そこはあまり入ったことのない部屋だった。

他の部屋は掃除はしているけどどこか事務的な雰囲気だった。

でも、妙に綺麗で手入れが行き届いている部屋だった。

「・・・・誰の部屋かな」

きっと先生か橙子さんの部屋なんだろう。

そう思いながらテーブルの上にあった箱を手にする。

―――確かに僕宛だ。

それを確認して箱を開けた。

そしてその中に入っていたのは・・・・・

 

 

 

真っ青なチャイナドレスと黒い扇だった。

 

 

 

 

 

 

 

────PA────

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

何を、考えているんだろう。

着なきゃいけないのかな・・・・・

とりあえず扇を手に取ってみた。

とても軽くて、シンプルな外見。

バッッ

開くと先の方が鋭くなっていた。

「えっと、鉄扇?」

それにしては軽い。

多分暗器の類なんだろうと思う。

これはありがたい・・・・・けど、

「うわぁ・・・・・・ちゃいなどれす」

何気にサイズもピッタリっぽい。

「・・・・着なきゃ、いけないのかな・・・一応、男なんだけどなぁ・・・・」

散々色々着せられて今更って気がするけど、精神的にこう言ってからじゃないと何となく負けた気がして嫌だ。

「・・・・・貰うだけ貰って着ないってのもアリだよね」

「志貴〜。ちゃんと着てお披露目するのよ〜」

「元帥から写真も撮るように言われているから逃げられないわよ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

退路が見事に断たれた。

「実はみんな僕のこと嫌い?」

泣きたくなった。

「早く着ないと手伝いに入るわよ〜」

「!!!!」

橙子さんのその一言で僕は急いで着替えた。

 

 

「恥ずかしいよぉ・・・・・」

太股の付け根辺りまでスリットの入ったこの服は絶対ズボンも付いていたと思う。

「不揃い品だからやっぱり止め・・・」

「「たーいむあーっぷ!」」

先生と橙子さんがドアを破って入ってきた。

「おい、志貴が困るだろうが!」

「ああっ!式ズルイ!」

「・・・と言いながら鮮花も入らない」

続いて三人もなんだかんだ言いながら入ってきた。

そして僕を見て、

 

 

 

時間が、止まった

 

 

 

二分、三分、五分以上経過してようやく先生と橙子さんが動き始めた。

出血を伴いながら。

「ごべ、じぎ・・・・・いあいずぎ・・・・」

「先生、鼻血鼻血」

「・・・・・・・・・・」

「橙子さん、拝まないで下さい」

「「「・・・・・・・・・・・・」」」

「どうして落ち込んでいるんですか!?」

「線が、見えないんだ」

「ふぇぇ?」

「神様って、居るのね」

「えええ?鮮花さん?!」

「何故だろう、涙が止まらない・・・・」

「もうどう突っ込みを入れて良いか分かりませんよ」

先生達はどんな僕を見ても暴走するから論外だけど、式さん達のその反応は少しおかしいと思う。

それはやっぱり僕のこの格好が変だから・・・・

「・・・・・早く写真を撮って下さい。着替えたいんです」

「「ええええええええええええええ?!このままずっと」」

「ヤです」

先生達の台詞を切り捨てて幹也さんの方を向く。

幹也さんはカメラを構えていた。が、

「・・・・・僕の格好がおかしいからってそんなに手を震わせなくても・・・・・」

カメラを構える手が小刻みに震えていた。

顔も真っ赤だし、そんなに滑稽な姿ならいっそ笑って欲しい。

これは罰ゲームだ。そう思いこんで撮影に臨む。

「いや!違うんだ志貴くん!それは誤解だよ!ああああ!お願いだから泣かないで!!」

しかし、幹也さんは本気で慌てている。何故だろう。そんなキャラじゃないのに・・・・・・

今日はみんないつも以上に壊れている気がする。

先生達はいつも同じくらいのハイテンションだけど。

深々と溜め息を吐いて大人しく写真を撮られることにした。

その後

撮影を終えて着替えようとしたら服が無くなっていた。

怒りに身を任せて暴れたいのをぐっっっと堪えてこの服のままでいることにした。

 

 

「――――先生。最近の妙な噂に関して何か情報はありませんか?」

「あるけど・・・今回は少し教えられないわね」

「じゃあいいです。橙子さん。教えて下さい」

「うわ酷っ!」

「・・・・だって変な要求されたら嫌ですから。橙子お姉ちゃんは優しいから意地悪して教えてくれないなんてないもん」

「そうだにゃぁ。志貴に隠し事をしないのが優しいお姉ちゃんの条件なんだにゃぁ」

志貴を抱きしめて鼻血をだしながら至福の笑みを浮かべる橙子。

その目は焦点が定まっていなかった。

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

式と幹也。そして鮮花さんが顔を見合わせ、

『とうとう壊れたか』

同時に、同じ台詞を呟く。

そして先生は

「莫迦姉貴・・・新しい人形は用意してあったかしら」

殺気を隠そうともせずにそう呟いていた。