「うわぁ・・・」

僕は机の上に置かれていた報告書を読んで思わず呻いてしまった。

変態注意。

結論はそれだ。

どこからでも侵入できる変態。ネロ・カオス。

愛を求めてこの街を彷徨っているって・・・怖すぎるんだけど。

うううっ・・・僕の周りの人が巻き込まれたら嫌だなぁ・・・

「ご心配には及びませんこの敷地に入ってくることはないかと思われます。獣達が本能で恐れ、入るのを拒むはずです」

───えっと、本能レベルの恐怖って・・・

 

 

 

 

 

 

PANIC

 

 

 

 

 

「怠い・・・」

教室に着いたら有彦が既に机に突っ伏していた。

と言うよりも、時間的にはかなり早く教室に着たのに有彦がいる事自体異常だと思う。

「おはよう。どうしたの?」

声を掛けてみたけれど有彦は呻くだけで反応すらしない。

よっぽどのことがあったのか、ただ単に徹夜明けなのか・・・

徹夜明けのような気がする。具体的にはイチゴさんと二人で麻雀とか。

「アレ?おはよう遠野くん」

弓塚さんが来たけど・・・あれ?弓塚さんもお疲れモード?

「うん・・・乾くん程じゃないけど。昨日見回りの際に変質者と出会しちゃったんだ」

え?変質者って・・・・え?見回り?

「黒ずくめのおじさんで、乾くんを見るなり「貴様が私の恋人か」とか・・・」

うわぁ・・・

七夜くん。ネロさんはどうやら斜め上を行く変態になったようです。

危険な変態から凄く危険な変態へクラスアップですよ。

「でも、どうして弓塚さんではなくて有彦なんだろう」

「一緒にいたペットたちがみんな怖がってたんだよ・・・わたし何もしてないのに」

女性恐怖症の獣達?

もしかして・・・翡翠ちゃんや琥珀さん、あとアルクェイドさんが徹底的に攻撃したから?

ありえそうだ。

「きっと女性恐怖症のペットだったんだよ」

「───うん。ありがとう遠野くん」

力なく笑う弓塚さん。

僕が出来ることはあまりないけど・・・

「いいか。世の中には上手い、下手、てつをと言うのがあってな・・・」

「これを早く直さないと周りが迷惑するよね」

訳の分からないことを呟いているこれを何とかしないと・・・

「遠野くん。偶に攻撃的だよね・・・」

そうかな?でも、有彦に対しては攻撃的でないと───

「その胸ゲット!」

ほら。こんな事してくる。

僕は有彦の手を弾くと同時に腕の内側を掴んで一瞬引き寄せ、そして瞬時に押し戻した。

ゴグッという音と共に肩を押さえてのたうち回る有彦。

うん。有彦だからこれくらいのレベルじゃないと更にカウンターしてくるし。

むしろ一撃で行動不能にまで陥らせなければ有彦はスキンシップと称したセクハラをしてくる。

もっとも───

「乾くん・・・今、遠野くんに何をしようとしたのかな?」

「あ、ぐ・・・・・っ、弓塚!?いtぎゃああああああああああ!!!!」

僕が一撃を躱した時点で弓塚さんやクラスの人達がいたら強制終了だけど。

「ねえ、この手?この手が勝手に動いちゃったの?いらないよね?こんな手」

「ちょっ!?どうして定規で机の端が斬れ・・・今掠ったぞ!?」

何だか琥珀さんと翡翠ちゃんのやりとりを見ているみたいだ。

「おはよーッス。何だ?乾、またやらかしたんか?」

「乾くんが遠野くんの胸を触ろうとしたんだよ」

「判決。私刑」

「ちょっ、お前ら!揉むだろ!?触りたくなるだろ!?」

「変態という名の紳士だとしても紳士は紳士!巫女や女神の胸に触れるなど言語道断」

「おまっ!その蹴りは人を殺せるぞ!?」

「お前なら仕方ない」

「登校そうそう私刑に遭遇か。ついてるな」

「その台詞おかしいだろ!?」

「あれ〜?ああ、またしでかしたんだ」

「高田!お前だけが」

「SHR少し延ばして貰うように言ってくるよ」

「高田ーっ!!」

何だろう。みんなすっごく仲が良いよね・・・・いいなぁ、僕も早く本来の姿に戻りたいなぁ・・・

 

 

普通に授業を受け、昼食になり・・・先輩が教室に来た。

「シエル先輩!?」

「おや乾くん」

あ、この人がシエル先輩なんだ。

「遠野さん。少しお話しがあるのですが」

「何ですか?」

「・・・・・あの、そんなに見つめられると・・・・」

やっぱり赤面症!?

「大丈夫ですか?」

「あ、う・・・・」

「───うん。シエル先輩を休ませてくる」

弓塚さんがそう言ってシエル先輩を連れて行ってしまった。

まあ、少し休ませて気を落ち着かせたら話できるようになるよね?

「遠野を見て赤面するのに俺はスルーですかそうですか」

有彦が何か言ってるけど、それこそスルー。

───結局、シエル先輩も弓塚さんもお昼の間に戻ってこなかった。

 

 

「弓塚のヤツ、まだ戻ってきていないんだが・・・」

「弓塚さんのことだから大丈夫だとお「遅くなりました!」・・・ほら」

「弓塚。遅刻だぞ?何かあったのか?」

「ええっと、先輩を保健室に連行したのと・・・ちょっとオハナシを」

「───そうか。いつものパターンなら仕方ない。出席扱いにしておこう」

え?いつものパターンなの!?しかも連行って・・・

「先生、遠野が混乱してます」

「何?では先生g──冗談だ、冗談。田所、岩見、弓塚・・・そんな殺気に満ちた目で見ないでくれ」

「───すみません。ぼーっとしてました」

「そろったところで授業を再開するぞ」

そう言って授業再開を宣言した矢先、有彦が挙手をした。

「先生」

「何だ?乾」

いつになく真面目な表情の有彦に教科担任は僅かに訝しげな顔をしながら発言を許可してしまった。

「遠野の胸を揉んで良いのは俺だけです」

教室内の時が、一瞬止まった。

「触った瞬間に切り落とすというのはどうかな?」

「・・・・・・・・・・これより29分ほど自習にする。尚、その間の事故や暴動については一切関知しない。あまり煩くしたり、壁や窓ガラスを破るなよ?まあ、俺も参加するが」

教科担任は手慣れた手つきで持っていたA5サイズの手帳に何か書き込む。

多分授業計画の修正だろうな・・・

あ、田所さんが今回は指揮をするんだ。ああ、すぐに逃げ場を封鎖された。

有彦は完全防御の構えかな?

え?壁を蹴って包囲網を抜けようとし───ああ、箒の柄で打ち落とされた。

壁を蹴るのと田所さんが指示を出すのは・・・指示が早かったような気がする。

あ、教科担任が乱入した。

僕は弓塚さん達に安全な教室隅まで誘導されながら今後の授業を心配した。