「協力って・・・・・どのような人なのか分からないのに協力といわれても」
『シオン・エルトナム・アトラシア────魔術協会三大部門の一つ、アトラスの次期院長と言われていた人物です』
「!?」
シオンさんが後ろに下がり、身構える。
「そう説明されても良く分からないけど・・・説明ありがとう」
どうしてそこまで知っているのかと聞くと恐ろしい答えが返ってきそうなので聞かないことにした。
────PANIC────
『これも職務です』
ハハハと苦笑する僕にシオンさんは警戒しつつも興味の目を向けてきた。
「あの、それで・・・その協会の人が僕に協力を要請するって・・・何?」
「───私は吸血鬼化を治療する方法を研究しています。そこで貴方を経由し、真祖の姫・・・アルクェイド・ブリュンスタッドの協力を要請したいのです」
「うーん・・・」
紹介なら構わないけど、本当にそれだけが目的なのかな・・・
「紹介するのは別に構わないよ。でも、何か他にも言いたいことがある感じがするけど・・・」
「えっ?」
「僕に頼みたい事ってそれだけなの?」
「・・・・・・・」
「あ、ごめんね。困らせるつもりじゃなかったんだ。ただ何となくそんな気がしたからなんだけど」
「いえ、確かに他にもありますが・・・その前に確認しなければならないことがあります」
シオンさんが更に半歩下がる。
『志貴さま、来ます』
彼女の声と共に僕は危機感を感じて体を動かす。
右足を軸に半身に動いて鉄扇を取って────って、え?
『戦闘モードに切り替わりました。全体強化を開始致します』
「う、そ・・・・そんな」
シオンさんが驚愕に目を見開いている。
放った投具を避けたからだけではなく、僕の服装が替わったからだと思う。
「すぐにこんな事になるなんて・・・これって必然なのかな」
『勿論です。志貴さま、今回はセキュリティレベル1解除での戦いなので相手を致命傷にさせることはありません。実験と思って動いてください』
「うん」
僕は鉄扇を開いて微笑む。
月は背後、力が全身に駆けめぐる。
「私は月影の現を守りし者、舞で良ければ相手になりましょう」
口から変な言葉が出てきたんですけど!?
『わたしが即興で考えました』
思考を読みとったのか彼女が思考を送ってきた。
何でそんな決め台詞チックな事をしなきゃならないんだ!!
心の中で叫ぶけど───あれ?シオンさんが動かない。
「・・・・・・・・・・」
呆然と、僕を見てるんですけど・・・可哀想な子を見るような目で見ているって訳でもないし・・・
「し、心理戦ですか・・・・・今貴方に攻撃されていたら私は間違いなく伐たれていました」
既に負けたようにガクリと膝を突くシオンさん。
何で?
「貴方の戦闘パターンを全て予測していたのに・・・まさか戦闘以外の手で来るとは・・・っ」
これって・・・
『闘わなくて済むというのは良いことです』
ナニガナンダカサッパリワカラナインデスケド
「完敗です。私の全てが貴方を傷付けることを拒む・・・」
「あの、せめて模擬戦だけでも・・・」
まだ実験も何もしてないよ・・・・
「し、しかし、その顔を、その足を傷付けたら私は・・・私は!」
狼狽えるシオンさん。
「式さんと実戦した方が良かった・・・」
『志貴さま、泣いたら負けです』
「ううう・・・・確かに闘わないことは良いことだけど・・・」
思い切りやれって言われた矢先にストップ掛けられたら誰だってこうなると思う。
『それよりも、彼女をいかがなさいますか?』
「え?いかがも何もどうもしないけど・・・あ、そうだ。今からアルクェイドさんの所に行く?」
「え!?アポ無しで伺っても構わないのですか!?」
「多分部屋にいると思うけど・・・居なかったら喫茶店に居るんじゃないかな・・・」
鉄扇を腰帯に差して息を吐く。
何だかモヤッとする・・・・
『アルクェイドさまと軽く手合わせされたらいかがですか?』
「あ、その手があった・・・」
「?何か?」
「何でもないよ。じゃあアルクェイドさんの所に行こう」
僕達はアルクェイドさんのマンションへと向かった。
「────居ない」
アルクェイドさんの部屋に行くと珍しく鍵が掛かっていた。
「居ませんね」
「喫茶店か・・・先生達の所に乱入しているのかな」
「先生というと・・・ミスブルーの所ですか!?」
「アルクェイドさんの所に顔出さないと先生達の所に乱入するから」
「・・・やはりそう簡単に会うことは出来ないということですね」
「うーん・・・・ちょっと待ってね」
僕は合い鍵で室内に入り、テーブルの上にメモを置いた。
「置き手紙しておいたから明日の夜には会えるよ」
「そうですか・・・では、明日の夜に」
シオンさんはそう言うと公園のほうに向かって歩き出す。
「そう言えばシオンさんはどこに泊まっているの?」
何となく聞いてみたら、シオンさんはビクリと肩を振るわせて立ち止まった。
「───まだ、決めていません」
何だか聞いてはいけないことを聞いたような・・・そんな固い声だった。
「そうなんだ・・・あ、ちょっと待っててくれるかな」
「どうかしたのですか?」
「うん、ちょっと思いついたことがあるんだ」
僕は近くの公衆電話へと走った。