翡翠ちゃんは結構目立つ。

結構じゃない。かなり目立つ。

みんなの視線を感じる。

でも、

「・・・・・・」

「「「「!!!!」」」」

翡翠ちゃん。睨みを利かせるのはどうかと思うんだ。

なんだか殺気も混ざった睨みのような気がするし。

あ、その手の人たち―――――全員視線そらした!?

しかも道を譲った!?

「力の違いを見せつければ問題はありません。あちらもプロ・・・実力はわかっているようです」

―――翡翠ちゃん・・・翡翠ちゃんが遠い存在に思えるよ・・・・

 

 

 

 

 

 

PANIC

 

 

 

 

 

お屋敷に着いて一息吐いてちょっと気になったことがあった。

「そういえば空から来たよね?」

「はい」

「・・・どうやって?まさか人間大砲?」

「いえ、姉さんに送ってもらいました」

「?」

送ってもらった?

ヘリの音はしなかったし―――

「緊急事態でしたので遠隔操作型メイドロボのプロトタイプに送ってもらったのです」

「???」

言っている意味がよくわからない。

メイドロボ?遠隔操作型?え?ヒューマンフォームロボットってこと?

「遠野の技術と姉さんのトンデモ科学を合わせた結果が遠隔操作型メイドロボです。今回はその中でも実験段階の飛行ユニットを着けたメイドロボに送ってもらいました」

いや、そんなことを言われても・・・

・・・え?飛行?ってことはやっぱり空から降ってきたわけで・・・・

考えないでおこう。高度何メートルから降ってきたかなんて。

「あと少しでメイド三大究極スキルの一つをマスターしますのでこのようなことは今後無いかと思われます」

何だろう。この漠然とした不安は・・・・

「志貴さまのために必要とあらば魔法すら凌駕してみせます」

「凌駕しかねない所が凄く怖いんだけど・・・」

「志貴さんお帰りなさいm「ふっ!」中段当て身っ!?」

うわぁ・・・走ってきた琥珀さんにそんな容赦ないことを・・・今の受け身すらとれな―――勢いよく頭からいかなかった!?

「おさらばです。姉さん」

「まだ、生きてますよ・・・・・・」

まあ、琥珀さんだし。

翡翠ちゃんとのやりとりで割と不死身っぽいことは分かったからそこまで驚かない。

でも勢いよく頭から床に落とすのはどうかと思うんだ。

「志貴さん、お弁当はいかがでしたか?」

普通に起きあがるし・・・ダメージらしいダメージもないような気が。

「あ、うん。みんなで食べたよ・・・ちょっと考え事してたからみんなの反応をちゃんと確認してないけど」

「いえいえ。喜んでいただければ・・・おかしいですね。誰か一人アタリを引いたはずなんですが」

アタリ?

「・・・琥珀さん?」

「実は一品だけ翡翠ちゃんの手料理が入っていたのです!」

「今回は薬膳で攻めてみました」

「攻めるって・・・」

「裏の薬草園から集めてきたので問題は―――姉さん?」

「はっ!?」

「裏の薬草園に何か問題でも?」

「えっと・・・・・・・・・・・一割ほど危険なものがあります」

「わたしは言いましたよね?あのラインを超えて妙なものを植えないようにと・・・」

「気が付いたらラインを超えていたの!移動植物もいるから!」

「「・・・・・・」」

有彦は大丈夫だとして、弓塚さんは大丈夫かな・・・

「一種類だけわからないものがありましたが、それ以外はすべてわかる薬草でしたので問題ないかと」

「翡翠ちゃん。今回使った知っている薬草のうち、一種類だけでいいから挙げてみて」

「マンドレイクです」

「それから挙げるの!?」

「・・・・マンドレイクって薬草じゃなくて毒草・・・・」

流石翡翠ちゃん。普通、マンドラゴラって言うのにマンドレイクって答える辺りポイントが高いよ・・・

どうしよう。それ以上に色々と拙い気がする。

「叫ばなかったの!?」

「抜こうとした際にモゾモゾ動いたので「植物なのに動くとはこれ如何に」と・・・そうしたら動かなくなりました」

「大当たりを引いた挙げ句問答形式で黙らせましたか!!」

「お姉ちゃんにあげたらすごい喜びそうだな・・・」

確かマンドラゴラって魔術とかに使われるものだよね?あれ?違ったかな・・・

「・・・志貴さん。本当に大丈夫なんですよね?」

「?僕は大丈夫だよ?」

ちなみに志貴さん。何段目を?」

「二段目を主に食べました・・・考え事しながらだったし、途中有彦が・・・・・・・・」

「志貴さん?」

「・・・・・・なんだか不思議なものを僕に渡したような?」

「「・・・・・・」」

二人とも凄く血の気が引いているんだけど・・・

「翡翠ちゃん。そのよく分からない薬草は実物を見たら分かりますか!?」

「もちろんです」

「志貴さん!手遅れかもしれませんが絶対安静です!すぐに対策を練りますから!!」

二人は凄い早さで勝手口の方へと向かっていった。

 

 

「兄さん?」

ロビーで騒いでいたから秋葉が応接間から出てきた。

・・・って、書斎や自室で仕事をせずに応接間で仕事をするのはどうかと思うんだ。

学業と平行してやっているのは凄いと思うけど・・・まあ、仕方ないのかな?

「あ、ただいま。なんだか僕絶対安静らしいから部屋で休んでるね」

「えっ?ええ・・・・分かりました―――絶対安静!?兄さん!兄さん!?」

僕は急いで部屋へと逃げ、素早く鍵をかける。

そしてそのままベッドに倒れ込んで・・・

「ぅあ?」

一瞬、視界が反転した?

遅効性の薬効にしては遅すぎない!?

それともプラシーボ効果?

だとしてもこの効果はおかしい。

効果も何も言われていないのにこんな反応をするなんて、僕って騙されやすい?

それとも僕って恐ろしく鈍い?

鈍感とか愚鈍とか言われたくないなぁ・・・もしかして陰で言われてる!?

微妙に余裕があるような気がしないでもないけど、それは僕が現実から逃げているだけで、実際は―――

「ぅあああ・・・・・あつい・・・・」

内側から湧き上がってくる力とよく分からない感覚に意識をもっていかれないように頑張っていたりする。

あ、そっか。修行だと思えばいいのか・・・瞑想でもしておこう。

僕は結跏趺坐をして琥珀さんや翡翠ちゃんたちが来るまで瞑想をすることにした。

 

 

「志貴さま・・・・神々しいです」

「結跏趺坐ですか・・・流石志貴さんです」

気が付いたら琥珀さんたちがいた。

「―――えっと、結局、薬の効果って」

「どうやら副作用も抜けているみたいなのに問題はなさそうですよ」

「副作用?」

「まあ何と言いますか・・・おめでとうございますとしか言えません」

「???」

「志貴さん。きっと不老不死になりました」

え?琥珀さん・・・・もの凄く真剣なんですけど・・・・?

「・・・・冗談は」

あ、目を逸らした。

何?もしかして翡翠ちゃんの知らない薬草ってかなり危険なモノ!?

「まあ毒は無いという事です。毒すらうち消す強力な薬草やオカルト系の人達が求めて止まないマンドレイクの本物を食べたのですから」

「・・・なんだか凄く怖いんだけど」

「気にしちゃ負けです」

「むしろ志貴さまに食べていただいたのは幸運でした」

え?

「でももしアレが本物だとしたら・・・」

まだ何か怖い独り言言ってますよ!?

「姉さん」

「なあに?翡翠ちゃん」

「黙れ」

うわ、酷い。

見事に落ち込んでいる琥珀さんを無視して翡翠ちゃんは僕に一礼すると、

「正直に申し上げますと―――一つだけ姉さんでも分からない薬草がありました。その薬草は今や一欠片だけになりましたが専門の研究機関に提出し、確認いたします」

「一応、見当はついているんですけど・・・本物をこの眼で見たことがないのでそうさせていただきますね」

え?本当にそんな危険なモノなの?

「危険なモノではありませんが・・・もし本物であれば薬効が強力すぎるので」

「どんな?」

思わず聞いてしまった。

「万能薬を超えます」

琥珀さん・・・・本日二度目の超シリアスな顔ですよ?

怖くなったのでこの話は強制的に打ち切ることにしよう。

「兎も角害はないんだよね!?」

「はい。全くと言っていいほど良いことずくめです・・・・・良いこと?」

「いや、何で疑問系!?」

「いざとなればこの翡翠・・・・何十世紀でも貴方のお側に・・・・」

―――お願いだからもうその話は打ち切らせて・・・・

オーーーン

「!?」

「・・・また来たようですね」

「昨日は逃げたのに・・・今度はお姉ちゃんが出る?」

「・・・そうですね。お願いします」

「ハイ、任されました♪」

琥珀さんはニパッと笑うと窓を開けてヒョイッと飛び降りた。

「志貴さま。今夜はゆっくりおやすみください」

「う、ん・・・・おやすみ」

翡翠ちゃんは窓を閉め、鍵をかけると一礼して出ていってしまった。

・・・うん。寝よう。

怖いことはすべて忘れよう。

食事もしていないけど全然お腹空いてないし。

今最も優先させるべき事は現実逃避。

うん。寝よう。寝るぞ!

僕はベッドに倒れ込み、目を瞑った。