「これ、着るんですか?」
「はい!それはもう是非着て戴かないと!」
琥珀さんの強い推しに僕は小さく呻くことしか出来なかった。
「で、でも僕男ですよ?!」
でも完敗したくなかったので言うだけいってみる。
「でも肉体的には明らかに女性ですよね?」
「あうぅ・・・・・・」
「綺麗な黒髪にはこの衣装しかありません!」
───今日も完敗でした。
PANIC
「はうぅぅ・・・背徳度と悩殺度が高すぎですぅ」
琥珀さんは良く分からないことを言ってフラフラと後ろに下がる。
「綺麗です神々しいです処女性に溢れてます巫女巫女してます」
「嬉しくない。全然嬉しくないです」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
着付けを手伝ってくれていた翡翠が俯いて肩を振るわせていた。
「どうしたの?」
「翡翠ちゃん?翡翠ちゃんも志貴さんのこの姿にやられちゃった?」
何故琥珀さん基準な言い方なんですか・・・
「・・・はい。被爆、しました・・・・・・」
「「被爆?!」」
翡翠はその場にストンと座り込むと熱い視線を僕に送ってくる。
───いや、その視線の意味するものも分からないし、そんな視線を送られても、困る・・・
「志貴さん志貴さん。このオプションパーツを!」
琥珀さんがそう言って二つの者を僕に手渡す。
「お払いとかに使う棒と・・・何故竹箒?」
「わたし的には竹箒を胸に当たるように持って戴いたらもうっ!って感じです」
「良く分かりませんけど、こうですか?」
僕は両手でキュッと持ち手を握って胸元に引き寄せる。
「御降臨っ!!」
琥珀さんが良く分からないことを言って僕に跳びかかってきた。
「っ!!」
咄嗟に僕は竹箒で払おうとした。
その瞬間、
シュンッ
取っ手の一部が抜け、中から刀が出てきた。
「しまった!」
琥珀さんが狼狽えたその一瞬を見逃さず、
「閃鞘、七夜!」
抜いた刀を逆に持ち、琥珀さんを切った。
───峰打ちだけど。
「はうぅぅ、やられましたぁ・・・」
琥珀さんは勢い余ってかそのままベッドに突っ伏し、ダウンしてしまった。
「志貴様・・・今のうちに」
「あ、うん。じゃあ悪いけど先に下降りておくね」
僕はそう言って部屋から逃げるように出た。
「ね〜志貴まだ〜?」
「お黙りなさい・・・まったく兄さんはどうしてこんな得体の知れない者を招き入れるのか・・・」
「だそうですよアルクェイド」
「ぶーぶーいもうとおーぼー」
「お黙りなさい!───貴女もですシエル先輩」
「わたしですか?」
「アルクェイドさんといい貴女といい・・・まったく」
「秋葉。貴女も少し落ち着いた方が良い」
傍観していたシオンになだめられ、深々とため息を吐いたその時だった。
「遅くなりました〜!!」
バンッと勢い良く扉が開き、志貴が飛び込んできた。
その姿は神社の巫女が着ける衣服。
しかもその衣服自体絹織りのせいか薄く、下手をすれば体のラインが見えるのではないかという代物だった。
長い髪は先の方で綺麗に結われ、手には竹箒。
そして先ほどの戦いのせいか僅かに胸元がはだけていた。
「「「「──────」」」」
沈黙。
「あ、あの、みんな・・・?」
志貴はその沈黙に何か危機感を感じる。
「兄さん・・・」
「し〜き〜・・・」
「遠野くん・・・」
「志貴・・・志貴・・・」
「え?ちょっと、みんな、怖い・・・よ?」
僅かに後ろに後退する。
本能が『早く逃げないとヤられる』と告げていた。
しかし逃げ場は・・・
バタン
立った今翡翠と琥珀に閉められた。
「あ〜う〜・・・・・・こうなれば」
最後の賭に出る。
竹箒に手をかけ、息を吸い───
「閃鞘、七夜β!」
僕は一気に窓目掛けて駆けた。