「ふぅ・・・僕、一応男だけど、この体じゃ女の子だし・・・なかなか微妙なんだよなぁ・・・毎年」

自然と溜息が出る。

感謝の気持ちを伝える日としては良い日なんだけど、みんなががっついている様子を見ていると何だか物欲満載の日みたいだ。

「お前相手に勝った負けたは無意味だと分かっているが・・・・・・今年は例年になく多いな。つーか年々増えてねぇか?」

「言わないで・・・しかもみんなお返しは結構ですって書かれたカードが入っていたし」

好意を断るわけにもいかないし、中には「昔助けてもらいました」とかよく解らない事をいって見るからに高そうな包装のお菓子を渡してくる女の子もいた。

その気持ちは凄く嬉しいけど、量多すぎです・・・

 

 

 

 

 

 

PANIC

 

 

 

 

 

「志貴〜まだあるの?」

「あ、今はこれで全部かな・・・」

「じゃあこれ冷蔵庫とかに入れておくね」

「うん。お願いね」

僕はアルクェイドさんにお菓子やチョコがギッシリと入っているカバンを渡した。

「後でちゃんと取りに来てよ?」

屋敷に連絡するのもどうかと思って、アルクェイドさんに連絡を入れたらすぐ学校に来てくれた。

5分で来た辺り、変な噂が流れそうで怖いけど。

「ねぇ、志貴」

「ん?なに?」

「確か授業があるんじゃないの?」

「うん」

昼休みが終わる前まで僕は教室から動けなかったせいで、アルクェイドさんを呼ぶ事が出来なかった。

シエルさんが部室に置きましょうかと聞いていたけど、それはそれで新しい問題が出るので丁重に断り───アルクェイドさんを呼ぶ事にした。

でも、呼んだのは授業が始まる直前。

放課後で良いって言おうとしたらアルクェイドさんは電話を切っちゃって、仕方なく教室に戻って荷物を集めていたら・・・

「担任が授業に支障がでるから荷物を持っていって貰えって」

確かに、支障がでる程机の周辺にはみ出ていたから・・・・

「ふーん、そっか。で、わたしにチョコは?」

アルクェイドさんは頷いてその話を切り上げると、突然そう言いだした。

「日本では男の子がもらうんだよ?」

「志貴は女の子だよ?」

「アルクェイドさんも女性だよ?」

「志貴、わたしの事嫌い?」

「あう・・・・・・・・」

「最近のバレンタインって好きな人にチョコを贈るって習慣だよね?志貴は好きな人にあげないの?」

「あ、あうぅ・・・・・」

拗ねたような眼と口調でそう言われたら、どうしようもない。

せっかく後であげようと思っていたのに・・・・

でも、

「───アルクェイドさん。誰がアルクェイドさんに囁いたの?」

「え?囁く?」

「バレンタインの事とか、」

「ああ、シエルとかブルーが昨日うちに来てブツブツ言ってたよ」

犯人はすぐに分かってしまった。

「シエルは「遠野くんはわたし達にチョコをくれる気あるのでしょうかとか」、ブルーは「最近志貴の愛を受け取ってない」って」

「ふぅん・・・・・・・」

シエルさんは朝チョコを持ってきてたと言う事は、ただ嗾けただけだとして、

先生は・・・・・

「そっか・・・・先生は僕の気持ちをちゃんと理解してくれてなかったんだ」

去年もその前も僕は先生や橙子さん達にちゃんと感謝の気持ちを込めた贈り物をしているのに・・・

これに関してはバレンタインデーを使って日頃の感謝を込めて先生達にあげていた。

チョコレートは何だか気恥ずかしかったからハンカチとか時計とかそう言った形の残るものをあげていた。

そして、今年もちゃんと先生達のは用意していたんだけど・・・

僕はカバンの中から小さな箱を取りだす。

「───アルクェイドさん」

「ん?なに?」

「これ、アルクェイドさんにあげる」

「え?チョコ?」

「いつも色々お世話になっているから・・・って言っても先生とかみんなにあげようと思って用意していた物だからチョコじゃないけど」

「え?わたしにじゃなかったの?」

「これはアルクェイドさんにだよ。バレンタインデーは僕にとって周りの人に感謝の気持ちを形にしてあげる日だから」

「・・・・・」

アルクェイドさんはポカンとした顔をしている。

「要らなかった?」

「・・・・嬉しすぎてちょっと頭の中が真っ白になっちゃって」

「中身はオルゴールだから壊さないでね?」

「うん。帰ってから空けるね」

・・・何だか、アルクェイドさんフラフラしてるけど・・・・大丈夫かな。

「学校終わったらすぐにアルクェイドさんのマンションに向かうね」

「あ、うん」

アルクェイドさんは何だか上の空で僕の声に頷き、そのままフラフラと去っていった。