「着いたぞ」
「・・・ありがとうございました」
僕はいたたまれない気持ちでお礼を言って車を降り―――
「もう良いだろう・・・志貴」
お姉ちゃんの溜め息が聞こえたかと思うと僕の肩を掴んでお姉ちゃんの方に向かされ、
「?!」
思いっきりキスされてしまった。
PANIC
「んっ、はぁぁ・・・」
長くて深いキスのせいで頭の中が真っ白になった。
「全く・・・人の気も知らないで私を挑発したり勝手に落ち込んだり・・・気が狂うかと思ったぞ」
お姉ちゃんは少し怒ったような声でそう言って僕を抱きしめた。
「・・・ぇ?」
僕は何が何だか分からない。
「怒って、ない?」
「どうして志貴を怒る必要がある?」
お姉ちゃんの台詞に僕は落ち込んだ。
「───僕、嫌われたかと思ったんだよ・・・」
「そうか・・・すまないな」
「ひゃうっんっ!??」
お姉ちゃんの手が服の中に入ってきた。
「おおっ・・・ノーブラか!」
「お姉ちゃんのばかぁ〜〜っ!!」
僕は全力でお姉ちゃんの手を振り払って建物の中に逃げた。
「やわやわで・・・甘えた声の志貴・・・」
後ろで怪しい台詞が聞こえたけど気にしないでおこう。
僕は建物に入ってすぐに鍵を掛けた。
「あけましておめでとうございます!」
僕は事務所に入って鍵を掛け、そこにいたみんなに新年の挨拶をした。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・志貴?」
幹也さんも式さんも鮮花さんも何故か固まっていた。
ただ、先生だけがなんとか僕を認識してくれていた。
「はい・・・みなさんあけましておめでとうございます」
僕は先生にお辞儀をすると、
「「「・・・・・・いい」」」
幹也さん以外の三人が同時に呟いた。
───ちょっと馬鹿にされた気分だった。
「写真、良いかな?」
幹也さんはいつものようにカメラを構えて僕の返事も聞かずにシャッターを切りまくるし・・・
「ハァハァ・・・ハァハァ」
「ハイ。別に構いませんけど・・・えっと・・・鮮花、さん?」
僕は鮮花さんに近付いた。その瞬間、
ヒュバッッ
鮮花さんが尋常じゃない速さで僕に抱き付いてきた。
「!!!」
僕も咄嗟に思いっきり避けたため、
グジャッッ
鮮花さんは地面に突っ込んだ。
「ふぅ・・・危なかっあひゃぁぁぁっっ!?」
不意に背後から胸を揉まれて呟きが悲鳴になってしまった。
「志貴の胸新年初揉み♪」
犯人は先生だった。
「あっ、やだぁ・・・せんっっぁ、止めてください〜〜〜〜!」
必死に逃げようとしているのに幹也さんはお構いなく写真取っているし、式さんは顔を真っ赤にして口元に手を当てながらも目をギンギンにしてこっちを見ている・・・
つまりは助けてくれるつもり全くなし・・・
もう、もう誰でも良いから助けて〜〜〜〜!!
心の叫びと共に僕の意識はブレーカーがそうなったように落ちた。
ガクリと志貴の体が落ちる。
「!?」
青子はすぐに胸から腰の方へと手を回し、倒れないようにしたが、
「───さて、あまりからかわないで欲しいものですが・・・」
そこに立っていたのは七夜だった。
「しかし・・・切り替えが早いわね。気付かなかったわ」
「真祖の姫と機関第七位、それに橙子の助力の結果ですよ」
乱れた髪を手櫛で整え、微笑する。
「ぁぅ・・・」
青子の動きが完全に止まった。
「?・・・どうかしたか?」
「ぁ・・・」
顔を真っ赤にしてジッと七夜を見ていた青子だったが、急に壁に背を預けると上を向いて小さく呻く。
「・・・七夜君。その格好のせいだよ」
シャッターを切っていた幹也がため息を吐きながらカメラを置いた。
「着替えないといけませんね・・・志貴にはお似合いの格好だったけど、確かに俺だと不気味ですからね」
「「いや、似合いすぎ」」
式と幹也が同時に突っ込んだ。
そして床では、
「今年は超吉・・・」
何故か血の海の中で満足そうに笑っている鮮花がいた。