「姉さん達がどこにいるか分かりますか?」

『恐らく人の集まる場所にいるかと・・・・しかし、多く集まっても場所が広くなければいけません』

「少々お待ち下さい」

翡翠は自室に駆け込むと三咲町の地図を手に取る。

『セキュリティレベル3までの使用権限を一時的に翡翠、貴方に委任します』

「ありがとうございます────ここに居る可能性はありませんか?」

地図を広げ、翡翠が指さした場所は、公園だった。

 

 

 

 

 

 

 

────NIC────

 

 

 

 

 

『公園ですか・・・可能性は高いですね』

「姉さんも愉快人間ですので思考と行動パターンは同じかと。それに、現在公園にはシオンさまが気分転換に出かけられています。

恐らくシオンさまを捕まえて何かしようと思っているのでしょう。急ぎましょう」

『その前に一つ。アレは愉快兵器です。真面目な人間が正面から組んだら間違いなく負けます』

「敵の術中に嵌る前にこちらのフィールドで叩けば宜しいのですね」

『出来ますか?』

「可能です・・・出来れば使用したくありませんでしたが」

翡翠はクローゼットを開けると茶色の外套を取り出した。

『これは・・・・・まさか!』

珍しく冷静さを欠くサファイアを軽く一撫ですると翡翠は外套を睨み付ける。

「志貴さま、一時間だけお暇を頂戴することをお許し下さい。志貴さまに仇なす者は全て敵・・・姉さんを、犯人です」

バサリ、と外套を羽織ると翡翠は自室を後にした。

 

 

「!?」

割烹着に頭巾といった珍妙な格好で歩いていた琥珀はビクリと体を震わせた。

『アンバーちゃん、どうかしましたか?』

「いえ・・・もの凄く嫌な予感が・・・・ルビーちゃんに感知能力はないのですか?」

『残念ながら無いんですよ。でも、不安な時は周りを明るく面白くすればいいのですよ』

「そうですねぇ・・・あ、そこのお爺さんの腰を治しちゃいましょう」

無駄に被害を増やしながら琥珀は公園に向かっていた。

そして、

『感知圏内に入りました。記憶したマップと照らし合わせるとやはり公園に向かっている模様です』

「・・・・・・・・・」

翡翠は小さく頷くと歩く速度を僅かに速めた。

その瞳はいつもの翡翠のものではなく、氷刀のように冷たくそして鋭かった。

「アレ?確か遠野の所のメイド・・・・・・・・・・・っ!?」

坂を下りた所で有彦が翡翠を見掛けて声を掛けようとしたが、その表情に何故か身の危険を感じて素早く身を隠す。

「おっかねぇ・・・・・遠野に限って何もないと思うが、いや、何かしたのか?」

通り過ぎていく翡翠をおっかなびっくり見ながら有彦はそう呟いた。

 

 

「ターゲット発見しましたよ〜」

公園に着いた琥珀はすぐに木陰で涼んでいるシオンを発見した。

『何をするつもりなんですか?』

「シオンさんを捕まえて愉快ロボを作ってご近所を征服しようかと」

『ナイスアイディアです。町内ですらない所がミソですね』

ニンマリと笑う琥珀にカレイド・ルビーは共感したような声をあげる。

「さあ、さっさと拉致ってキリキリ強制労働させちゃいましょう!」

片手にカレイドルビー、片手にカラフルな薬剤の入った注射器を4本構え、シオンに近付いた。

と、その足が僅か数歩でピタリと止まった。

「そこまでです」

琥珀の後ろに翡翠が立っていた。

「さっきの嫌な予感はやっぱり翡翠ちゃんだったのね・・・・今まではやられキャラだったけど、今日のわだじっ!?」

振り返って決め台詞をいおうとした琥珀に翡翠は容赦なくチョッピングライトをぶちかました。

そしてもんどりうった琥珀を、

蹴り上げ、宙に浮いた琥珀を、

蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る

何か叫んでいる琥珀に構わず容赦なく蹴るまくり、地面に落ちたら踏みまくった。

だがそれだけの猛攻撃を受けても琥珀はどこか幸せそうな顔をしていた。

『アンバーちゃん!?こうなったら・・・』

『翡翠、来ます!』

合図を送ったサファイアに答えるように翡翠は琥珀を指さし、

「お部屋をお連れします」

翡翠の囁きと共に空間が大きく歪んだ。

全ての感覚が途絶え、次の瞬間にはまったく別の所にいた。

部屋全体がなんとか見える程度の薄明かりの部屋。

窓はあるのにドアはなく、窓の外は何も見えない。

部屋はそこまで広いという訳でもなく、また狭い訳でもない。

『これは・・・固有結界ですか!?』

「完全にやられちゃいましたねー・・・・」

虫の息だった琥珀が自身に注射を打ち、立ち上がる。

『アンバーちゃん、この状況を打開するには』

「ええ、変身あるのみです」

琥珀は素早く懐からコルク栓のされている試験管を取り出すと地面に叩き付けた。

「てやや〜〜っ、マジカルアンバー第二形態、謎の中国人ミスター珍あ、る・・・ね」

「・・・・・・・・」

呼吸音すら聞こえない程の沈黙と絶対零度の視線が琥珀を貫く。

『こ、これは・・・・認めたくありませんが、滑っちゃいました?』

「み、見ないで・・・・お姉ちゃんをそんな目で見ないで・・・・・」

半泣きになっている琥珀を無視し、翡翠はおもむろにサファイアを構える。

「一撃のみ、フルパワーです」

『───了解。全強化及び属性認定・・・空間軸固定完了』

勢い良く鉄扇が開いた。

『まさか・・・わたしの出番はこれだけですか!?』

「所詮わたし達はいじりキャラの振りした弄られキャラなのですよ・・・」

泣き崩れた状態で何かを悟ったように呟く琥珀。

しかし、そう言いながらも袖の下では現状を打破出来そうな薬品を探していた。

「姉さんを、処刑です」

ついに判決が下された。

翡翠が足を踏み出した。その瞬間、

「でも、黙ってやられる訳にはいきませんよ〜」

『そうです!最後の攻撃は怖いですよ〜!』

最後の悪あがきか琥珀は持っていた薬品全てを翡翠に投げつけ、同時にカレイドステッキをかざした。

カレイドステッキが光を発し、その姿を変える。

『少々パワー不足ですが、生き物以外をジェノサイドしちゃいます!』

「やっちゃいますよ〜〜〜」

そう言いながら琥珀は引き金を引いた。

『燕返し・改、発動』

『多重次元屈折現象ですか!?』

銃口から発射された光弾と琥珀の放った薬品は、サファイアによる複数方向からの同時攻撃と強力な魔力の風によって全て琥珀に叩き付けられるように押し返された。

「これが戦力の差ですか!!」

『連邦の化け物ですか!!』

断末魔の叫びと共に凄まじい爆発が室内を揺らした。

「これは回収しておきます」

『本体共々あれだけのダメージを受けて壊れていないなんて流石と言うべきですね』

大爆発の中怪我どころか埃一つ浴びていない翡翠はボロボロになった琥珀から同じくボロボロになったカレイドステッキを奪い取ると、翡翠は壁に向かって歩き出す。

そして翡翠が壁に触れた瞬間、来た時同様に空間が歪んだ。

そこは公園だった。

何も変化はなく、誰も気にした様子はない。

時間すら経っていないのではないかと思う程、公園にいた人達に動きはなかった。

「───さて、屋敷に戻りましょう」

翡翠は何事もなかったかのように踵を返すと倒れている琥珀を無視して公園を後にした。

 

 

「あ、翡翠。お帰りなさい」

遠野の屋敷に戻るとロビーで志貴が出迎えた。

「・・・ただいま戻りました」

志貴の満面の笑みに翡翠は物理的にグラリと揺れた。

この外套を外すまでは自分はメイドではない。

とは言え、この不意打ちは予想外の破壊力を秘めていた。

「志貴・・・さま。この服は埃まみれなのですぐに着替えて参ります」

翡翠は志貴に一礼すると脱兎の勢いで部屋へと駆け込む。

部屋に入るとすぐに外套を外し、服を着替えて大きく深呼吸をして心を落ち着かせると志貴の元へと急いで向かった。

「志貴さま、これを・・・・姉さんがよからぬ事を企んでおりましたので回収しておきました」

志貴はカレイドステッキを受け取ると微苦笑する。

「ありがとう。無くなっていたからビックリしたんだ」

「それと・・・失礼ながらサファイアさまを拝借しておりましたのでお返し致します」

そう言ってサファイアも志貴に差し出す。

「うん。このステッキを取り返すのに必要だったんでしょ?ゴメンね。僕が動けなかったから・・・」

「いえ、勝手に拝借したのです。いかような罰も・・・」

「じゃあ、偶には翡翠って呼ばないで翡翠ちゃんって呼んでいい?」

「!?そ、それは・・・」

「駄目っていっても呼ぶからね。これは罰だよ、翡翠ちゃん。それと・・・二人ともありがとう」

慌てる翡翠に志貴は悪戯っぽく笑うとそう言いながら部屋へと上がっていった。

 

 

 

 

その一時間後、散策を終えたシオンが戻ってきて志貴の出迎えを受け、一騒動起きたことはまた別のお話。