「とりあえず、琥珀さんと翡翠は何を言ったの?」

「志貴さんについての情報があまりにも拙いモノだったので少しだけ補足しちゃいました」

どんな補足だったんだろう・・・

「わたしは姉さんの補足に対する補足です。姉さんの補足は志貴さまがあの薬草を食べた事や朱い月さまにも好意を持たれている点など―――あと元男性である事です」

「―――絶対元に戻るんだ・・・」

「志貴さん志貴さん」

琥珀さんが真剣な表情で僕を呼ぶ。

「何ですか?」

「もう人生の半分近く女の子の姿なんですからそろそろ諦めては?」

「―――――うわぁぁぁぁんっ!!」

酷いよ琥珀さん!

 

 

 

 

 

 

────PA────

 

 

 

 

 

「そんな事よりも!志貴。本当に戸籍は男性のままなんですね!?」

「え?あ、うん。そうだけど・・・」

「それなら女性との結婚は可能と言う事ですね!?」

「まあ、そうだね。うん・・・男に戻る気充分だし―――あれ?」

何だろう。凄く、凄く空気が・・・・

「志貴さん。それはきっと魔法でも無理だと思うんですよ」

「何故!?」

「あの薬草で魂まで変質した可能性がありますから」

もの凄く真面目な顔でそんな事を言わないで欲しいんだけど。

「志貴。私はそのままが良いと心から思います」

シオンちゃんまで!?しかも心からって・・・

「存在そのものが奇跡な志貴さんですからニコポナデポは基本装備で一目見た瞬間に一目惚れ―――まさか志貴さんの眼はそういった機能まで!?」

うん。僕、怒ってもイイヨネ?

僕が動こうとした瞬間、

「愚姉を、制裁です」

翡翠ちゃんが先に動いた。

手にはモップ・・・・にしては柄の部分がメタリックな気が・・・

「一式・・・」

翡翠ちゃんは柄の先で琥珀さんの腹部を突き、くの字に折れ曲がった琥珀さんをそのまま上空に放り投げ、凄まじい突きの連撃を行う。

浮いてる・・・琥珀さんが突き上げられて浮いてる・・・

「翡翠!流石にアレは致命傷です!志貴も止め―――」

止めに入ろうとしたシオンちゃんを軽やかなステップで回避し、トンッとフロアを蹴った翡翠ちゃんはフルスイングで琥珀さんを払った。

あー・・・・うん。今の音は前にも聞いた事があるよ。確か折れてはいけないモノが折れる音だった気がする。

「琥珀!?」

シオンちゃんが顔面蒼白で壁に叩き付けられた琥珀さんの元へと駆けていく。

「志貴さまのお手を煩わせたくありませんでしたのでこちらで処理させていただきましたが―――二割ですね」

少し顔をしかめて言う翡翠ちゃん。

「え?二割殺しなの!?琥珀さんどれだけ打たれ強くなってるの!?」

「突き一撃でそちらの扉に穴をあける事ができます」

うん。琥珀さんまで人を止めたっぽい。

だってその扉って見た目は木製だけど真ん中に分厚い鉄板が入ってるんだよ?

そんな突きを初撃から数十発受けて二割ってどれだけ恐ろしいか・・・

「きっと琥珀さんなら至近距離から散弾を受けても平気な顔してそうだよ・・・」

「あの防弾割烹着で秋葉さまの盾となり至近距離から散弾を浴びた際、確かに平気な顔をしていました」

「防弾割烹着って・・・」

「しかし外見重視のため防弾、緩衝材もギリギリまで切りつめていたはずなのですが・・・更には防刃でもないのに何故貫けないのでしょうか」

―――え?翡翠ちゃん・・・もしかして刺し貫くつもりだったの?

「志貴さま。このモップの先は仕込みとなっていまして―――強く突くと刃が」

「ちょっ!?」

本当は二割どころか殺す気満々だった!?

「わたしの世界では翡翠ちゃんの攻撃はすべてご褒美ですよ〜〜〜!!」

「琥珀!?」

二割殺しどころかすぐに復活した!?しかも世界って!?

シオンちゃんも驚きのあまり固まってしまってるし・・・翡翠ちゃんは小さく舌打ちをしたような気が・・・

しかも琥珀さんは怪しげな動きをしながら近付いてくるんですけど?

ターゲットは翡翠ちゃんみたいだけど―――ってあれ?もしかして僕も対象に入ってる?

僕が少し横に動いたら琥珀さんの体の向きが少し変わった?

「・・・なにやら危険な雰囲気になってきましたが・・・いかがなさいますか?」

「・・・許可するから、琥珀さんを何とかして」

でないとたいへんな事になる気がする。

「今のわたしは翡翠ちゃんの責め苦バッチコーイです!どんな状態でも戦闘続行!戦闘不能になんてなりませんよ〜」

琥珀さんはすっごいイイエガオだ。

「では最も有効そうな精神攻撃二種類のうちの一つを―――槙久、愛の日記を朗d「ご免なさい翡翠ちゃんっ!!!それだけは・・・それだけはっっ!!!」」

え?愛の日記?

「あー・・・えっと」

「信じられない事に槙久さまはアレに対して何もしてはいなかったようなのです。GoロリータNoタッチと・・・日記のはじめに書かれています」

うん、見ない。全力で見ない。

琥珀さんも土下座してるよ?

「遠野槙久に愛された少女と書いて同人業界に・・・」

「よりにもよって同人業界!?止めて翡翠ちゃん!本当に止めてくださいっ!!!」

うわぁ・・・翡翠ちゃん、凄くイイエガオだ。

眼は笑ってないけど。

「仕方ありませんね・・・では、琥珀という男の子と言う事でいかがですか?幸いな事に絵描きはすぐに用意できるので問題ありません」

「〜〜〜〜〜!!!!!」

あ、倒れた。

「精神面はまだまだ弱いですね・・・これを説教部屋に連れて行きたいのですが、触れるとすぐに復活しそうな気がします」

翡翠ちゃんは心底嫌そうな顔をしてパチンと指を鳴らす。

ザッッ

屋敷の奥から見慣れない翡翠ちゃんっぽいメイドさんが二人翡翠ちゃんの前に傅いた。

翡翠ちゃん?うちにメイドって翡翠ちゃんだけだったはずじゃあ・・・

「姉さんが開発中のメカ翡翠に手を加えて作りました。対メカ翡翠の01と02です」

―――え?この二人、元はメカ翡翠なの!?

『お初にお目に掛かります。製造番号01と申します』

『マスター志貴・・・わたしは製造番号02と申します』

「え?名前は?」

『今はまだ完成と呼べる状態ではありません。完成した時に名を授けていただきたいと・・・』

二人はそう言って僕に深々と一礼すると琥珀さんを捕まえて梱包し、もって行ってしまった。

「今現在の時点でメカ翡翠5体と彼女等一人が互角に戦える程度ですが、完成すれば一人で10体は倒す事ができます」

・・・・・・僕、突っ込まないよ?

どこまで翡翠ちゃんの能力が高いの?とか、どうやって作ったの?とか、いつ完成したの?とか・・・

うん。突っ込みどころ満載だけど突っ込んだら確実に怖い回答が来るだろうから突っ込まない。

「志貴!今のは」

シオンちゃんが血相を変えて駆け寄ってきた。

「魔術と科学とメイド学の結晶です」

表情一つ変えずにそう言いきる翡翠ちゃん。

多分メイド学だけだと思う・・・なんだかそんな気がする。

「ワラキアの夜の影響?それにしては志貴が過剰な反応をしていないような気が・・・」

シオンちゃんがブツブツと呟きながら考え事してるし。

まあ、過剰反応って言うよりも、翡翠ちゃんなら何でもありな気がするから諦めているって感じかな。

あと、翡翠ちゃんも―――多分琥珀さんも世界から弾かれているような気がする。

琥珀さんの打たれ強さは既にアルクェイドさんを越えていると思うし。

―――今日は色々と疲れたな・・・主に精神的に。

細かい話は明日からという事にしてもらって僕は部屋に戻った。

七夜くんにバトンを回そう。うん。

――――七夜くん、大丈夫かな?変な事にはならない・・・よね?

 

 

「───そうか。志貴の反動がこっちに来るわけか・・・」

俺は息を吐く。

外は熱がまだ抜けきっていないものの、風が吹くとそれなりに心地良い。

まあ、そんな事は良いんだ。

部屋の窓から外に出て僅か数分で見知った奴と出会した。

「死んだはず───等とは言わぬ。潔く散れ」

俺が出会した相手とは―――ネロ・カオスだった。

「台詞を取った挙げ句・・・ずいぶんな言いようだな。さっき遇った時とは大違いだ」

「いや、今日は初対面だが?」

何を言っている?

「ふむ・・・やはりただ急成長したというわけではなかったか」

ネロは納得したように頷く。

俺の二重体と遇ったと言う事か?

「―――やはり気配は同じ。だが見た目や反応も可愛かったのでそうかと思っていたが、あの離脱、この私の追跡を振り切れるほどの技能、偽物ながら見事だ」

―――今、なんと言った?

反応が可愛い?

鳥肌が立ったぞ!?

「──ふむ。やはり身長も一二八ミリも違うな。ちぃっ・・・レア中のレア、ショタっ子ヴァージョンだったか!」

幼い俺の姿をした偽者が居ると?

いや待て。その前に此奴を何とかしなければ。

こんなキャラではなかったはz────いや、最後はこんな感じだったか。悪い方に目覚めていたような気がする。

嗚呼、本気で関わりたくない。