何とか無事に授業を終え、のんびりと下校する。

有彦は洒落にならないほどボロボロになっていたけど・・・どうしてあんなに元気なんだろう。

実は有彦こそが死徒だったとか───無いな。うん。

交差点を過ぎ、坂道の前に立つ。

日は僅かに落ち、坂道を登り切る頃には綺麗な夕焼けの景色を見ることができるだろう。

ただ、そのまま帰って良かったのかな・・・

先生達がアルクェイドさんのこと見張っているから僕は来なくて良いって言ってたし・・・

早く七夜くんと交代してお仕事してもらわないとマズイよね。

 

 

 

 

 

 

PANIC

 

 

 

 

 

正直なところ、今俺が行けば余計厄介な事になる。

現在式さんと先生が真祖の姫を見ている。

守る気ゼロの二人だが、攻撃特化。

攻撃は最大の防御と言い切れる二人だ。

よほどの事がない限りは問題ないと思う。護衛対象も強いわけだし。

───と、現実逃避したくなる。

現状。目の前に件の変態が居る。以上。

屋敷に戻って着替えた後に志貴と替わって屋敷を出たら・・・即エンカウント。

しかも出会い頭に「貴様が私の恋人か!?」と聞いてきた。

「違う!馬鹿か貴様は!」と即答した俺は悪くない。

「貴様は男だろうが・・・その台詞は女性に言え」

「混沌達が・・・この屋敷のメイド共にトラウマを植え付けられて以降、獣達が女を見ると怯えるのだ」

獣達がトラウマになるほどの恐怖って・・・何をしたんだあの二人。

「あんな毒物は知らんぞ・・・食べると紫に変色して破裂する毒物とは・・・笑いながら斬撃を放ち、更にはそれを連発する始末・・・放った斬撃で混沌の盾を半ばまで削るわ気の抜けるかけ声と共に女の半径三メートル内にいた獣達が跡形なく切り刻まれたんだぞ!?あれは人か!?人なのか!?」

泣くなオッサン。気持ち悪い。

と言うよりも、何故トラウマを植え付けられた屋敷の周辺をうろついているんだ。

「そうか!姿が男だから男に忌避されるのだな!?ならば早速」

・・・ダメだこいつ・・・早く何とかしないと。

きっとコイツは頭の良い馬鹿だ。

突き抜けてしまって基本的な事を忘れている。

「女を見たら怯えるのならお前が女性の姿になった場合、混沌達は怯えないのか?」

俺の台詞に変態は「あっ」と小さく声を上げ、俺を見た。

「・・・・頭良いな」

・・・・脳まで混沌のようだ。

む?・・・っ!?志貴の意識が浮上してくる!?

待て!俺の視点から現状は分かっているはず・・・何故無理に───

俺の意識はそこで途切れた。

 

 

どうしてこうも七夜くんは運が悪いんだろう・・・僕が七夜くんの運を全部取ってるのかな?

このままだと七夜くんが拙い事になると判断した僕は代わる事にしたんだけど・・・

獣達。特に狼などは僕を見るなり尻尾を振って近寄ってきた。

───あれ?君達女性恐怖症じゃなかったの?

だから僕出てきたのに・・・もしかして、かなり拙い状態?

三十秒も経たないうちに僕の周囲はモフモフの獣で溢れかえっていた。

しかもみんな僕の周囲でくつろいでるし、撫でると凄く嬉しそう。

・・・・おかしいな。何でこんな事になるんだろう・・・

変t・・・ネロさんは呆然とした感じで僕を見てるし。あ、動いた。

「お前が私の初恋の相手か!」

「断じて違います」

即答した。

勿論即答したよ。

あ、僕の周りにいた獣達がネロさんに向かって唸ってる。

アレ?威嚇してる?

「お前達!?何故だ!我が混沌が制御できんとは・・・!?」

ネロさん困惑してるし。

ええっと、僕の周りには二十体近くの獣達がいてネロさんに唸っている。

あ、何体か合体した。

「お前達!・・・何故だ!何故・・・」

あ、失意体前屈してる。

周辺が暗いからそんな格好をしていると黒い塊にしか見えないんだけどなあ・・・

あ、コアラのモフモフ感癖になりそう。狼の毛並みもなかなか・・・

「ふっ、ふふふふ・・・・そうか。やはり私に女性は鬼門か!!」

なんか吹っ切れたっぽい。

「相転移どころか我が混沌の制御を奪い、思いのままに操るとは・・・協会の切り札か?それともこの国の組織か・・・どちらにせよこの場から」

「アルクェイドさんの時も撤退しましたよね」

ビキィッッ!!

あ、もしかして・・・禁句言っちゃった?

「なっ・・・舐めるな小娘ぇぇぇぇっっっ!!」

ネロさんは一気に混沌を自身へと集めて密度を増したかと思うと───突撃してきた。

混沌の鎧を纏ってのショルダータックルだ。

僕は慌てて横へと跳び退・・・

「志貴さまに───」

え?翡翠ちゃん、いつの間に───

「指一本触れさせませんよ〜」

琥珀さんも!?

僕の数歩前に突如として翡翠ちゃんと琥珀さんが現れたかと思うと、

「翡翠流、神気発勁掌!」

「琥珀流抜刀奥義・賀正帚星!」

突撃してきたネロさんに対して正面から何だか凄そうな技を打ち込んだ。

端から見れば黒い獣の弾丸に挑むには貧弱すぎるどころか直後に殺戮現場を想像してしまいそうだけど・・・

まったくそんな事はなかった。

琥珀さんの仕込み刀が混沌の装甲を切り裂き、翡翠ちゃんの掌打がネロさんを含め全てを吹き飛ばした。

「あ、アレ?わたしいらない子でした?」

琥珀さんがそう呟いてしまったのも無理はないと思う。

ネロさんかなり吹き飛ばされたし、力と力の拮抗なんて全くなかったし。

あと、翡翠ちゃん・・・攻撃した瞬間、手が凄く光ってたんだけど・・・

「あの、志貴さん」

落ち込んでいた琥珀さんが僕の肩を叩く。

「?」

「あの化け物、逃げてしまいましたよ?」

・・・うわ。やらかした。