。

今日もまぶしい半ズボンに見とれながらも秋葉と琥珀はかろうじて返事を返す。

「お、おはようございます。兄さん」

「おはようございます。志貴さん」

ちなみに以前一度志貴にトリップして挨拶を返し損ねたときは、志貴はむくれて半日口を利いてくれなかった。

「えっと、こはくちゃん。今日のちょうしょくは何ですか」

「はい、ライ麦パンに半熟卵とサラダ、あとミルクです。もちろん今日も産地直送です」

動揺のかけらも見せない琥珀も脇で、秋葉はふるふると肩を震わせると

「そ、そうではなくて、どうしたんですか兄さん。そのたすきはなんですか」

志貴はこの言葉を聞いたとたんにうれしそうににこ〜っと微笑むと

「あのね、あのね、あきはっていつも朝から晩まで「ああ、兄さんも遠野家の長男なのですからもっとしっかりしてください」っていってるでしょ」

「ま、まあ申し上げてますが」

「それでね、あきはがぼくの分までしっかりしてるでしょ」

「私は遠野家の当主ですから」

「でも、「遊びに行きたいな〜」ってよくぼくに言ってるでしょ、そ・こ・で、ぼくが今日は1日あきはをやるの」

「つ、つまりどういうことなんでしょう。まだよく飲み込めないんですが」

「だ・か・ら〜、今日はぼくがあきはの代わりをやるの。それであきははいつも言ってた遊びにいってくるの」

(言ってますがそれは兄さんとお出かけして二人で遊園地とか映画館とかそういう意味なんですが…)

「だから1日あきは!ひょっとして、イヤ?」

志貴はさっきまでの満面の笑顔を曇らせると目を潤ませて秋葉を下から突き上げ始める。

パタパタ振っていた尻尾も垂れ下がり今にも泣き出しそうに秋葉のことをただじ〜っと見つめているとついに耐え切れなくなって、

「う、う、うれしいです。兄さんからそんな風に思っていただけるなんて」

ついうっかり、流されてしまった、だって目の前に子犬が泣いていたんだもん。

「やった〜、じゃあ今から始めるね」

ぴょこぴょこ万歳ジャンプして喜ぶ志貴、だが問題発言は続く…

「うーんと、こはくちゃんは今からぼくの付き人ね。あ、あきははぼくでひすいちゃんはあきはの付き人ね」

「あは〜、わかりました」

「な、なんですって」

「志貴様、私を捨てるおつもりですか」

3人3様に動揺するが一人だけ凄くうれしそう、志貴の暴走は止まらない。

「あと、ぼくがあきはであきははぼくだから、お部屋も交換ね。あきは、今日はぼくの部屋で寝るんだよ」

「は、はい。え?わ、私が兄さんのベットで、ね、ね、ね、寝るんですか?」

「うん、そうだよ。ぼくはあきはのベットだよ」

秋葉轟沈。翡翠の目に怪しい光が灯る。琥珀の目にも怪しい光が灯る。

「志貴様、私のことが要らなくなったのですか。雨の日も風の日も1日も欠かさず志貴様の寝顔を絵日記にしているこの翡翠はもう不要だと仰るのですか、記録を断絶するおつもりですか」

「ちがうよ、ひすいちゃん。今日はあきはを遊ばせてあげる日なの。手伝うの、イヤ?」

翡翠ワンワンパニック!思わずへたり込み

「はい、おおせのままに」

と口に出してしまった。

「あは〜、私が志貴さんの寝顔を頂戴できるんですね〜」

「うーんと、なにもあげられないけどとりあえず朝ごはん頂戴」

「分かりました。食堂にお越しくださいな」

いそいそと支度のため調理場へと戻っていく琥珀、とてとて付き従う子犬が一匹。

秋葉と翡翠が戦線復帰するのはしばらく先のことであった。

「こはくちゃん、ぼくは1日あきはだから、いつものあきはとおなじ物にして」

「あは〜、お任せください」

志貴の目の前には顔が隠れるほどの大きなジョッキになみなみと注がれたミルクが運ばれてきた。

「いつも秋葉様はこちらを朝食としてらっしゃいます。本日は軽めに取られましたが普段は3杯ほどお召しになります」

「うーん、じゃあいっぱいだね、んぐ、んぐ、んぐ、ぷは〜」

ジョッキに口をつけて傾けるが口の左右から白い線がぽたぽた。

「あ、こぼれちゃった。こはくさん、あきははこんなときどうしてる」

「私が舐めてふき取って差し上げますよ〜」

「ふーん、じゃあおねがい」

相変わらずの子犬モード。疑うことを知らぬ子犬は琥珀になめまわされる。

「うわ、くすぐったいよ。こはくちゃん」

「んむぅ、はあぁ、ぴちゃ、ぴちゃ、志貴さん動かないで下さい」

琥珀の奔放な舌が志貴のふっくらしたほっぺたを嘗め回す。

そんなこんなで朝食がおわると志貴は元気よく

「ごちそうさまでした」

なぜか琥珀も元気よく

「ごちそうさまでした」

居間に戻ると秋葉と翡翠がようやく子犬ショックから立ち直り今後の行動を模索し始めていた。

「兄さんのベットで寝る、寝るとき、寝れば、寝よう」

「志貴様のお手伝い、志貴様のお手伝い、子犬が一匹、志貴様が2匹…」

もうちょっと模索していた。

「あきはも遊びに行くといいのにな。さてと、こはくちゃん、あきはの今日のスケジュールは?」

「はいはい、今日は午前中は顧問弁護と「節税」の打ち合わせ、午後は軋間様とのお見合いとなっております」

「ふーんわかった。ぜんぶがんばるよ」

にこにこしながら引き受ける志貴、琥珀は続けて、

「秋葉様の補佐は普段は私が一任されております。細かなことは私が行いますので志貴さんは決断だけお願いします」

「わかった」

「では、顧問弁護士との打ち合わせに参りましょう」

客間に向かって志貴と琥珀は移動を始めた、すると秋葉と翡翠は、

「はっ、ここは…、翡翠。兄さんはどこ」

「う、うーん。子犬が、子犬が」

まだ居間にいるようだ。

「お待たせしました、顧問弁護士の九我峰さん」

「いえいえ、っと、その、今日の秋葉様はその、ずいぶんとかわいらしいですな」

百戦錬磨の九我峰といえどたすきをつけた半ズボンの志貴には戸惑いを隠せない、しかし地雷を避け巧みに会話を試みていると、

「うん、きょうはぼくがあきは!イヤ?」

琥珀はすばやく九我峰の後ろに回りこむと先のとがったものを首筋に押し付けると、

(あは〜、泣かせたら「あの」お注射しちゃいますよ〜)

「い、いえいえ、あなたのような方が秋葉様でうれしく思います」

とつぜんガマのように汗を流しながら精一杯の微笑み(不気味)を浮かべると、

「で、では、仕事のほうを…、この間お話したとおり余剰資産で「小麦粉」を買って稲川さんに卸せばかなりの利益が見込めます。あと重工部門で作った「走って玉を出す車」はお勝手口から別の国に運ぶと非常に財布が助かります…」

必死に事業の説明を始める九我峰。琥珀のオーダーは「分からないように説明すること」

もともと[遠野家」の暗部を預かる琥珀と九我峰でダイレクトに決める事柄なので秋葉すら預かり知らぬ仕事なのである。

いつのまにかうとうとし始める志貴だが、

「ぼく、あきはの代わりだもん。がんばるもん」

と、つぶやく声が聞こえるとさすがに二人も罪悪感を感じ始め、

「では、今日はこの辺で宜しいでしょう」

「ええ、ではいつもの口座によろしくお願いします」

そうそそくさと話を切り上げて打ち合わせはお開きとなった。

「うーん、あきはって凄いね。あんな難しいお話をいつもしているの」

「そうですね、志貴さんもがんばらないといけませんね」

「うん、がんばる」

元気いっぱいに答えるととてとてと再び居間に戻ってきた。

「あきは、ぼくはちゃんと1日あきはをやるから遊びにいっていいよ」

ようやく立ち直った秋葉は翡翠を正気に戻す琥珀に詰め寄ると、

「琥珀、九我峰と兄さんをあわせたの。どういうつもり」

「あは〜、志貴様は秋葉様の代わりにがんばってらっしゃるんですよ〜、邪魔したら泣き出しちゃいますよ」

「それにしたって、もうちょっと選ぶでしょう」

ひそひそと口論していると下からひょこっと顔を出した志貴は、

「あきは、こはくちゃんを苛めないで!ぼくが頼んだんだよ。それよりこはくちゃん、次は軋間さんとのお見合いだね」

「はい、志貴様。お見合いですよ」

とたんに秋葉と翡翠が目を見開き必死に止め始める。

「何を考えてるの、軋間は燃焼系でしょう。この兄さんを見れば火に萌えでしょう」

「そうです姉さん、燃焼系の軋間様が年少系の志貴様を前にして我慢できるはずはありません」

「でも志貴様は秋葉様の代わりがお望みですからね〜、ね〜志貴様」

話を振ってもらえた志貴は目を輝かせると、

「うん、ぼくはあきはの代わりにがんばるの」

「「でも」」

「ささ、お見合い会場へ行きましょうね〜」

琥珀と志貴が連れ立って応接間へと去ってゆく、秋葉と翡翠は満面の笑みを浮かべる志貴を止められずしばらく挙げた手を震わせていたがやがて、

「翡翠、軋間と兄さんが会えばどうなるか分かるわね」

「はい、秋葉様。おそらく燃焼系と萌えは化学反応を起こすかと、許されません、私の志貴様が軋間様に燃焼されるなど」

「…屋敷の前で叩くわ。サポートは出来る」

「やらさせていただきます」

秋葉と翡翠は壮絶な笑みを浮かべると屋敷の外へと軋間迎撃のため出撃する、そのころ応接間では、

「じゅる☆このケーキはあきはは我慢するんだよね」

「はい、秋葉様はお客様の前ではむやみに物をお食べになりません」

「じゅる、じゅる☆ぼくあきはの変わりだもん、我慢するよ」

「さすがですね、志貴様。もうちょっとの我慢ですよ〜」

(どうせ秋葉様と翡翠ちゃんが足止めしてますしね〜)

お預けプレイの真っ最中だったとか。

日も暮れかけた頃

「軋間さんこなかったね」

「ええ、なにか急用でもあったんでしょうね」

ほのぼのと応接間を出るとぼろぼろに焼けた服を着た秋葉と翡翠が玄関から入ってきた。

「はあ、はあ、なかなか、手ごわかった、わね」

「はい、暗黒、翡翠拳を、返されるとは、思いませんでした」

「あ〜、お帰りあきは。今日はたくさん遊んだんだね、お洋服がぼろぼろだよ。あ、そうだ。晩御飯の前にお風呂に入ったほうがいいよ。こはくちゃん、大浴場を準備してみんなで入ろうよ」

「はい〜、かしこまりました」

いそいそと大浴場の準備の為に出て行く琥珀、しかし残された秋葉と翡翠は、

「に、兄さん。いま何と仰いましたか?」

「し、志貴様。わ、私とお風呂に?」

「うん、二人とも家族だから。ぼくと入るの、イヤ?そうだよね。イヤだよね」

ぱたぱた床掃除していた尻尾は止まりしゅーんとうなだれる志貴に思わず流されて

「「入ります、入らせてください、ぜひ」」

「二人とも目が怖いよ」

結局おびえる志貴だったが、二人はさらにボルテージを上げて志貴を中心に喜びの舞を踊りだした、ちなみにこの舞は琥珀が戻ってくるまで続き、証言によると「焚き火の豚の丸焼きの前で踊る原住民のようでした、あは〜」であった。

「大浴場の支度が整いいましたよ〜」

「わかった、じゃあいくね」

「「いざ大欲情へ!!」」

やたらと盛り上がる翡翠と秋葉、そんな中志貴は、

「あ、その前に、ひすいちゃん、いつものお風呂セットおねがいね」

「かしこまりました、志貴様」

ぴくん、「お風呂セット」なる秘密に対して秋葉が反応すると、

「翡翠、お風呂セットとはなに?」

「はい、志貴様がいつもお風呂に入る際に使用なさっている、シャンプーハット、しみないシャンプー、ストロベリーのソープ、アヒルさん、水鉄砲などの7つ道具でございます」

「うん、すごくお風呂が楽しくなるんだよ。大丈夫、あきはにも貸してあげるね」

「あは〜、楽しみですね〜」

「そ、そうね」

「ささ、大浴場へ参りましょう」

すすすっと滑っていく琥珀。つられるように全員が大欲情へと姿を消していく…

「ひすいちゃん、シャンプーして」

「はい、志貴様」

「あきは、アヒルさんたのしいね」

「はい、兄さん」

「こはくちゃん、背中流してあげるね」

「あ、はい。志貴さん」

「あ、あの、兄さん、私も…」

「うん、流してあげるね」

「志貴様、私も…」

「うん、いつもみたいのでいいかな」

「はい、ぜひ…」

「あ、兄さん。私にもそれを」

「志貴さん、次は是非私に」

大欲情の中は三すくみとなり誰もがおなじサービスを要求し、志貴が無邪気に飛び回っていた。

3人は余すところ無く志貴のすべてを脳裏に焼き付けたが、志貴の手前、水鉄砲による攻撃が限界だった。

「ひゃあ、冷たいよあきは、やだ、そんなとこにかけないで〜」

対象はもちろん志貴であった。

身をよじる志貴の色気は尋常ではなくお湯で上気したほっぺたと相まって破壊力絶大であった。

入浴後は琥珀が志貴に対し「いつも秋葉にしている豊胸マッサージ」を試みたが秋葉、翡翠連合が阻止したとかしなかったとか。

ただ「1日あきは」としてはマッサージを受けられなくて大層不満なようで、ほっぺたをぷっくり膨らませて抗議していた。

ようやく入浴をすませて居間でお茶にしようとした時、一本の電話が入った。

電話は琥珀が受けて秋葉に取り次ぐのが習慣であったが、

「志貴さん、秋葉様の御学友の月姫蒼香様からお電話が入っております」

「え、蒼香から兄さんに?私の間違いではなくて」

「いえ、志貴さんを名指しでかけておられます」

「あ、そーちゃんだ。うん、わかった。みんなぼくの電話を聞いちゃダメだよ」

「「「そーちゃん!」」」

おどろく3人を尻目に電話へととてとて歩いていく志貴、もちろん3人が電話を盗み聞きしないわけは無く、居間のスピーカーからは大音響で内容が流れてきた。

「そーちゃん、こんばぁんわ」

「しーちゃん、こんばんわ」

「あのね、そーちゃんが言ったとうりにやったらあきはが喜んでくれたよ」

「そうか、言ったとうりだろう、あいつは楽しそうだったか」

「うん、お洋服が汚れるまで遊んでたよ」

「しーちゃんは妹思いだな。また困ったら電話しなよ」

「うん、そーちゃんありがとう、大好き」

「うん、わたしもだ、しーちゃん。あれも忘れるなよ」

カチャン、と音がして受話器は置かれた。志貴が居間へと戻ってくると志貴は何故か3人に正座を要求され事態の説明を要求された。

「兄さん、なぜ蒼香としーちゃん、そーちゃんなのですか。いえそれ以前になぜ蒼香と知り合いなのですか。私は引き合せたことは無いはずですが」

「志貴様、お困りになられていたならどうしてこの私にご相談いただけなかったのですか。私はどんなことでもお答えする用意がございますのに」

「あは〜、秋葉様のことなら私に聞くのが一番ですよ。私に御相談くださいな」

3人に囲まれ3様に攻められ涙ぐむ志貴、おびえる表情もまたかなりの物だが、

「そーちゃんはね、この前の日曜にぼくが町で道に迷ったときにね、おっきなダンボールに入って道を教えてくれる人がくるのを待ってたらきてくれたの」

「は、何を仰っているの兄さん。ダンボール?道を教えてくれる人?」

「秋葉様、志貴様は道に迷われるとダンボールに「迷い犬」とお書きになって道を教えてくれる人を探す習慣がおありです」

「たいていは翡翠ちゃんが飛んでいって拾ってくるのよね」

「うん、ひすいちゃんいつもありがとう。それでね、拾ってくれたそーちゃんに家までの道とあきはを喜ばせる方法を聞いたらなぜかこのたすきを作ってくれたの」

「な、なんですってー、蒼香が仕組んだの、ふ、ふふっ。蒼香、明日寮で寝れると思わないでね」

「蒼香様の御実家は比叡山におありです。焼きますか」

「だめだよあきは、友達とは仲良くしなくっちゃ、とにかくそれでね、あきはを喜ばせたかったんだけど、今日は楽しかった?」

瞳を閉じると今日の出来事が走馬灯のように蘇ってくる、軋間との死闘、子犬志貴、一緒のお風呂、マッサージ、待ちぼうけの朝…

「え、ええ楽しかったわ。兄さん」

「それなら良かった。じゃあ、寝ようか、ひすいちゃん、今日はみんなで寝たいな」

「は、わ、私ですか。みんなと仰いますとどのように…」

「だから、お布団を並べてしいてみんなで寝るの、あきは、ひすいちゃん、こはくちゃん、ぼくと寝るのイヤ?」

「「「喜んで!」」」

その後なにがあったかは謎に包まれている。だが、志貴の絵日記には

「あきはとひすいちゃんとこはくちゃんが「誰がぼくの右、左、上で寝るか」ずっと争っていた。

らんらんと目を輝かせてかぶさってくる3人は怖くって枕を濡らしちゃいました」

と書かれていたとかいないとか…