朝食を終えて学校に行く準備をし、身支度もすべて終わって・・・

翡翠ちゃんが全部手伝ってくれたおかげでまだ登校するにはかなり早い時間だ。

うーん・・・早く登校して教室でのんびり読書もいいかな?

僕は部屋の戸締まりをし、カバンを持って部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

PANIC

 

 

 

 

 

「どうして僕はこんな所にいるんでしょうか・・・」

そう聞いても良いと思うんだ。

家を出て、坂を下って、交差点に差し掛かった時、昨日のお姉さんがいて・・・

いきなり抱きついてきたからいつもの癖で投げちゃって・・・でもすぐに起きあがってきて、今度はしっかりと抱きかかえられて、あっという間にマンションの一室に連行されてしまった。

僕を抱えてあれだけの距離をあんなスピードで疾走できるって事は。やっぱり真祖のお姫様なのかな・・・

七夜くん、恨まれているのかな。

確かに七夜くんが殺しかけたから恨まれても仕方ないと思う。

お姉さんは何か言いにくそうにモジモジしているし。

「あ、えっと・・・」

うん。綺麗な人なのにこんな可愛い仕草されたら普通は理性が保たない。

まあ、今現在危機的状況にある僕としては襲いかかるとか、そんな事はありえないけど。

そういえば偶に先生もこんな可愛い仕草してくるなぁ・・・大抵がコスプレ要請だけど。

―――お姉ちゃんも同じだし。うん。やっぱり姉妹だ。

現状の把握と軽い現実逃避をしていたら、お姉さんが意を決したように僕に話しかけてきた。

「・・・貴女が、志貴で間違いない?」

――――はい?

何故僕の名前を知っているのかな?

―――ああ、ゼルレッチさんが前もって教えてくれたのか。

「ええっと、確かに志貴ですけど・・・」

「じいやがここに来たら真っ先に志貴と会うようにって」

・・・うん。やっぱりこの人が真祖のお姫様だと思う。

でも証明できるものがないし・・・困ったなぁ

「あの、じいやってやっぱり」

「魔道元帥、ゼルレッチって言ったら分かるかしら?」

「やっぱりゼルレッチさんかぁ・・・真祖のお姫様が近々来るから遊んでやって欲しいって書かれてましたけど・・・やっぱりお姉さんが」

「あ、うん。わたしの事だけど・・・遊んでやって欲しい?」

お姉さんが首を傾げた。

何か行き違いがあるのかな?

「それに、どうして僕が志貴だって分かったんですか?」

「会えば分かるって・・・うん。会ったときに分かったわ。貴女が志貴だって」

そう言ってお姉さんは柔らかな笑みを浮かべた。

うん。見惚れた。

やっぱりお姫様なんだなぁって・・・

「志貴?」

「え?あ、ごめんなさい。あの・・・えっとすみませんが、お名前を・・・」

そう言えば名前を聞いてないよ。流石にお姉さんって呼ぶのも失礼だろうし、だからといってお姫様って呼ぶのもちょっと変だと思うし。

「わたしはアルクェイド・ブリュンスタッドよ」

「僕の事は志貴と呼んでください。アルクェイドさんって呼んでも良いですか?―――やっぱりアルクェイドさま・・・の方が」

「アルクェイドと呼び捨てでも構わないわ」

僕の台詞にアルクェイドさんはどうでも良さそうにそう言った。

「んー・・・アルクェイドさんと呼ばせていただきます」

「――――試しに呼び捨てで呼んでみてくれないかしら」

何だろう。凄くワクワクしたような顔されてますけど?

「えっと・・・・アルクェイド?」

「―――やっぱりさん付けで良いわ」

「?はい」

うわぁ・・・なんだかガッカリした顔してるし。

「あと、貴女に会えば護衛にも会えるって言われたけど・・・護衛ってわたしに攻撃を仕掛けた彼よね?」

「・・・あの、ごめんなさい。七夜くんが迷惑を掛けて・・・本当にすみませんでした」

「う゛っ・・・いいのよ。実力も分かったし。それに・・・・」

アルクェイドさんは何故か顔を背けてしまった。

ん?もしかして、七夜くんに一目惚れ?よかったね、七夜くん!

あ、でも七夜くんは・・・・多分アルクェイドさんの護衛を引き受けない。

退魔衝動がいつ発動するか分からないし、前みたいに止める事は出来ない。

あの時は本当に必死で痛みとかそういったのを無視したけど――――――まさかそれのせいであの薬草の力が発揮されて・・・

血の気が引いていく。

「人格のスイッチで体があそこまで変わるって本来有り得ない事だけに負担が凄いのかしら。それならその姿でも問題ないわ」

「あの、僕戦闘技能なんてないです・・・」

「え?」

まさかといった顔のアルクェイドさんに僕は首を傾げる。

「だって、蒼崎姉妹の喧嘩の中、平然と本を読むような強者って・・・」

「えっと、確かにそんなことはありましたけど・・・気付かなかっただけで・・・強者って・・・」

一度だけ巻き込まれた事あるし、その時の事だと思うからまあ・・・否定はしないよ?

ちょうどその時ゼルレッチさんが来て大騒ぎになってたし。

僕のいたところが爆心地だったり、部屋の中の物がいつの間にかすべて外に出されていたり・・・式さん達がグッタリしてたなぁ・・・

本を読むのに集中しすぎて全く気付かなかったという恐ろしい話だけど。

―――状況から確実に一度は直撃を受けたって言ってたんだけど・・・僕も本も無傷だったし・・・分からない。

まあ兎に角、僕は自分の身さえ満足に守れていないし、人を守るなんて実力もない。

「僕は先生方からちょっと魔術を習っただけの一般人・・・・?ですよ?」

あ、でも―――

「そうだ。でしたら先生を「ブルーを護衛につけたら一緒に吹き飛ばされかねないわ」」

うわぁ・・・

「それならと「人形師は護衛には向かないわ」」

もしかして先生達、取り扱い注意マークついてるの?

「わたしは志貴が良い」

「あの、僕だと色々足手まといになりますよ?」

「ならないわ。だってわたしが志貴を守るんだもの」

 

―――――あれ?

 

なんだか自信満々に言い切ったけど、違うよね。明らかに台詞間違ってるよね!?

「ええっと、アルクェイドさんの護衛の話ですよね」

「ええ。そうよ」

「そこでどうして僕を守る必要があるんですか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああ!」

いや、ああ!って何!?今気付いたって顔されても。

しかも僕はどうしてベッドに腰掛けてアルクェイドさんは立ってるの!?

「間違っていたわ。わたしの志貴を守るのは当たり前!」

「この人も変だーーーーっ!!!」

「え?志貴はわたしのものになってくれないの?」

僕の叫びに対してアルクェイドさんはキョトンとした顔で首を傾げるし。

「僕は僕自身のものです!」

もちろん七夜くんも七夜くん自身のもの。でも、七夜くんは僕を甘やかしまくっているため、七夜くんはあまり外にでてこない。

七夜くん・・・もっと自由になろうよ。僕の事は良いから。

「そっかぁ・・・」

どうしてそんなに残念そうにため息を吐くのさ。

拙い。このままだと妙な方向に話が行ってしまう。

「あの、護衛が必要なら先生方以外にも知り合いにとても強い人がいますからその人に」

「護衛はいらないわ。志貴が欲しいの」

うん。スルーしよう。護衛の話しだし。

「誰にお願いしようかな・・・翡翠ちゃんか式さんか・・・流石にお父さんは忙しいだろうし・・・」

「わたしは志貴が良いの!」

「僕は護衛できるレベルじゃないです!」

「うーっ・・・・志貴と一緒にいたい・・・」

「会ってすぐなのにここまで気に入られたのって初めて・・・・初めて?あれ?」

あ、違う。先生達も似たような感じだったかも。

特に先生。アルクェイドさんと同じく初対面でいきなりキスしてきた気が・・・・・

「先生≒アルクェイドさん?」

「・・・・・・」

思わず呟いたらアルクェイドさんが泣きそうな顔になってしまった。

しかも失意体前屈してるし。

そんなに先生の事を嫌わなくても良いのに・・・・

兎に角、僕は早く学校に行きたい。

「話が進まないので続きは僕が学校が終わってからで良いですか?」

「え?志貴。どこかに行っちゃうの?」

すっごい寂しそうな顔しないでください。しかもその態勢で。その顔を見ただけで僕まで泣きそうになります。

ああぁぁ・・・・駄目だ。僕だと流されちゃう。

「―――さっき僕は学校に向かっていました。でもアルクェイドさんに拉致されてここにいるんですよ?」

「だって、志貴に会いたくて・・・あの後ずっと志貴の事考えてて、向こうで待っていたら会える気がして・・・」

「はじめは七夜くんに用があったんじゃないんですか?」

「彼に対する興味は戦闘技能だけ。貴女に会った時からわたしは貴女のすべてが知りたいと思ったし、今は他のことより貴女のことを優先したいの」

―――なんだか、もの凄く口説かれている気がしますけど?

「ええっと・・・・」

何と返していいか分からずに困っていたら、ドアがいきなり吹き飛んだ。

「ようやく見つけたわ・・・って志貴!?」

あ、先生が来た。

「何!?志貴がいるのか!?」

「流石志貴。早速目をつけられていた訳ね・・・」

「式さん・・・お姉ちゃんまで」

ナンダカトンデモナイコトニナリソウデスヨ?