最近、町では妙なことが起きていた。

変な噂が流れているし、その噂もどこからどのように発生したのかも分からない。

誰に聞いても「そんな話を耳にした」というだけ。

そのような噂があると認識はしているが、実際の所、その噂に出てくるような事実は確認できなかった。

茹だるような熱さで妄想者が噂を振りまいているのか、

それとも別の何かが関係しているのか分からない。

でも、

確かに異常だった。

 

 

 

 

 

 

 

────PA────

 

 

 

 

 

地面が太陽光を熱に変えて大気を更に熱くする。

外に出ると地面がホットプレートのようだった。

空気も掴めそうな程暑く、湿度も加わって実は固形化しているんじゃないかとまで思えてしまう。

道を歩く人は普段では考えられないくらい少なかった。

そんな中、僕は図書館へ向かっていた。

シエルさん、弓塚さんと三人で勉強をするためだ。

有彦も来たがっていたが、強制補習授業のため、暫くは学校通いは間違いない。

「暑いなぁ・・・色々変なことが起きているし、偶然にしては妙なことも一杯起きているよなぁ」

そんなことを愚痴る。

と、

「それは偶然ではなく、必然では」

見知らぬ女の人にすれ違い様、そんな突っ込みを受けた。

「・・・・・確かに。そうかも知れないなぁ。偶然を装った必然かも・・・」

でも、そうなるとなにやら良からぬモノが裏で動いているということで・・・それはとても都合の悪いことで・・・って、

「あれ?」

そう言えば、どうして知らない人に突っ込みを受けなきゃならないんだろう。

振り返ってその人を捜したけど、見つからなかった。

「まあ、ボケボケしている僕が悪い。うん」

きっとすれ違った人は僕がとても困っているように見えたからアドバイスをくれたんだろう。

弓塚さんとかみたいな優しい人タイプか委員長タイプなんだろうなぁ・・・・

ボーっとそんなことを考えながら図書館へと急いだ。

 

 

「暑かったぁ・・・・・」

図書館について一息吐く。

図書館は空調が利いていて涼しいが、利用者はそんなにいないようだ。

「─────あれ?」

シエルさんと弓塚さんがいない。

時計を見たが、時間はピッタリだった。

「・・・・ま、いいか」

いつもの場所が空いていたため、そこにカバンを置いて書架へと向かう。

勉強に使いそうな本を数冊持ってテーブルに戻るとシエルさんと弓塚さんが落ち込んだ様子で机に突っ伏していた。

「どうしたの?二人とも」

「財布落としたの・・・・・」

「わたしはお昼に食べようと思っていたカレーをこぼしてしまいました・・・・・」

「・・・・・どうしてこんなにみんな運が悪いのかな?注意散漫といっても限界があると思うんだけどな・・・・」

そう言いながら本を机の上に置く。

「良いですね遠野くんは。全くと言っていい程悪いことが起きないんですから」

「遠野くんは特別だもんね」

「・・・・ごく普通の生活しているんだけどな・・・・さ、勉強勉強」

何か、特別扱いはあまり好きではない。

それ以上無駄な会話をせず、僕達は勉強に集中した。

 

 

夕方前まで図書館で勉強をし、そのまま現地解散をした。

真っ直ぐ家に帰っても良かったけど、何となくお姉ちゃん達に会いたくなって迷惑と思いながらもお姉ちゃんに迎えをお願いした。

それから三十分と経たずにお姉ちゃんの乗った車が到着した。

「早く乗りなさい。志貴」

「?」

お姉ちゃんは何か慌てた様子で助手席に乗るように急かした。

僕はいつも通りに乗り込むとお姉ちゃんはすぐに車を出す。

でも、その運転の仕方はいつもより少し荒っぽく思えた。

「何かあったの?」

「・・・・少し運勢が下降気味なだけよ」

お姉ちゃんは僅かに顔を顰めてそう言った。

「お姉ちゃんまで運が悪いなんて・・・」

「私の他にもそう言うことを言った人がいるの?」

「うん。シエルさんとクラスメイトの弓塚さん。それと、秋葉や翡翠達もそんなことを言っていたような・・・」

「成る程。私達だけではなかった。と」

納得したように小さく頷くとお姉ちゃんはアクセルを少し強く踏んだ。

 

 

「し〜〜〜〜〜き〜〜〜〜〜」

事務所に着いた瞬間、先生がもの凄い勢いで出迎えてくれた。

「先生。その言い方アルクェイドさんみたいだよ」

「ぐ・・・・それは何というか、嫌な言われようね」

先生はため息を吐きながらも僕を抱きしめる。

「最近運勢が下降気味だから志貴のハグが足りないって気付いたのよ」

「何の因果関係もないと思うけど・・・」

「まさか!志貴を抱きしめると丹田の左斜め上11.4ミリ付近にある萌え回路が活発に動いて幸せが生み出されるのよ」

「・・・・・・・・・・・・・先生がそう言うなら先生の体の仕組みはそうなんだろうけど・・・」

「姉さんも事務所の連中もそうだと思うわよ?」

「・・・・式さんや幹也さんも?」

「幹也はカメラ等の映像機器にそれを搭載しているから抱きしめなくても幸せを生み出しているだろうよ」

橙子さんは眼鏡を外して眉間を揉みほぐしながらそう言った。

「あ、そうそう。志貴、爺様から小包が届いたけど・・・奥の部屋に置いておいたわよ」

「ゼルレッチさんから?」

「そ。早く開けてごらんなさいな」

先生はそう言って僕の背中を叩く。

「・・・・・?」

どうして先生がそんなに急かすのか分からなかったが、とりあえず小包のある部屋へと向かった。