パシンッ

扇を閉じて部屋を出ようとした僕を橙子さんが呼び止めた。

「何処に行くの?」

「ちょっと外で試してみようかなぁって」

「何を相手に?」

「相手は要らないよ。どんな事ができるのか確認したいだけだもん」

僕がそう言うと二人とも顔を見合わせて考え込んでしまった。

「アレは標的がなければ持ち主に返ってくるんじゃないか?」

「大丈夫じゃない?ナビがついているわけだし、服の防御力が有れば相殺できると思うけど」

――――なんか、凄く不吉な台詞が聞こえたけど・・・・

「あ、それと・・・・その扇を腰の部分に差したらスリット部分が隠れるように設計されているらしいわよ」

「え!?」

僕はすぐに腰帯の部分に鉄扇を差した。

 

 

 

 

 

 

 

────PA────

 

 

 

 

 

するとスリットが膝上10pくらいまで隠れた。

・・・・・本当に、どんな機能なんだろう。

「あ、でも動きやすい」

軽くジャンプしても蹴りを出しても全然普通に出来る。

先生と橙子さんが一生懸命下の方に目を向けているけど、

「絶対領域か!!」

「くうっ!あんなに動いているのにチラッとも見えないなんて・・・・・魔法!?魔法なのね!?」

・・・・・・うん。式さん、その硬く握った拳を変なことを言っている二人に振り下ろしてください。

僕のGOサインと同時に式さんが人誅を喰らわせ───

「甘い!」

「くうっ!?」

背後から奇襲した式さんの攻撃をブロックし、そのまま吹き飛ばした。

「式ッ!」

幹也さんが素早く式さんの背後に回り込んで式さんを抱き留めた。

────幹也さん、最近サポートに特化してきているなぁ・・・・

そんなこと思いながらも僕の手はドアノブに掛かる。

「じゃ、少し試しに動いてきてみるね」

「行ってらっしゃい。気を付けてね」

「うん。いってきます」

僕は頷いて部屋の外に出た。

 

 

 

屋上に上がるはずだったのに・・・・どうして僕は道を歩いてるかな・・・・。

部屋を出てボーっと歩いて階段をに向かう記憶もあるし、何故か下に向かって下りる記憶もある。

そんな事じゃなくて、どうして僕は下に下りたかが問題なんだ。

まあ、そこら辺歩いてすぐに帰ろう。

そう決めて再び歩く。

と、

『そこから先、敵エリア内です』

突然腰に差していた鉄扇がそう語った。

「ふにゃっ!?」

慌てて鉄扇を見ると、鉄扇の要の宝石部分が光った。

『自己紹介が遅れました。わたし、ナビゲートとしてこの扇に封印された人工精霊のカレイド・サファイアと申します』

扇の声が頭の中に響く。

女の人の声だった。

「え?あ、うん。よろしくね」

『貴方はわたしのマスター、遠野志貴さまで間違いありませんね?』

「うん。でも、様は要ら『志貴さま。わたしは職務に忠実でありたいと願っています』・・・はい。ごめんなさい」

どうしてだろう。良く知っている人に怒られているような気がしてならない。

「ナビゲートって事はこの扇の全てを知っているんだよね」

『はい。ですが今ここでご説明するには些か問題があるかと』

「え?どうして?」

『機能の説明だけで2時間は掛かります』

機能説明だけで二時間という事は、詳細や応用の説明で4〜5時間は越えるかも知れない。

「・・・・・僕、機能説明も耐えきれない」

『そのことを見越して全自動モードとしてわたしが存在しているのです』

良かった。何だか凄くいい人(?)だ。

「ありがとう」

僕は素直に彼女に礼を言うと彼女は『職務ですから』と少しはにかんだような回答をした。

『まず強化機能についてご説明致します。お召しになっている戦闘服は装着者の魔力に応じて防御力が上下する代物です』

「うん。紙にそう書かれていたね」

僕がそう答えると彼女は『その通りです』と答える。

『ただ、守ることに特化した衣服なので攻撃や身体能力上昇のサポートはこちらに任されております』

「身体能力上昇って?」

『まず、強化魔術による肉体強化や風を利用した高速移動が挙げられます』

「それって、反則じゃあ・・・・」

一応突っ込んだけど、考えてみたら死徒の人とか死祖の人達は強化しないと戦えないし、魔術師や魔法使いの人達も強化魔術を使っているわけで・・・

『相手はルール無用で襲い掛かってくるのです。本当に、反則だと・・・・思われますか?』

「ご免なさい。言いながらそのことに気付きました」

『分かっていただければ結構です。ところで志貴さま。前方の敵はどう対処致しましょうか』

そう言えば敵エリアって話をしていたっけ・・・・

「えっと、その敵って・・・・」

『敵意や悪意はないようですが、志貴さまに用があるのは確かです。尚、登録されている志貴さまのお知り合いではないようです』

─────どこまで有能な機能なんだろう。

とっても突っ込みを入れたい。

この扇にではなく、ゼルレッチさんに。

前方を見てアレ?と思った。

その人はどこかで見たことがある・・・・あ、昼間すれ違った女の人だ。

「あの、どこかで・・・・」

「!!!!」

アレ?僕を見て驚いて──────ああ、トンデモナイ格好だもんね。

「あ、あの・・・・・・」

その人はチラチラと僕を見ながら近付いてきた。

「こ、こんばんは。遠野志貴、さん・・・・ですよね?」

「うん。そうだけど・・・ゴメンね、こんな格好で」

「いえ、貴女が予測不能な人物だとは分かっていましたが、ここまで予測不能だとは思ってもいなかったもので・・・・」

女の人は顔を真っ赤にして俯く。

確かに敵意も悪意もないみたいだけど・・・・話が進まないよ。

僕は少し困ったけど、とりあえず確認することにした。

「あの、僕に何か用?」

その科白に女の人はハッとした顔で僕を見、

「危うく本来の目的を忘れる所でした。遠野志貴、私はシオン・エルトナム・アトラシア貴女の協力を求めにやってきました」

その女の人、シオンさんはそう言った。