「いょう遠野!朝早くから学校に来ている俺に胸きゅん?」
教室にはいると開け放たれた窓に座って訳の分からない事をいう馬鹿が居た。
「おはよう有彦。悪いけどこの窓から飛び降りてくれないかな?」
「うわぁ・・・・口元だけ笑ってて目は笑ってないデスじょ?」
ああ、朝から嫌なモノを連続で見ちゃったなぁ・・・
ため息を吐いて自分の席に着く。
「ちょっと機嫌悪くねぇか?」
「えっ?・・・・乾くんが、どうして・・・」
弓塚さんが教室に入ってくるなり愕然としている。
うん。その反応は正しいと思う。
有彦がこの時間ここにいるのを目撃したのと吸血鬼が朝から外を出歩いているのを目撃したってのはきっとイコールだと思う。
吸血鬼なんて見た事無いけど・・・・アレ?ゼルレッチさんって確か・・・・
PANIC
「遠野くん、どうしたの?ボーっとして」
「ん?あ、ちょっと考え事・・・それよりもおはよう、弓塚さん」
「うん。おはよう遠野くん」
弓塚さんはとても嬉しそうだ。
何が嬉しいのか分からないけど・・・
「そう言えば弓塚さんってうちの近くじゃなかった?」
「え?うん。そうだよ」
「僕が着いたらすぐに弓塚さん着たって事は・・・」
「さっちんストーカーか!?」
有彦の台詞に弓塚さんがビクリと震えた。
うん。この馬鹿彦の台詞は万死に値するよね。
僕は馬鹿彦目掛けてスナップを利かせた拳を―――
「ふっっ!!」
馬鹿彦がものすごい早さで僕の拳を後ろに避けた。
いつもならここで終わるけど、今日は赦さない。
「 」
「っおおおおおおおおおおおおおおお!?」
馬鹿彦が吹き飛んだ。
あ、でもそこは―――――さっき馬鹿彦が・・・・
「乾くん!?」
開いていた窓から下に馬鹿彦が転落した。
下手すると大怪我どころじゃないのに「っ風拳」とか何とか叫んでいた辺りきっと無事だと思う。
弓塚さんが血相変えて窓辺に行き、窓の下を見て「アレ?」って首を傾げているし。
きっとじゃなくて絶対大丈夫だと思
バタバタバタバタバタバタバタバタ
遠くから凄い勢いで走ってくる音が聞こえてきた。
そして一分と経たずにドアが開いて、
「気の極みですかこの野郎!何かブワッて拳の風圧が・・・まさか拳王さま!?」
なんだかとても混乱した馬鹿彦が教室に駆け込んできた。
「弓塚さんに言う事は?」
「偉いスンマセンでした。ストーカーは流石に言い過ぎだと反省しております」
僕の台詞に有彦は弓塚さんに頭を下げた。
「え?あ、気にしてないよ。それよりも乾くん、大丈夫?」
「普通の人にはボス系の技は出せなかったとです・・・だから咄嗟に受け身で何とか緊急回避成功したんだが・・・」
有彦ノイッテイルコトガマッタクワカラナイ。
あの高さで、なおかつ吹き飛ばされた状態で受け身を取って、弓塚さんが窓から見る前に起きあがって校内に入り込んだなんて―――
「有彦。人間辞めた?」
「打たれ強さと咄嗟の判断だけは誰にも負けねぇ!」
うん。有彦はきっと琥珀さんと同じ打たれ強さだ。
「それよりもだ!どうやって俺を吹っ飛ばした!?やはり拳王様か!?」
「拳王って・・・?」
「それともアレか!特殊コマンドで周辺の敵を吹き飛ばせるのか!」
特殊コマンドって何?
「えっと、乾くんの考えている事だからよく分からないけど、格闘ゲームとかの用語じゃないかな・・・」
あ〜・・・そうかも。
「っ!?」
「え?遠野くん、どうかしたの?」
「弓塚さん、どうして今僕の考えを・・・?」
「え?だって遠野くんが不思議そうな顔をしていたから・・・多分乾くんの言った台詞の中で分からない事があるのかなぁって・・・」
有彦が琥珀さんクラスならもしかして・・・・弓塚さんって翡翠ちゃんクラス!?
一瞬そう思ったけど、有彦が落ちた時、普通に驚いていたから違うかも知れない。
「うん。確かにそう思ってたんだ。弓塚さん凄いね・・・」
思った事を普通に口にしただけなのに弓塚さんは凄く照れていた。